運動はこころを救う
体を動かすと、なんだか心がスッキリした気分になりませんか? ――じつは、それ実際に脳がスッキリしている可能性があるんですよ。
心と体の関係性は、心理学や精神医学の創始から研究されてきました。なかでも近年の研究では驚くべきことが多数判明し、なんと定期的な運動をするだけで脳のありとあらゆる機能が改善されることさえ明らかになったのです。文字通り『ありとあらゆる機能』が、です。今回のお話は心に苦しみを抱えているアナタにこそ読んでいただきたいお話。ぜひ運動の有益さをみなさんにお伝えし、新たに運動を始めるきっかけとなればと思い、本日は『ジョン・J・レイティ』氏著作の『脳を鍛えるには運動しかない!』という本をメインとして参考にし、わたしなりの解釈をもってここで書いていきたいと思います。
軽く著者の説明もしましょう。ジョン・J・レイティ氏はアメリカのハーバード大学にて臨床精神医学准教授を努めていらっしゃいます。マサチューセッツ州ケンブリッジの地で開業医としても活躍していますね。教授として生徒や精神科医に教え、さらに研究者としても様々な結果を残しております。長年の研究にわたり運動が精神疾患に有効的なデータを集め、それを本として出版したのが『脳を鍛えるには運動しかない!』です。興味が湧いてきたら、ぜひみなさんもページを開いてみてください!
この研究から判明したことをざっくばらんにまとめてしまえばこうなります。『脳を鍛えるには運動しかない!』――いや、タイトルまんまやんってお思いでしょうがまさしくそのままなんです。そりゃあもう翻訳者はすごい的確な言葉にしたなと感動するくらいに。
じゃあいったいどんな感じに運動が効果的なんだ? って話を、これから具体的にお話していきましょう。
はじめに結論を述べてしまうと、運動することによって脳に『BDNF』が分泌され、それが脳のあらゆる物質と相乗効果をもたらし脳の活性化を促すというもの。BDNFは日本語に訳すと『脳由来神経栄養因子』となり、読んで字の如く、脳の"栄養"としてフルに働いてくれる物質です。
さて、みなさんは"脳細胞(ニューロン)"といえば『大人になったら減少し続けるだけで、新しく増えることはない』と教わったのではないでしょうか? たしかに、脳細胞は子どもの時から減少しはじめ、数としては減っていくという認識で正しいかもしれません。しかしこれにはちゃんとした事情があるのです。
生まれたばかりの子どものニューロンはまだまだ成長を続けます。そのまま数を増やしていき、3歳時ごろまではニューロンの数は伸び続けています。しかし、それ以降はある変化が訪れます。
増えたニューロンは、ある時期からそれらを『整理』し始めるのです。脳には『可塑性』というものがあり、新しいことを記憶する時、ニューロンがまさに"カタツムリの目玉のように"にゅっと伸びて別のニューロンにくっついていきます。そして回路が完成し、そこに電気信号が渡るようになって新たな記憶の形成がなされます。子どものころは毎日たくさんの刺激を受けどんどんその回路を伸ばしていくのですが、3歳以降の脳は、こんどは使わなかったニューロンを『間引き』して数を徐々に減らしていき、使っているニューロンの回路を伸ばしていく作業へとシフトチェンジしていくのです。
ようは取捨選択ですね。
脳は使っているニューロンだけを残し、それらを利用して新たな回路を作ったり、あるいはいらない記憶の回路を消していきます。子どものうちはこういった機能がどんどん働いており、さらに"記憶のしかた"も大人たちのそれとは異なるので、子どもの頃に覚えた記憶や動き、働きは大人になってもずっと『土台』として残るとされています。一時期流行ったような幼少教育みたいなものが流行ったのはこういった経緯があるからですね。まあ、子どものころにやったからあとはやーらないってなった場合の効果はよくわかりませんが……。
これらのことからなんとなく察しがついたかもしれませんが、実は勉強をすることで脳が活性化して、より物事を記憶できるようになります。日々仕事に追われてそんな余裕はないという方でも同じです。読書をして知識を溜め込もうとすると脳が活性化し、日々の生活のパフォーマンスも向上します。それはある意味『筋トレ』に通じるものがありますね。筋トレをすることで筋力はアップしますし、そのおかげで日々の生活の動きに疲れを感じなくなります。このように、とにかく『脳を鍛える』には勉強も素晴らしい手段と言えるでしょう。
しかし、運動にはさらに良いことが起こります。前述したBDNFが脳内に放出されることで、なんと『ニューロンの新生』が起こることが発見されたのです。
ニューロンの新生。それはいったいどのような意味をもつのでしょう? ニューロンはいうなれば『ハードディスク・SSD』みたいなものです。人間がありとあらゆるものを記憶するための箱であり、その記憶には知識や教養などはもちろん、運動するときに体をどう動かせばよいか? とか自分の体がいまどのような姿勢でいるのか? とか、あるいは耳の聴こえ方、目の見え方、あるいは心の平穏など――脳にはありとあらゆる機能がミッチリ詰まっているのです。
BDNFによるニューロン新生は『海馬』と呼ばれる領域で発見されました。脳についてかんたんに説明しますと、脳を球体として考えて、まず外側と内側で請け負う機能が異なります。脳の外側は人間の機能や理性などを司る領域。そして内側は本能や生存戦略に必要な領域です。その内側、いわゆる『大脳辺縁系』と呼ばれるそこに存在するのが海馬です。
海馬は人間の『記憶』を司る領域です。様々な外からの刺激や経験を記憶し、場合によってはそれをずっと覚えているか、または忘れてしまうかを判断して処理する機関で、この機能がなければ人間は『記憶』という能力を行えません。つまり、これから学習することが全くできなくなってしまうのです。当然ながら、そこにあるニューロンは貴重な役割を担っていますよね?
老化や日々のストレスなどで心の調子を崩すと、この海馬に異変が起こります。ストレスに悩まされていて、もしかして物忘れが激しくなったという方いらっしゃるのではないでしょうか? ――滅多なことは言えませんが、激しく心を消耗すると海馬にダメージを受けてしまいますので、そういった覚えのあるかたはぜひ『運動』の習慣をもってください。体を動かすことで脳内にBDNFが分泌され、海馬のニューロンが新生し正常にもどるかもしれません。
運動することは日々のストレス解消につながると言いますが、それは実際にストレスを逃しているからです。人間はストレスを受けると『闘争逃走反応』という状態に入ります。専門的な言い方では『急性ストレス反応』なんて呼び方もありますね。この時脳内では様々な『神経伝達物質』が分泌され、例えば『アドレナリン』などが増えるので体は興奮していきます。しかしストレスを司る物質も増えてしまうので、そのままにしておくのは非常に危険です。
そこで『運動』ですよ。アドレナリンが出ているってことは、思いっきり動けるってことです。細かいことが彼の著書にダバダバと書かれていますがそれらをすべて紹介するのはさすがに情報を詰め込めすぎなので要点だけを説明すると、そういうストレスは『ストレスを受けた状況』をより記憶しようとして、さらにもともとあった記憶を消し去ってしまう場合があります。さらにストレスを受けた状態を維持しているとニューロンが次々と刈り取られていき、でもストレスで受けた『恐怖』だけはしっかり学習したいという、弱肉強食を生き残らなければならない生物故の機能が邪魔をしてそれだけはしっかりと覚えてしまう。
この状態を脱するために運動しよう。幸いにもストレスを感じたときにはアドレナリンが出て動きやすくなるので運動のきっかけにはちょうどよい。著書に例として示された方の話では、常に縄跳びを常備して、ストレスを感じたときはすぐ縄跳びでジャンプしまくっていたと言います。ストレスを感じたとこにいち早く察して運動をすることで、ストレス反応の物質より多くのBDNFを始めとした栄養因子を放出することで、脳に害ではなく恩恵を与えていくのです。運動をすることによってストレスに対する抵抗値も上昇し、生半可なストレスにさらされても脳はビクともしなくなりますよ!
具体的にどのような運動をすれば良いのでしょう? もしかしたらボディビルダー顔負けの筋トレをしなければいけないとか? ――ご安心ください。そこまでハードなトレーニングを強要するほどわたしも著者も鬼ではありません。やってほしいのは『定期的、一定量』の運動です。
著書の内容では、会社の昼休み45分から1時間のエアロビクスを行うだけで効果があるようです。ほかにも30分から1時間程度のウェイトトレーニングやヨガも効果があるようですね。運動をすることで脳の状態もよくなり、仕事においてはよく同僚と連携がとれたり、自己の時間管理能力なども上がったというデータもとれました。
1時間も運動の時間をつくれないという方は、とりあえず週に2回、それぞれ30分以上の運動に加え、毎日ラジオ体操をする習慣をつけることからはじめてみましょう。こうするだけでも生活習慣病になりにくくなるようです。
現代人は大昔の人類より長い平均寿命を誇ります。しかし、普段のストレスや心の状態はそうでもないようです。大昔の人類のように運動をする習慣(当時の人類は強いられていたのですが)をつければ、きっとよりよい人生を歩むこともできるでしょう。
アナタの心身がともに健康であることを祈ります。
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