心理学という"科学"
以前の投稿で、心理学は『科学』なんだよと記述しました。科学は適当な思想や思考にとらわれることなく、実験的手法を通して客観的に結果を出し、データを集計して統計などを作り浮かび上がった事実のみを考える世界です。それを今回はもうすこし深く説明していきましょう。
心理を学問にするに際し、みなさんは日常生活のなかでなんとなく感じる『心理学』というものがあるのではないでしょうか? 相手の表情や言葉で(なんかウソついてない?)と感じるなんて経験は1度や2度ではないはず。つまり、人間はもともとある程度心理学を学んでいるとも言えます。なんてったって人の心理についての学問ですからね。
しかし、心理学者はそういったある種の『当たり前』にも疑いをかけます。というのは、人間の心というのは複雑なので、その心理が現れる理由――つまり(ウソついてる?)と疑う心が本当に"相手の表情や言葉から判断している心理なのか?"という疑問を持っているのです。人間は思い込みをする生き物で、学問として科学するためのデータを『常識』というフィルターを通して観察してしまうと思わぬ過ちを犯してしまう可能性があります。なので集められたデータをキッチリ仕分けして、ある疑問に対するデータが数字で現れるようにしなければいけないのです。統計はまさしくそれを客観的に判断させてくれる材料といえるでしょう。ですから、心理学を学ぶ方はまずはじめに統計学の基礎を学ぶことになります。
上記の例を研究対象にしてみましょう。科学的に追求する場合はまず『仮説』をたてます。この場合は『人間は、相手の表情や言葉でウソかホントかを見極めているのではないか?』といった内容になるでしょう。仮説を立てたら、次はその仮設を証明するための『実験方法』を模索しなければなりません。実験心理学ですね。
実験の手法としては、まず多くの実験参加者を集める必要があります。数十人集められたら、それらの方に心理学の実験をしていくことになるのですが、ここでひとつ注意が必要になります。
人間って不思議なもので、これから「心理学の実験です。あなたの心を分析します。どうかリラックスしてください」なんて言われてはいそうですかとリラックスできるものじゃないんですよ。それはみなさんも経験的にわかってると思いますが、心理学の研究の世界では、まず本来の心理学的な目的は隠して別の実験として参加してもらうことが多いようです。まあ、いわゆるひとつの『ドッキリ』ですね。
こういうときのダミーの実験内容は、とりあえず適当な男女交流会とでもしておきましょうか。実験参加者が全員男性の場合だと性別というデータが偏ってしまいますから、できれば男女の数や年齢層は平均化しておくべきです。
”必要なデータ以外はなるべく平均化しておく”というのが統計学の鉄則です。
で、参加者のなかにシレッとサクラを仕込んでおくのです。実験に参加する際、他のみなさんに紹介しておくプロフィールに嘘の情報を書き込んでおいて、その嘘がバレないようにしてね、みたいな。まあ、協力者でなくても良いです。適当な参加者のうちから個別に声をかけて「アナタはこんな感じの役割をしてね」って実験者が言ってくるかもしれません。嘘の内容はまあ、ある程度気付けるレベルであればなんでも良いでしょう。たとえば『男と偽って実は女』でも良いし、その逆もしかり。年齢をサバ読んでるなんてのも良いですね。
なんにしても、これで実験開始です。男女が交流してダベッている間に実験者はどんどんデータをとっていきます。で、仕込んだサクラがある程度全員と交流を終えたら実験者がきてつまるところの『ネタばらし』。実はこのメンバーのなかにウソつきがいまーすっつって、ある人が「ああ、やっぱりあのひと嘘ついてたんだー」なんて言った瞬間に実験者は獲物を捕らえる目になりますわ(笑)。
そしたらその人に質問開始です。どんな瞬間に"嘘"を感じたのか、どういうしぐさで確信に至ったのか、そこにハッキリとした根拠があったのか……別室にご案内してアンケート用紙に記入を願うでも良いでしょう。こうして心理学の実験と思いもよらなかった方々の生のデータを集めることができます。
ああ、これらの実験方法はわたしが即興で考えついたものですので実際の心理学研究とは異なる場合があります。ですが、少なくともドッキリ方式で本来の目的を隠すとか、サクラを忍び込ませて実験のアシストをさせるってことはよくやるのでそのときはみなさんも気をつけてくださいね(何が?)。ついでにいうと、昔は結構過激な心理学的実験も行っておりましてわりと社会的問題にもなっておりました。気になる方は『スタンフォード監獄実験』でググってみてくださいな。
さて、データを持ち帰ったらこんどはそれを『統計』にかけましょう。年齢、性別などのデータを整理して数値化し、さらにどのタイミングで嘘を見抜いたかとか、見抜けたかどうかは関係なく嘘を疑った瞬間の出来事なども記入できると良いでしょう。こういう場合はあらかじめサクラに「〇〇と聞かれたら〇〇と返して」とか「ある程度の会話時間が経ったら移動して」のように指示されていたりします。その返答をした瞬間に嘘を感じた人間が何人いたかも数値化しましょう。例えば嘘に気づくまでの時間とか、嘘かどうかを疑う質問をするまでの時間とか……選択肢はたくさんあります。
嘘に気づくまでの時間なんかは良い統計がとれそうですね。早く気づく人、そうでない人と様々でしょうが最終的に"山"のような形のグラフができあがる可能性が高いでしょう。その山のてっぺんが、この実験でわかる『人間が、相手が嘘をついていると気づくまでの時間』となります。もちろん、この実験だけを通して得た推定の結論ですから個人差があるでしょうが。
ああ、当初の目的ってなんでしたっけ? ――そうそう、相手が嘘と確信するための根拠はなにか? って話でした。となると、今回の実験手法ではいまいちわかりづらかったかもしれませんね。ということで、次はより目的に近づくための実験方法を追求していくことになります。こんな流れでより実験の精度を高めて実験者が知りたい事実を突き詰めていく……科学の道は果てしない。
ちなみに、上記のようなデータはさらに分析して『論文』として発表する必要があります。表舞台に登場した論文は、他の研究機関や学者の目に留まった場合『追試』といって『全く同じ条件で同じ実験をした場合どうなるか?』というテストをされることになるんですね。これは世界的に注目を浴びた実験とか、衝撃的でこの結論が正しければ世界が1周するくらいの影響を与えるといった内容に関しては頻繁に追試が行われます。場合によっては『その実験内容が本当に正しいのか?』といった実験の手法自体をテストする場合もあったり『メタ分析』といって複数行われた同じ実験を集計しさらに精査を重ねるという大規模な検証をする場合もあります。それらの研鑽を重ねた上で、現在の科学が成り立っているのです。
心理学は断固として科学です。なので、心理学者はべつに人を見ただけで相手の心が読めるとか、そういったスピリチュアルな人間ではないってことを知っておいてください。ってかね、人間の心って複雑なんですよ。さんざん研究を重ねてテレビでメンタリズムなスーパーマジックを披露してきたあの『メンタリストDaiGo』さんだって周到な準備や事前のデータ集め、そして現場で相対した時の"くずし"をしなきゃわからないんですから、もうアナタのことはすべてしってまースとか抜かす輩はペテン師か頭がおかしい人と割り切ってしまったほうがいいんじゃないかと思う今日このごろ、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
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