タイムスリップ 小学生へ

   タイムスリップ




   小学生へ


 私は気付くと、昔、よく見慣れていた教室に居た。教室の黒板、机に椅子、そして、窓の外に桜。小学校時代に、よく見慣れていた風景だ。


「さくら~、なに考え事してるの?」


 気付くと、小学生の牡丹が私に話しかけてきた。私は牡丹に確認する。


「牡丹、小学生だ!私も、小学生よね!?」


 牡丹は私の反応にちょっと驚いて答える。


「さくら、何?私達は小学四年生でしょ、もうすぐ五年生になるけど……」


 牡丹の答えに、私は(わぁ、凄い!)と感心した。


(本当に、小学生に戻ってる!)


 私が教室で驚いていると、桔梗が私に話しかけてきた。


「さくら、嬉しくしていたと思ったら、何驚いているのよ」


「あはは、そうね、桜があんまりにも綺麗なんで、嬉しくなってたわ」


 私は時を超えて小学生に戻っているのを悟られまいと、ちょっとおどけてみせる。


「何陽気におばあちゃんみたいな事言ってるのよ。私達まだ小学生よ」


 百合が私に突っ込みを入れてきた。私は陽気に笑ってみせる。


「あはは、桜があんまりにも綺麗だからかな」


 私の答えに、百合が「あらそう」と頷いた。私は小学生に戻っている事に、自分が何をしにここに来たかを確認する。


(そうね、私は、春楓に振り向いてもらう為にここに来たのよね)


「おお、フラワーズ、また群れてるな、楽しいかー?」


「なによ優樹、男子は男子で話してなさいよ」


 私は過去に戻っていることで、懐かしさと自分がここに来た目的を感じていた。


「フラワーズ、今日も仲良いな……ところでさくら、明日修了式だな……来年度が来て、五年生になってもよろしくな」


 そう、春楓から話しかけられた。小学生の春楓も凛としていて、大人になった春楓の面影が垣間見て取れた。


「うん、春楓!新学期になってもよろしくね!」


 タイムスリップをして間もない私は、春楓に目一杯の言葉を添えてその時の返事をする。


「ところでさ、職員室に行ったときに先生達が話してるのを聞いたんだけど、新学期から転校生が来るらしいよ」


(!?)


 私は、健大のその言葉に反応して目を大きくした。そうだ、私はその転校生、楓に負けない為に過去にタイムスリップしてきたのだ。


「へぇ、どんな子が来るのかしらね、楽しみだわ」


「まぁ、男の子でも女の子でも、そのクラスに打ち解けられるといいわね」


 牡丹と百合が健大の言葉に反応する。春楓もこの話題に言葉を添える。


「俺はこのクラスの仲間達と楽しくやれてればいいよ。その上で転校生と仲良くできればいいな」


 転校生と仲良くできればいいなんて、これから楓といつも共にいる春楓の言葉に私は胸が締め付けられる思いがした。


「さぁさ、明日は修了式だし、放課後もいい時間帯だからそろそろ帰らない?」


「そうだな、おやつも食べたいしな」


 桔梗が修了式に備えようと言って、優樹がそれに呼応する。そうか、明日は修了式なのね、と私はこの時に来た事を思う。小学生にタイムスリップして、やるべき事を確認しよう。




 次の日、春風に包まれる桜色の修了式が行われる。修了式後、私達七人は街に出て、コンビニで騒いだりしながら小学四年生最後の時を楽しんだ。


(この後春休みに、春楓からLINEで連絡が来るのよね)


 私は春楓に振り向いてもらう為に、記憶を掘り起こして今後の予定を立てていた。そうだ、小学生の時から、春楓に告白しよう、と私は考えていた。




春休み、春楓からLINEで連絡が入る。例のちょっと頼みたい事があるというLINEだ。私はスマホに飛びついて、春楓に連絡を入れる。




さくら 頼みたい事って何、春楓?




 私は春楓からの頼みを知らない様に取り繕い、のほほんと返事をする。




春楓 さくら、四月五日の午後二時に二人の家の近くの街の公園に行かない?




さくら 桜の名所の街の公園ね、うん、分かったわ!行くわ!




春楓 即答だね、さくら!ありがとう。じゃあ当日午後二時に来てね!




さくら うん!




私は街の公園で春楓に告白しようと急いて即答したが、当日頑張ろうとその日は誓う。




 四月五日、午後二時。私が街の公園に着くと、満開の桜が私を迎えてくれた。春色の空気が、清々しいまでに私の心を暖めてくれた。桜の妖精さん、キュリオネールも見てくれているのだろうか。春楓は既に街の公園に着いていて、私を待っていた。


「春楓、お待たせ」


「うん……今日は、さくらに会いたくてさ」


 春楓のその時の言葉が、私は嬉しかった。私は自身の記憶の中、今目の前に過去が現実となって展開している事が不思議だった。これから例え、春楓が楓に惹かれていこうとも。いや、私が春楓を振り向かせるんだと意を決して臨んだ。


「俺の名前、春楓。好きなんだけど、ちょっと女の子っぽいのが玉に傷なんだよな。さくらは純粋に桜の木から取ったみたいで、いい名前だよな」


「そうね、私も、自分の名前が好き」


 そう答えて、今からすると未来に母から自身の名前の由来を聞いた事を思い出したりする。でも、それは今言うべき事ではないわと自分に言い聞かせる。


「さくら、五年前もここに来た事、覚えてる?」


「五年前……」


 そう、桜の妖精さん、キュリオネールに初めて会った日の事を思い出す。あの時は、そう、春楓も一緒に居たんだ。


「そうね、五年前に春楓と一緒に、桜を愛でに春楓と一緒に来たかしらね」


「うん、そう!」


 「そうか!」と春楓が喜ぶ。私もふふふと笑った。


「ねぇさくら、今から五年置きに、四月五日、ここで会わないかい?」


 春楓から、例の提案が来た。


「本当は、三月二十七日が桜の日らしいんだけれど。五年置き、四月五日に会いたいんだ」


「五年置きに、四月五日ね、うん、会うわ」


 私は即答した。春楓は何だか凄く嬉しそうにしている。


「うん、ありがとう!約束」


「約束」


 私と春楓は指切りげんまんを交わして、大切な約束は交わされた。私はここぞとばかりに春楓に想いを告げる。


「春楓、私、春楓の事が好き!」


 春楓は急な私の告白に、目を丸くしたけれど、何かを言いたそうにしている。


「さくら、俺も、さくらの事が……」


 そう言って、春楓はまた何かを口にした。


「でも、それはあの日から二十年後の約束だから……」


 春楓はそう言って、立ち上がる。


「だから、またね、さくら」


 春楓はそう言って、その場を立ち去ろうとした。私は「春楓!」と呼んだけれど、春楓はそのまま行ってしまった。




 始業式。五年生の新たな門出の日、私はやはり私達七人が同じクラスな事を確認するといよいよ楓が転校してくる事を意識する。そして、先生が楓を紹介する時がやってきた。


「はいは~い、皆静粛に。転校生を紹介しま~す!」


「転校生、うちのクラスだったな」


「情報早かったな、健大。感心だよ」


 健大と春楓が転校生である楓について語っている。そして、いよいよ楓が登場する。


「はい、皆さん、転校生の方です。自己紹介お願いね」


「転校生の、本庄楓です。皆さんよろしくお願いします」


 皆から「かわいい~」という歓声が聞こえる。先生は楓を促した。


「じゃあ、楓さんは春楓君の隣の席が空いているからそこに座ってね」


 楓が皆に「よろしくね」と告げる。私は私の前の席で、春楓の隣の席に楓が着席した事にちょっと嫉妬しながら、事を見送っていた。




 始業式があって帰りが早かったその日。私達七人は楓を取り囲んで話をしていた。


「どこの小学校から来たの?楓ちゃん可愛いね」


「何で春風小学校に転校してきたの?」


 優樹と健大の問いに楓が答えていた。そして、楓ちゃんもフラワーズに入らないとか、楓は木、さくらも木、楓ちゃんもフラワーズね。なんて話をしていた。百合が、「もうあなたもフラワーズね」と言って、楓が一人になった所を見計らって、私は楓に話を切り出した。


「楓ちゃん、ちょっと話、いい?」


「何?さくらちゃん?」


 楓が私を振り返ると、私は言いたい事をその場で言った。


「私、楓ちゃんには負けないんだからね」


「……?」


「好きな人にも、私は振り向いてもらうんだからね!」


 楓はあっけらかんとしていたけれど、私にこう言ってきた。


「うん、私も、さくらちゃんを応援して、さくらちゃんと好きな人が結ばれる様に祈ってるわ!」


(!?)


 私は、その時愕然とした。楓は、やっぱりいい子だ。私はその時、楓にちょっかいを出すんじゃなく、自分の力で春楓に振り向いてもらわなきゃいけないなと感じる。そして、楓にこう告げた。


「うん、ありがとう、楓ちゃん。またね」


 そして、私は小学校の桜並木をとぼとぼと歩いていた。


「さくらちゃん、さくらちゃん!」


 その時、声がした方を振り向くと、桜の妖精さん、キュリオネールがその場で空を跳んでいた。


「桜の妖精さん……どうしてここに?」


「僕は桜の妖精だから、桜がある所を渡れるんだよ」


 桜の妖精さんはそう答えると、次の事を私に告げる。


「さくらちゃん、そろそろ小学生の桜の時期が終わるから、別な時にタイムスリップするよ」


 私は桜の妖精さんにそう言われると、哀願する様にこう聞いた。


「桜の妖精さん、私、本当に春楓に振り向いてもらえるかしら……」


「大丈夫、さくらちゃんなら、きっと春楓君に振り向いてもらえるよ!」


 桜の妖精さんにそう元気付けられると、何だか心に勇気が湧いてくる。


「桜の妖精さん、じゃあ今度は、中学三年生、私が十五歳の時にタイムスリップしてくれるかしら?」


 桜の妖精さんは「うん、分かった!」と答えると、また例の呪文の様な言葉を発する。


「ラジカル、ラルカル、ラリルルルルルルル!さくらちゃんが中学生の時に、レッツゴー!」


 再びその魔法が唱えられると、記憶の海がまた私を包んで、私は時間旅行に旅立っていく。


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