Ensemble
柿本 修一
第1話
“Ensemble” フランス語で、“調和・統一”吹奏楽部員の私から言わせれば、“少人数で行う演奏”もしくは“音楽がまとまっている状態” まあ、何がともあれ、吹奏楽部員としては、この言葉を聞くと思考が“アンサンブルコンテスト”に集約されるのが性だろう。今は10月。先日、アンコン(アンサンブルコンテスト)の編成について、顧問や学生指揮から連絡があったところだ。正直な話をすれば、現状全く部員がいない状況や、他のパートの構成員のことを鑑みれば、言われなくてもおおよそどんな編成を組んでくるのかは想像にたやすかった。今のところサックスパートには私「横川」と、「松井田芽依(まついだめい)」という女子部員の2人のみ。他のパートはきれいに編成が出来上がることを考えれば、ここ2人でくっつけられることはわかっていたし、実際そういう発表だった。
「改めてよろしくな。松井田」
「・・・・う、うん、よろしく、横川」
松井田は重苦しい返事を俺に返してきた。県内にその名を知らぬ者はいないほどの実力者である彼女は、去年“ソロコンテスト”に挑戦するも県落ちを経験していた。今年こそリベンジするのだと張り切っていたのだ。しかし、私と松井田が出場するように言われた大会は、ソロコンと同じ団体が主催しており、しかもソロコンとアンコンとのダブルブッキングを禁じていた。私と彼女がアンサンブル部門に出場する方向で話が進んでいる以上、彼女のソロコンリベンジの道は閉ざされてしまったようなものなのだ。進級してからずっと“今年こそリベンジだ!”と意気込む彼女を、私は誰よりも近くで見てきていた。だからこそ私も心苦しい思いだった。
この出来事以降、ほとんど彼女と口を利かなくなってしまって、もうしばらく経つ。
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