#2 ホリー

 上流貴族の長く続く慣習の一つとして、ディナーの前は、家族で(或いは招かれた客人も一緒に)今で過ごすというものがあった。


 その日、キャティリィで1時間という短い時間だけを費やして、セラフィーヌは夕食に間に合うように、帰宅した。


 幸い、玄関から入ったとき、誰もそこにはいなかった。いつもいるドリーはその時間帯、夕食に家族が使う銀食器を磨いている。ライブラリの前を通らずに、2階に行けば、夕食の時間までに誰にも会わない。


 寝室に戻って呼び鈴の紐を思い切り引き下げる。その呼び鈴は階下につながっており、少ししたらホリーが来るはずだ。そこでセラフィーヌは気持ちは落ち着かせるように鏡台に向かって座った。


 「お嬢様。ホリーです」


 ホリーの声が外でした。


 「入って、ホリー」

 

 ホリーは慌てるように入ってきて、これから各仕事を始める人のように両手でドアをそっと閉めた。


 「どうでした?」


 ホリーの顔は輝いていた。


 「はい!これ。あなたのためにもらってきたわ」


 セラフィーヌは前もって鏡台に置いておいた冊子を、ホリーがよく見えるように持って見せた。


 「わぁ!新作ですね!」


 ホリーは、セラフィーヌの唯一の秘密を知る人だった。


 「それでね、『月刊キャティリィモーム』で連載されることになったの。そこの編集長と知り合いになったから」


 「キャティリィモーム?ですか?」


 初めて聞く雑誌名にホリーは顔を傾けた。


 「そう。鹿のマークが目印の雑誌よ。キャティリィのノース地区に会社があって、創刊からまだ一年も経っていない新米雑誌」


 セラフィーヌは話し続けて、段々と語尾を下げていった。


 「下の階のみんなで話したことがあるんです。これからは新聞じゃなくて雑誌の時代だって。だから、キャティリィモーム誌は有名になりますよ」


 「まぁ、ありがとう。でもそれをホイットニー氏が聞いたら、ものすごい反論が返ってくるわね。つまらなくて長くて、うんざりするような、彼の持論が」


 ホイットニー氏は、キャティリィをはじめとして都市近郊にも幅を利かせているウィクリフ新聞社の社長のことである。彼は長いこと新聞という権力を握っていた。


 「ですが、ホイットニー氏は貴族ですから。私たち労働階級にしてみれば、雑誌の情報の方がかなり友好的なんです」


 ホリーの言葉に、セラフィーヌはうなづいた。


 「わたしは毎月キャティリィモームを買いますよ」


 「嬉しいわ。ホリー。

  それじゃ、夕食のために着替えを手伝ってくれる?」


 セラフィーヌがホリーに向かって微笑む。

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