独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

第一章 妹の帰宅

#1 ウィレミナ

 田園風景を抜けて、汽車が音を立てて駅に着く。白い煙を車輪の間から吐きだす、その汽車の中から、一人の少女が出てきた。歳は16と少し。青い目立ったボンネットをかぶっており、背中に流れる豊かな金髪と、ときおり正面に鋭い視線を送る碧い瞳がボンネットの隙間から見える。首の詰まった、ボンネットとと同じ青い色の洋服は、少女の華奢な姿を目立たせている。

 彼女は革のトランク鞄ふたつを両手にそれぞれ持って、あたりを見渡していた。


 「お嬢様、お嬢様!」


 高らかに彼女を呼ぶ声に、お嬢様と呼ばれた少女はすぐさま声の方に視線を送った。視線の先に亜麻色の髪をした青年が片手をあげて、少女な方へ真っ直ぐに進んでくる。逆方向に押し寄せる人波をかき分けながら。

 その青年の姿に、少女は少し眉を上げた。


 「あぁ、よかった。ウィレミナお嬢様、お迎えにあがりました」


 青年はそう言ってウィレミナと呼ばれた少女に両手を差し出した。その両手が、ウィレミナの持っているトランクを受け取るために差し出されたものだと、ウィレミナはすぐに察することができた。

 しかし、ウィレミナはトランクを渡す代わりに、訝しんだ瞳を青年に投げかけた。


 「失礼、どなたかしら?」


 ウィレミナの瞳から発せられる鋭い眼差しに対して、青年は一瞬、戸惑った顔をして、言葉を継いだ。


 「お忘れですか?お嬢様。僕はジョンです。家政婦長のアン・カーライルの息子、ジョン・カーライルです」


 ジョンの名乗った青年は、亜麻色の髪をなでて、再び言う。


 「旦那様が新しくお買いになった自動車で、ウィレミナお嬢様をお迎えに行くよう仰せつかったんです。決して怪しいやつではございませんよ」


 しかしなお、ウィレミナの表情は固かった。


 「アンに息子がいるなんて知らなかったわ」


 ジョンはその言葉に愕然とした。ウィレミナとは、一度だけ会ったことがあるはずなのだ。ウィレミナが寄宿学校に入って2回目の帰宅の際、ジョンは、慣例に倣って狩に出る主人のために馬を用意していた。そこにウィレミナがやって来たことがある。その時確か、にウィレミナはジョンを見て、ジョンの名前を尋ねてくれた。なのに、もう忘れてしまったというのか。


 「前に、馬屋で会いました。覚えていらっしゃいませんか?」


 ジョンはだんだんと弱腰になって、ウィレミナに質問していた。


 「覚えていないわ」


 ウィレミナの先程の鋭い視線が、興味の視線へと変わっていった。

 この、ジョンという青年、面白い。ウィレミナはそう思い始めていた。


 「お嬢様、なんで言えば、信じてくれますか?」


 「いいわ、あなたを信じるわ。フィナデレ・カテドラルまで連れて行ってくれるんでしょ?」


 ウィレミナはその時初めて、ジョンに笑みを見せた。


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