第40話 ハニカミ少年騎士
アレンが持ってきたご飯は夜に食べて、そのままアレンは泊っていった。
寝具とかどうするのかと思ったら、普段から野宿とかしてるから屋根があるだけ贅沢なんだって。
王子様のくせにワイルドー。
朝の日課で畑の世話やミルフェ先輩との魔獣討伐について回るときにあくびをしてたから、ロイと夜更かししたのかもしれない。
「よし、そんじゃ今日は買い物に行くぞ」
「おぉー!」
ノリでぶんと腕を振り上げる。
アレンが泊まったのは、町に買い物に行くためらしい。
アレンはおしゃれなのか頭に布を巻きつけているのだけど、乱雑に巻いているせいかあちこち髪が飛び出している。
ロイは町に出た時と同じく、分厚い眼鏡に口元まで覆うストールにフード付きのローブ。
ふたり並ぶとどう見ても王子様とお貴族様というより、盗賊と悪の魔法使いだ。
「がらわるい……」
「言われてるぞ、ロイ」
「アレンの事だと思う」
いや、どっちもだからね!
ここに幼女(私)を加えて緩和されるかっていうと……ぶっちゃけ、どっかから浚ってきた子どもを英才教育中にしか見えないだろうな。
「だいじょうぶ? しょくしつされない……?」
「しょくしつ?」
「しょくむしつもん。えいへいさんに、わるいことしてないかきかれるやつ」
「あー……」
即座に否定しないってことは、相当心当たりがありますね?
「まぁ、大丈夫だろ。向こうも仕事だし」
「仕事熱心な巡回騎士は多いよね」
多分だけどね、普通の人はそんなにしょっちゅう声を掛けられたりはしないと思うよ。
「おーい、どこに行くんだ?」
「ほぇ?」
さて、お出かけだぁ! と、勇んで厩舎の方に行こうとしたら呼び止められた。
「大丈夫だと思うけどチーロは初めてだし。おいで」
アレンがさっと腕を広げて抱っこのポーズを取る。
ついロイを見上げると、ロイも小さく頷いて抱きつくように促してくる。
一体何?
厩舎なんてすぐそこなのに、抱っこなんかしなくても……。
「よーし、初めては酔うかもしれないから目を瞑っとけ?」
「……?」
わけも分からず言われるがままに、ぎゅっと目を瞑ると途端に周囲が騒がしくなった。
「ほい、到着。つっても人混みだから、店につくまではこのまま抱っこな」
「……? ? っ!?」
何で目を閉じて開けたら違うところにいるの!?
「え、どこ!?」
「ここは王都だ。王都の騎士団詰め所」
なんでもないみたいにアレンが言った。
「りょじょー……」
「何だ、それ」
これでもロイに習ったんだからね。
ロイの家から最寄りの街カプスまでならゴルドに乗ればそんなにかからないけど、王都モルディアスまでは魔導馬車に乗って半月(この世界基準なので10日)ぐらいかかる。
10日だよ、10日。
そりゃ新幹線や飛行機があるわけじゃないし、馬車だって休み休みじゃなきゃ走れないだろうから、考えてるより距離は稼げないかもしれないけど。
その距離が一瞬。
旅情も何もあったもんじゃない。
「アレン殿下、いつ子供産んだんですか?」
「先月。ほら、腹膨れてたろ?」
……いつぞやのアレンと同じこと言ってる。
ひょっとして騎士の人達が子供連れてると恒例みたいなジョークなんだろうか。
軽口を叩いているのは騎士の人なのかな?
そう言えば、服装は街で見かけた衛兵っぽい人達よりもお高そうだ。
「名前は?」
ごっつい兄ちゃんに覗き込まれてびくっとなる。
うわ、びっくりした。
騎士なんていう体育会系の人だからなのか、距離感近いね。
「ニコ、脅かすなよ。顔が怖いってよ」
「え? あ、ごめん」
アレンが半笑いで注意したけど、多分上司なんだろうアレンじゃなく、私に謝ってくれる辺りいい人だなぁ。
「だいじょぶ! びっくりしただけ。ちーろ。4さいです!」
ぷくぷくおててで4を作ってアピールすると、顔を覗きこんできたごっつい兄ちゃんがにこっと笑み崩れた。
お、笑うと意外と幼いね、君。
アレンはなんだか変なものを見る目で私を見ている。
「いい子だなぁ! 俺はニコ。16歳。お菓子食べるか?」
「ありがとぉ!」
16歳か。幼いはずだよ。
前世的な感覚で言うならまだまだ少年だね。
お兄さんが握らせてくれたのは、お菓子、っていうか、ドライフルーツ?
果物は水菓子ってくらいだから、お菓子のうちなのか?
ただ干したんじゃなくて砂糖をまぶしてあるからお菓子の分類でいいのかなぁ……。
「ニコ、お前いつも菓子を持ち歩いてるな」
「……弟が喜ぶから」
はにかむみたいに小さくなったニコは、ごっついけれどどことなく可愛らしかった。
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