第34話 ワイルドが過ぎる
お昼ご飯を食べた後、ロイがいつものように地下室にお仕事をしに行ってしまうと、アレンが微妙な顔で私を見下ろした。
「いつもこうか?」
「こう?」
「ひとりで放っておかれてんのか、ってこと」
あいつ気が回る方じゃないしな、とぶつぶつ言っているアレンに肩を竦めて、私はペスに抱き着いた。
ふわふわモフモフであったかくて、私の身長じゃ身体ごと埋まってしまう勢いだ。
「ひとりじゃないよ? ぺすもいるし、おうちでると、ごるども、みるふぇせんぱいもいるよ?」
「そうは言ってもな……なんだ、その先輩っての」
「わたしはしんいり、みるふぇせんぱいは、しどうがかりだから、せんぱい!」
先住者という意味でならゴルドとペスも先輩なんだけど、ゴルドの場合はロイの従者か騎士って感じだし、ペスは乳母っぽいから、先輩ってイメージじゃないんだよね。
「おう、そうか」
アレンはしゃがんで、ポスポスと私の頭を撫でた。
子供って接触して可愛がりたくなるのはわかるけど、中身婆の私としては結構微妙。かといっていちいち振り払うのも大人げないし、ペスに顔を押し付けてぐりぐりして、行き場のないモヤモヤをなだめておく。
「この家、掃除したのチビだろ? よく頑張ったな」
「うん」
腐るようなものは放置されていなかったけど、あっちこっちに本だの手紙だのが積み重なっていて、干からびた何かは散らばっていて大変だった。その辺に放置されてるわけじゃないんだけど、本に挟んであるのよ。押し花とかじゃなく、調べたり、書き込んだりした後、そのまま挟んじゃうんだと思う。
葉っぱはいいけど、虫とか爬虫類は勘弁してほしかったよね……生薬とかに使うって聞いたことはあるから、多分こっちの世界でも薬に使うんだろうけど。
「掃除の他はいつも何やってんだ?」
「ほんをよんだり……おさんぽしたり……おりょうり?」
時間を潰すようなものは本以外ないんだけど、ろくに魔法も使えないし、魔法を使えなければあらゆる作業を超アナログでやらなきゃいけないから、意外とやることがいっぱいあるんだよね。
今日もお肉があるなら、それに合うスパイスとかも探さないとなー。
「ふむ……子供一人ならままごとかと思うところだが、あれだけのものを作れるとなると、ままごと、ではないよな」
「まーねー」
一応でも塩と甘味料と香辛料があるならば、甘んじて野菜の水煮ばっか食べたくはないでしょう。
一応前世では一人暮らしで自炊もしてたし、ロイに任せっぱなしにしておくよりは断然ましな食生活にできている自負はある。
「その身長で、今のキッチンは使いにくいな」
「そうなの! のぼったりおりたり、もうたいへん!」
システムキッチンと違い水場は別になっているから、使うものを運んで洗って、洗ったものを運んで調理するのだけど、私の場合、そこにさらに箱の上り下りが加わる。
その上、オーブンはロイの目の高さに据え付けられているから、ロイがいてくれないと使えない。
オーブンが気軽に使えたら、もっといろいろ作れそうなのに。
「よし来い、ちび」
アレンが腕まくりをしながら、キッチンに向かって歩いて行った。
「……?」
よくわからないけど楽しそうだ。
「ここにあったんじゃ、チビが使いづらいだろ? ロイならどうせ大概のことを魔法で片づけちまうんだから、チビがオーブンを使えるようにしちまうか」
アレンはがっとオーブンを持ち上げると、いったん下ろして、台にしていた棚をどけた。
「おぉ! ありがと!」
やったね! 床に直置きもどうかとは思うけど、これで私にもオーブンが使える。
台所の床はタイルみたいなので出来てるから、火事の心配もなさそうだし、背に腹は代えられない。
「こっちの台は使ってないからいじっちまってもいいだろ」
アレンが外したばかりの棚を、バコっと素手で(!?)分解を始めた。
「え、なに? なにしてるの!?」
「チビ用の作業台、作ってやるよ。いちいち踏み台使うの大変だろ」
それは大変ありがたいのだけど、何で素手ですかね?
「こうぐは? て、いたくない?」
私があわあわしていると、アレンはぷっと吹き出した。
「平民じゃあるまいし、この程度の作業に工具はいらない。魔力でなんとでもできる。俺は一応王子様なんでな」
私が知ってる王子様は素手で木工工作しない!
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