第26話 驚きまみれのふーあーゆー
しかし、アレだね。
柔らかいってわけじゃないけど、このお肉が噛み切れるのは、そもそもの素材が違うっていうの以前に、町で食べているものとは部位が違うとか、処理が違うのが大きそう。
筋っぽいところじゃなくて、こういう大きく切って焼くのに向いたところを持ってきてるんだろう。
「おいしーね。あれん、おりょうりじょーずね」
「おう。って言っても肉焼くのだけだけどな」
言動的にはガツガツしてそうなのに、手にしているカトラリーは一切音を立てない。
さっきからカッツンカッツン音を立てちゃってるのは私だけだ。
「おにくやくのだけ? じゃあ、このおりょうりは?」
「料理人に作らせたのを運んできただけだ」
「ざんねん。このみどりのおいしいから、つくりかた、おしえてもらおうとおもったのに」
なにで出来てるんだろ。
これがあったら、うちにあるちょっと酸っぱいパンも美味しく食べられそうなのにな。
「ムシュトが気に入ったのか。ガキはムシュト好きだもんな。確か茹でて潰したマメにナッツの潰したのを加えて練り混ぜるんだ。こいつにはハリョウナが混ざってるっていったかな」
「ハリョウナ……」
多分緑の野菜だと思うけど、また知らない名前が出てきた。
ムシュトは料理名だと思うのよね。マッシュポテト、みたいな。
豆とナッツを潰したものをムシュトって呼んで、さらに別のものを混ぜ込んでバリエーションを付ける、みたいな解釈であってるのかしら。
味付けにはレモンみたいなものが入ってるのかな。
「これ、ハリョウナが入っているのか」
ロイが驚いた顔でムシュトをつついている。
アレンの声がやたらに大きいせいで、つられてるのかロイの声もいつもよりも聞き取りやすい。
「……んで、この食いしん坊のちびっこはどっから浚ってきたんだ?」
アレンがフォークで私を指し示した。
「おぎょうぎわるい……」
せっかく音もたてずに食べられるようなマナーを身につけているのに、色々台無しな人だな。
「チーロの言う通り、フォークで人を指すものじゃないぞ」
「人の行儀にとやかく言う前に、説明することがすっぽ抜けてんだよなぁ……」
アレンは呆れた様子でロイと私に交互に目を向けた。
「茶化した俺も悪いが、紹介してくれてもいいんじゃねえの? このガキがいったい何者なのか、お前の親父さんのとこには報告しなきゃならないんだしさ」
「必要ないだろう」
ふい、とロイは俯いて、返答を拒絶するみたいにお肉を口に入れる。
「お前ねえ……」
「はい、はーい! ちーろ4さい! ろいにここのもりのおくでひろわれたんだって!」
なんだか拗ねたような気配を察知したから、お子ちゃまムーブを決めて、空気を和ませようと試みる。
なんなんだよ、22歳。
ガキみたいな対応するんじゃないよ。
おばちゃん、気を遣うでしょうが。
「おう。元気にご挨拶できました。俺はアレン。22歳だ」
「ろいとおんなじー」
「そう、同じーだ」
私が気遣いでニコニコしてみせると、アレンも同じような笑顔になった。
ヒトのこと言えたものじゃないけど、それって大事な情報何一つないんじゃないですかね?
「……大事なことを言っていないでしょう?」
「そいつは家主様がご紹介くださらないからですな」
とぼけた様子でアレンが肩を竦める。
ロイは、はぁ、と溜息をついて、手のひらでアレンを指した。
「チーロ、こちらはアレンダール=セディサン=ゴズモット殿下。このゴズモット王国の第3子にして第三王子。いつか会えるって言ってた王子様だよ、これでも」
「おうじ……さま?」
「そう。この家にいる時はそんなに気にしなくてもいいけど、もし外で会うことがあったら気をつけて。目を合わせないでそっと逃げて。面倒くさいから」
そんな野生動物に遭遇した時の注意みたいな。
「ほら、王子様がこんなのでがっかりしただろう?」
「お前なー、ガッカリっていくらなんでも失礼だろ?」
「もっと王子様らしくアレンが振る舞えるならそんなこと言わないさ」
その態度、不敬罪になったりしないの?
アレンはパンをちぎって、ムシュトを塗りながら言った。
「俺は、ロイがここで干からびないように、月に一度くらいここに顔を出している。こうやって喰い物を持ってな」
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