第22話 食育は大事!

「ちょっとだけいれて。すーぷだけをほんとーにちょっと!」

「それで足りるの?」

「あじみだから! まだかんせいじゃないの! かくにん!」


 さんざん大騒ぎして、スープ用のお椀にちょっとだけスープを入れてもらう。

 そんなことだろうと思ったけど、ロイは味見の概念をわかっていなかった。


「……ん、おしおをいれたほうがいいかしら。ろい、おしおをひとつまみ……すとーっぷ! すとっぷ! いれちゃだめ! それ、ひとつまみじゃなくてひとつかみだから!」


 恐ろしいことをするな!

 ロイは塩を入れたツボに手を入れると、ごそっと一握り掴んで入れようとしたのだ。

 入れる前に阻止できてよかった。


「塩を入れるんじゃないの?」

「いれるけど、そんなにはいらないよ。しょっぱくなっちゃう。ひとつまみっていうのはね、ひとさしゆびとなかゆびとおやゆびでかるーくつまんだくらい!」

「なるほど。いつもスープに入れてるくらいだね」


 水の量とか何も言わずに決めていたから、この大きさの鍋にいつもひとつまみしか塩を入れてなかったのか。

 それも普段は干し肉なんて入れてなかったんでしょ。

 あの味気ないスープになるのも納得だ。


「もういっかいあじみ!」


 ……うん。もう少し塩を入れてもいいけど、これ以上何かしようとしたら思いがけない事故が起こりかねない。

 それにもうおなかがすいたよ。


「そしたら、ぱんをきってごはんにしよう」

「パンを……切る?」


 あ、また固まっちゃった。

 この世界の常識ではどうか知らないけど、少なくともロイには思いもつかなかったんだろう。


「かたくなったパンも、うすくきったらちぎりやすいでしょ? だから……そうだなぁ、ゆびのふとさくらいのうすさにきって!」

「あぁ、うん」


 ロイは魔法でパンをスパスパとスライスしてくれた。

 自分で切ってもいいけど、貸してもらったナイフじゃ、また切るのに時間かかりそうだからね。


「ついでに、かるくあっためてくれたらうれしいな」

「……ん」


 スライスして温めたパンと、出来上がったスープで昼食にする。

 食後にはスモモっぽいサクトもつけた。

 本当はサラダとメインになるようなものも欲しいところだけど、パンだけ、スープだけの食事よりは格段にレベルアップしてるはず。


「……美味しい」


 スープを口にしたロイがぽつりと呟いた。


「ぱんはかたくてたべにくかったら、すーぷにつけるといいよ」

「え、それは……行儀が悪い」


 ロイは躊躇してるけど、私はやるぞ。

 一昨日買ってきたパン、もう乾いてパサパサだもん。

 温めた分だけ柔らかくはなってるけど、そのまま食べてたら口の中の水分全部持って行かれちゃう。

 スープだけ、パンだけ、なんて食事に甘んじている人に行儀を論じられたくないよ。


「すーぷにつけると、よくすーぷすってくれるからおいしいよ?」

「む……」


 ロイは少しだけ考えたみたいだけど、やっぱりスープにはつけずに、一口サイズに千切ったパンを食べている。


「パンも、いつもよりも食べやすい……」

「でしょ?」

「スープも、実家で料理人が作っていたスープのようだ」


 ……それは言いすぎじゃないかな。

 料理する時に、香辛料まではいかなくても、香味野菜を使う風習はあるのかもしれないな。

 ロイが食事に無頓着すぎて、この世界の食事レベルがつかめない。


「こんな料理を、料理人でなくても作れるんだな。ただ、その……カローテは馬の食べるものだから……」


 それはこの世界の常識?

 それともたんにロイの好き嫌い?

 どっちよ。


「すききらいはだめだよー」


 私の言葉にロイが顔を上げた。


「しょくじはだいじ。おくすりはからだをなおすけど、しょくじはからだをつくるよ。くすりはしょうじょうによっていろいろなものをつかうでしょ? からだをつくるのにも、いろいろなものがいるんだよ。だから、いろいろばらんすよくたべなきゃだめ」


 スープだけとか、パンだけ、とか、若いうちはいいかもしれないけど、身体を壊すからね!


「症状によって……確かにそうだ。ねえチーロ、それは誰に教えてもらったの?」

「……おかあさん、かなぁ?」


 この世界には食育とかってないのかしら。

 元ハンバーガー屋店員が何言ってんだ、って感じではあるけど、一応さ、うちの店、食育支援も掲げてたからね。

 食べる喜びは大事だよ。


「食事が体を作る……か」


 ロイはスープをじっと見つめてから、目をつぶってスプーンを口に入れた。


「かろーてもたべられた? えらい! しょくごにはサクトもあるからね!」


 ロイのことを褒めてあげつつ、私もしっかりご飯を食べた。

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