第6話 his thinking
「お水の出口じゃな」と、神様は
すこし恥ずかしそうに言うと
「いゃぁだぁ!もぅ」と、ななは
笑いながら、神様を突き飛ばす(笑)。
4次元の空間なので、どうと言う事もないが
結構、荒っぽい(笑)。
「じゃな。まあ、ななちゃんに
魅力を感じてたのじゃろう」と、神様は
突き飛ばされないように、すこし
距離を置いて(笑)。
「そうなのかしら?」と、ななは
意味が解らず。
「うむ。愛しい気持ちの神経がな、電気を
帯びておるし。あっちもな」と
神様は、笑いながら。
人間ってそうなんじゃ、と
言いながら。
「でも、それならどうして
ななと仲良くしたがらないのかしら?」と
ななは、ちょっと思案。
「それは、ななちゃんを大切に思ってるからさ」と、神様は言う。
ななは、少し考えている。でも、そんな様子も
愛らしい。
「ほんとに、神様だったんですね」と
まるで関係ない事を言うので、神様は
笑ってしまった。
「あ、いやいや、一応、神様じゃな。」と
そういうと、ななは
「神様って、なんでもわかってしまうんでしょ?彼は、どうしてななの事を好きにならないの?」と。
神様は、困る。「それは、彼の気持ちの問題
じゃから」
気持ちは、その人の勝手だもの(笑)。
「じゃがの、ななちゃんを好き、なんじゃと
思うがのぉ。」
おちんちんの神経も起きてるし(笑)とは
言わなかったが。
傍らにある、その神経の電気的状態を
神様は見たので、ななは
なんとなく気づく。
「なにか、訳があるんじゃよ。彼の記憶を
辿って見れば」と
神様は、彼の大脳皮質に移動した。
「その人が、いつも大切に思っている事は
記憶の配線が、沢山くっついておるんじゃ。」と、神様は
配線が太く、絡んでいるあたりを見上げた。
「それは、どんな事?」と、ななは
興味を持った。
「うむ。神経の配線からすると
生物的な事ではなさそうじゃの。皮質に
神経が集中しておる」
と、神様。
「そんな事がわかるのですね
。さすがは神様!」と、なな。
「んにゃ、解剖の本に書いてあるのじゃ」(笑)
「あはは、勉強するんですね、神様!」と
ななは楽しそう。
「いやいや。
」と、神様は照れはんぶん。
「彼は、家族を大切にしてるようじゃの。」と、神様。
「家族....彼は、たしか、お母さんと
暮らしているとか」と、なな。
彼の記憶の中には、素晴らしく
美しいサウンドがたくさん。
聞いていない時でも、彼の心は
優しい気持ちに満たされていて。
その世界から出る必要もないし、かえって
現実の世界は、煩わしいだけだ。
ずっと、そうして生きてきたのだろう。
それはそれで、楽しい生き方かもしれないと
神様は思った。
「彼は、ミュージシャンじゃろうか?」神様は
そう、ななに尋ねた。
「はい、インディーズしてたけど
売るよりも、好きな曲を弾いてた方がいいって言ってました」と、なな。
「そうか。まあ、そういう生き方もあるじゃろな。ショパンや、シューマンもそうじゃったろうし。バッハみたいに、天国に行ってから
才能が認められた人もいるしのぉ」と、神様。
「ふつうの人みたいに、人を愛したりはしないの?」と、ななは尋ねた。
ちょっと、悲しそうな声。
神様は優しく「いや、シューマンもショパンも、それぞれに恋人はいたのぉ。ななちゃんが
出会った頃は、たまたま世の中が不安定じゃったから」と。
母親を養うために、自分の恋愛などは
後回しにしないと、生きていけなかったのだろう。
いつのまにか、そういう生き方に
慣れてしまった。
そういう事なんだろうと神様は、察した。
だけど、神様にはわかる。
恋愛して充足するのも、彼のように
音楽を奏でて充足するのも。
結局、いま、ななの目の前にある
充足、と言う神経が電気を帯びるだけ、で
同じような事なのだ、と言う事。
信仰を極めるように、音楽でも
絵画でも、著述でも
それに浸りきれる人は、幸せなのだ、と言う事。
それを、ななにどう伝えたものか、神様は
困ってしまった。
でも、ひとつだけ言える事は
「彼も、暮らしが安定していれば、ななちゃんを幸せにできると思ったかもしれないね」と
神様は言った。
日本は、ずっと
日本人だけで平和に暮らしていたのに
外国人のお金儲けのために、日本人だけの
聖域を壊してしまったのだった。
そのせいで、彼や
ななちゃんのような、純真なひとたちは
生きていくのも大変で
彼のようなひとたちは、もし
愛するひとが見つかったとしても
守り通す自信がなくて、諦めてしまったり
そんな事も、あったりもしたのだった。
「ななは、お金なんていらないのに。
そばにいてくれれば、それでよかったのに。」と、彼女は悲しそうに天を仰いだ。
「ななちゃんが、そう思ってる事は
彼にはわからないから。」と、神様は言う。
「心が見えたらいいのに」と、ななは
笑顔に戻って。
「ひととして生きていくのが大変な、国とは
一体なんじゃろうのぉ
」と、神様。
もちろん、今はそうではないので
今、ななちゃんと彼がもう一度
出会えれば、違う生き方ができるかもしれないと
神様は思った。
「音楽の中にいれば」と、
ななちゃんは、面白い事を考えた。
どういう事か、神様には解らなかった(笑)
けど、ななちゃんは、名案!とばかりに
ワクワクしてるので
たぶん、いい案なのだろう。
「神様、お願いします。彼の居るところに
連れて行ってください」と、ななは
真剣な顔。
訳わからないけど、神様は
「あ、ああ。そうか?」と言って。
彼のそばの、並列時空間
ななを連れて、3次元実体に
戻った。
parameter real m= real;
equation;
F=mgh;
すう、と
空気を吸い込むように、実体になって。
反物質は、空間に飛び去る。
突然現れた、ななに
驚いている彼。
そこは、どこか高原の研究所のようで
元々は科学研究者だった彼は
以前いた研究所から、呼び戻されたのだった。
もちろん、そうした職種は
身分も不安定で、研究のプロジェクト単位で
仕事が決まる。
そんな訳で、仕事の空いてしまった時に
ななのように、派遣でアルバイトをしていたのだった。
「ななちゃん」と、彼は優しく微笑んで。
心の中に流れていた音楽を止めた。
音楽が好きで、ずっと音楽を聴いていると
聴いていない時も、記憶の中の音楽を
楽しんでいる事が出来て。
そのぶん、彼は
人間っぽい恋愛とか、争いとか
そういうものから遠い存在だったりしたから
ななの思いからも、少し遠かったりした。
ふつう、彼のようなひとたちは
ミュージシャンになったりするのだけれども
この国は、音楽ですら
お金儲けの好きな外国人に占領されてしまって
彼の好むような音楽は、この国では
売り物にならない有様だった。
それに、彼自身
音楽は、心で楽しむだけで充分だった。
そのための時間が必要だった。
ななは、彼に伝えたい事が
いっぱいあったはずなのに
何も言えなくなってしまって。
でも、ここに来ただけで
彼には充分伝わっていることだろう。
「よく来たね、どうしてここがわかったの?」彼は、優しい声でそう言う。
その声は音楽的で、パルティータのようだった。
ななは、その声を聴いているだけで
幸せに思った。
天上の音楽が、もしあるとしたら
ななにとって、それは
そういうサウンドだったのかもしれない。
彼にとっての、サウンドになりたいと
ななは、そんなふうに思う。
でも、それと同じくらい
ななは、彼に愛されたいと思う。
それは、人間らしい感情。
「僕がね、幼い頃は
争うのは、日本人のする事じゃないって
みんな思ってた。だから
女の子はみんな、可愛かったし
男の子はみんな、そんな女の子のために
この国を良くしようって思ってたさ。
でも、今はそうじゃない。
日本人みたいに見えても、そうじゃない連中が争ってばかりいる。どう、頑張っても
もう、日本は戻らないさ」と、彼は
胸のうちを語った。
こんな国で、自分だけ幸せになろうとするなら
壁で囲われていなくてはならない。
自分だけならそれもいいが、とても
恋愛なんてできそうにない。
国に関わりたくないのだから。
彼は、そのせいで
いくつも恋愛を見送ってきた、そう言った。
「ななは、あなたのそばにいられればいいの。それだけでしあわせなの。」
ふるえる声で、それだけを
ななは伝えた。
高原の風は、ちょっと冷たい。
でも、凛々しくななは、それを
やっと言えた。
「でも、僕は争いたくないんだ。
君を好きになったら、誰かと争っても
君を守らなくてはならない。
たとえば、あの店にいた大塚くんみたいに。」
と、彼は言った。
大塚は、闘争が好きな男の子で
茶色の髪を逆立てて、ひとを睨みつけて。
でも、それは、大塚自身が
幼い頃に虐められた記憶に怯えているので
強い自分でありたいと過剰に思っている
可哀相な心で
そういうひとたちと争いたくないと
思っていても
かわいいななが、大塚を好きにならず
やさしいひとに惹かれているのが
気に入らない。
それだけの理由で、ななを征服しようとしたり
「僕を睨んだり、因縁をつけたりしてね。
でも、それは彼が傷ついた心を持っているから
なんだ。
野生生物でもそうで、傷ついた心が
傷つきたくないから、そうするんだよ。
そのために、自分の遺伝子を遺して
仲間を増やそうとするのさ。
果樹園で、たくさん果実を実らせるために
枝を落とすみたいに」と
彼は述べた。
大塚だけではなくて、アルバイト先のひとたちは
知的で物静かな彼を見ると、どことなく
嫌悪感を持って接した。
そういえば、ななも
店では、騒々しくて愚かな演技をした。
居酒屋に連れていかれたり、カラオケで
騒いだり。
そうしないと、みんな不安なのだった。
傷ついた心を、みんな持っているからで
みんな、可哀相なのだった。
「だから、お店を辞めたのね。ななもそうなの。」
ななは、そういう世界が嫌だった。
ななを好きでもないのに、欲望のはけ口に
言葉巧に近づく、大塚や
課長や、係長など
大嫌いだった。
でも、それは
日本人が島育ちで、お人よしだったので
外国から侵略されてしまった。
そういう事なのだけど。
日本人と言っても、大陸からの移民もいたから
そういう人達が、戦争をおこして
大陸の人達を、日本に移民させた。
戦争が終わってからは、その移民たちは
日本を侵略しようとしたけれども
お人よしの日本人は、彼らを受け入れたから
日本の、穏やかな社会に
争いが生まれた。
それまでの日本だったら、リーダーになったら
メンバーたちを愛したものだった。
そうして、グループを、カントリーを。
国を愛するように考えた。
でも、侵略している人達には故郷がないから
リーダーになっても、自分の利益だけで
メンバーを道具にしか思わない。
当たり前だけど、グループのある国の
リーダーじゃないから。
威張ったり、イジメたりするリーダーは
みんな、このタイプであるから
自分から、渡来人であると
告白しているようなものである(笑)。
そういう訳で、彼がこんな国では
もう愛したりできない、そう思う気持ちも
自然である。
彼は、日本人なのだ。
「ななは、あなたがわからない。
国がどうだって、わたしは、ななよ。
どこにいたって、かわらない。」と、静かに言う。
「ななちゃんを好きになる人は、僕のほかにも
たくさんいるから。
なにも、僕と一緒に貧しい暮らしを
選ぶ事はないさ。あの、BMWのひととか」と
彼は、思い出話をした。
日曜日の勤務の時、いつも
お昼休みになると、BMWのZに乗って
ななに会いに来る青年がいた。
その青年にも、大塚は嫉妬するのだ(笑)
そう、エネルギーが余っていて暇なので(笑)嫉妬とか、くだらない事をするのだけれども。
そういう時間に、お金儲けを考えて
BMWを買おう、なんて思考はないのだが。
時間は、誰にも平等なのだ。
もちろん、神様や魔法使いは例外(笑)。
「この国が嫌なら、外国に行ってもいい。
ななは、シスターになるつもりでお店を辞めたの。」
「どうして、シスターに?」と、彼は問う。
神様のおかげで、日本の社会は思いやりに
立ち返って。
派遣、なんて言う制度は
彼のように、本当に能力の高い人達だけが
どこの仕事場でもやっていけるためのものに
変わり
ななのような、ふつうの人達は
1970年代のように、国が面倒を見て
大企業に雇用を義務付けた。
だから、ななも彼も
お店を辞めなくてもよかったのに
なぜか、ふたりともお店を辞めたので(笑)
やっぱり、大塚は嫉妬するのだが
それは、癖のようなもので
神経回路がそうなってしまっているのが人間の多様性を示す、面白い事実である。
顔つきも適応するので
そういう顔になって
いくら化粧しても隠せない、性格を示す顔になる。
例えば、大塚みたいに
卑怯な虐めをする者は、日本人にはいない。
それは、日本に移住してきた渡来人の感覚である。
国境のない国に生まれ育って、争わないと
自分の土地が取られてしまう国の風土、である。
島国、日本は
信仰ですら、緩やかに受け入れるような
民族である。
八百萬の神様がいても、仏様や
キリスト様も受け入れたりする、そういう国に
差別の意識はもともとない、のである。
なので、虐めをする人達は元々日本人ではないのだ。
尤も、純粋な日本人は
いま、少なくなったから
なな、が
なんとなく、彼の事を大切に思うのも
不思議ではないかもしれない。
民族の文化は、そんなふうに
心に残るものだから。
「ぽん!」神様は、ためらいなく
ななの目前に登場した。
「わ!」冷静な彼も、それには驚いた。
そこは、高原の研究所である(笑)
なな、ひとりならともかく
長身の北欧ふう、外国人に見える神様が
下りて来たのは、さすがに驚く。
目立つし、人目を引くから
実験室、Bー7に
とりあえず逃げる(笑)。
広い広い、研究所は
そう、お台場くらいはあるだろう。
実験室は、体育館くらいの広さで
その中の、電波暗室という
外から見えない部屋、それでも
学校の教室くらいに部屋に、神様と
ななを連れて。
「神様!見てらしたのですか?」と、なな。
神様は、「あー、いや。見てはいなかったが
気になってな。」と、照れかくし。
「神様?ですか?」と、彼はまた、驚く。
「ああ、わしは、神様じゃ。フランスの隣のな。君が、ななちゃんの恋人か」と、面白い説明をして。
ななは「ぃやだぁ、もう!」と、また
神様を両手で突き飛ばす(笑)。
おっとっと、と、神様はよろける。
「シスターになるって言うななちゃんは
もう、神様に出逢ったの?」と、彼は言い
申し遅れました、僕は加賀と言います、と
名乗る。
「そうじゃないの。あのね、ななは旅に出てて。
出雲に。帰りの電車で、偶然。」と、ななは
神様との出会いを語った。
そんな、神様と離れた
遠い遠い、北の方で
めぐたちは、寝台特急Northstarの
朝を、楽しんでいた。
料理長の予想通り、平日の朝なので
食堂車を利用するひとは、少なくて。
「余っちゃうから、食べちゃって」と
シェフは、モーニングの準備をしていた
お皿を出してきて。
カウンターに出した。
「はい。運ぶのは自分でね」と
ウェイトレスの仕事を作った。
「この列車、やっぱり廃止になってしまうのかしら」と、めぐ。
「そうだね。新しい豪華列車を走らせる、って
話もあるし」と、Naomi。
夜行列車を走らせるには、沢山の手間と
いろいろな人々の努力が必要なのだけど
もともと、夜行列車は
スピードが遅かった時代、夜行でないと
人々が運び切れなかったから
夜走らせていた。
そういう時代の名残、だった。
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