第97話 反撃のキス魔マルク
「協力して欲しいことって、何ですか……?」
「私に口づけをしていただきたいのです」
「――――!? そんな……アンドレアさんまで……!」
マルクは、アンドレアから距離をとって戦闘態勢に入る。
「ご、誤解なさらないでください。どうやら、フェナの作った食事にびや……惚れ薬が混ざっていたようで、現在皆様はマルク様に魅了されている状態なのでございます」
「は、はあ……」
「つまり、マルク様の方からキスをしていただければ、皆様の想いが遂げられ、症状が緩和されるのでございます」
「そんなに上手くいきますか……?」
「はい。お嬢様が取り引きする、ありとあらゆる商品の知識に精通していますゆえ、私にお任せください」
「で、でも……キスなんて……!」
今まで散々されてきた割に、顔を赤くして恥じらうマルク。
「お願いいたしますマルク様。私も、あとどれほどもつか分かりません……!」
アンドレアはその場でかがんで、マルクと目線を合わせながら言った。
「………わ、わかりました」
渋々覚悟を決めたマルクは、アンドレアに近づいて言った。
「じゃあ、目を閉じてください……」
「こうでしょうか?」
「………………ちゅ」
優しく触れるようなキス。
――刹那、アンドレアの腕が伸び、離れようとしたマルクのことを無理矢理抱き寄せる。
「ぢゅるっ! ぢゅるるるるうぅっ!」
「!?!?!?!?!?!?!?」
口の中を吸い取られた後解放され、力なくその場に座り込むマルク。
「はぇ……? え………っ?」
その目には涙がにじんでいた。
「申し訳ありませんマルク様。私はもう大丈夫です」
「ぼ、僕はぜんぜん大丈夫じゃありません……!」
「フェナとライム様はすでに正気を取り戻しているようですので、私がしたくらいの口づけを、お嬢様を含めた五人にしてください。マルク様の優しいキスでは初々しくて効きません」
「い、今のをあと五人にっ?! そんなの死んじゃいますっ!」
「サポートは私が行いますのでご安心を。さあ行きましょうマルク様!」
「た、たすけてええぇっ!」
マルクはそう叫びながらアンドレアにエスコートされ、通路の奥へと姿を消すのだった。
*
「マルクさん!とうとう観念してワタクシに浄化してもらう気になったのですね」
「ちゅううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「んっ?!
――――クラリス、浄化完了。
「……起きてください、師匠」
「うん……? マルク、どうしたん――むむむぅぅぅっ?!」
「んむっ! むちゅうぅぅぅっ……!」
「あんっ……☆」
――――ルドガー、戦闘不能。
「ま、マルク?! ボクというものがありながらんむっ――」
「はむっ、んむっ、ちゅっ、ちゅうぅぅっ!」
「きゃぃん……? くぅぅぅん…………っ!」
――――リタ、討伐完了。
「ま、マルク様……? いけませんわ……そんな積極的にされたらわたくしっ!」
「ちゅっ、れろっれろっ、ちゅるるるぅっ!」
「あ、あぁっ……しあわせしゅぎましゅわ…………ガクッ」
――――デネボラ、再起不能。
「ちょ、ちょっと、離しなさいよ! 何よこれどういうことなのっ!?」
「これで最後ですマルク様!」
アンドレアは、カーミラを押さえつけながらマルクにそう告げる。
「ま、マルクちゃん……?」
「むちゅっ! じゅるるっ! ぢゅるるるるるぅっ、ちゅううぅぅぅぅぅっ!」
「んんっ!? んーーーーーっ!? むぐっむぐぐぐぐぅっ!」
「ちゅるるるぅっ! ――――ちゅぽん」
「っぷはぁ!? …………ぁ? しゅきぃ、まるくおにーちゃん、だいしゅきぃ……!」
…………カーミラ、幼児退行。
*
「――素晴らしい手際でしたマルク様。これで船内は鎮圧完了です」
「……………まだです」
「……マルク様?」
マルクはよろよろと立ち上がり、倒れているフェナとライムの元へ近づく。
「ちゃんと……全員やらないと……また襲われる……!」
「お、落ち着いてくださいマルク様! もう戦いは終わりまし――――「むちゅっ!ぢゅるっ! ぢゅるるるるうぅっ!」
「んんんんんんんっ?!?!」
マルクを制止したアンドレアは、自分がしたのと同じ技を返されて無力化される。
「ふ、不覚です……ま、まるくしゃまの……心のケアを怠りました……」
最後にそう呟き、気絶するアンドレア。
「…………おはようございます、フェナさん。目を覚ましてください」
「うん……? 私、助かったの?」
「はい」
「それはよか――「ぢゅるっ! ぢゅるるるるうぅっ! ちゅううぅぅぅぅぅっ!」
「ふぇ…………?」
「はむっ、ちゅっ、ちゅうううううぅっ!」
「…………ぁ」
マルクに吸い尽くされたフェナは、顔を上気させて再び気絶した。
「――ほら、ライムも起きてください」
「うん…………? ライムちゃん、何してたんだっけ……?」
「おはようございます、ライム」
「うん、おはよう……」
「そのままじっとしててください」
「わ、わかった。ライムちゃん、マルクの言う通りにする」
「ライムは良い子ですね」
マルクはそう言って微笑むと、ゆっくりとライムに顔を近づける。
「ひゃうぅぅ……? こ、これって……!」
ライムはついに本当の相思相愛になったことを悟り、愛の口づけをしてもらう為に、ゆっくりと目を閉じたのだった。
「――――――じゅるるっ! ぢゅる、ぢゅるるるるるるるるるるぅっ、ちゅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! ちゅっ、れろっ、れろっ、ちゅるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!! むちゅぅぅぅっ……んっ……れろ、れろっ……!!!!!!!! ちゅっ、ちゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!! ちゅるるるるるるるるるるぅっ!!! むちゅっ!!! ぢゅるっっっっ!!!! ぢゅるるるるうぅっっっっ!!!!! ちゅううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!! ちゅっ、ちゅうううううううううぅぅっ!! ちゅっ、れろっれろっ、ちゅるるるぅっ!!!! むちゅっっっっ!!!!! じゅるるっ!!!!! ぢゅるるるるるぅっ、ちゅううぅぅぅぅぅっ!!!! ぢゅるるるるるっ!!! ぢゅるるるるるるるるうぅっっっっ!!!! ――――ちゅぽん」
「ぁ……ふぁ…………ふえぇ……?」
「はむっ、んむっ、ちゅるるるるるるるるるるぅっ!!! むちゅっ!!! ぢゅるっ!!!! ぢゅるるるるうぅっ!!! ちゅっ、ちゅうううううううううぅぅっ!! ぢゅるっ! ぢゅるるるるうぅっ! ちゅううぅぅぅぅぅっ! ちゅっ、ちゅうううううううううぅぅっ!! ちゅっ、れろっれろっ、ちゅるるるぅっっっっ! ぢゅる、ぢゅるるるるるるるるるるぅっ!!!!!!!! ちゅううぅぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「んむむむっ! むぐっ、むぐぐぅっ! むむむっ! むーーーーーーっ!」
「……っぷはぁ」
最後の最後でとんでもない技を食らわされたライムは、顔から湯気を出しながら目を回す。
「い…………いまのなにぃ……?????」
もはや、自分が何をされたのかすら理解できていない。
「――――ちゅっ」
「ひんっ……!」
とどめの軽い口づけによって、今までの行為の意味を理解したライムは、恥ずかしさのあまり頭の中が沸騰し、爆発四散して意識を失った。
「うぐぅっ……! だ、だれか…………ぼくのかわりにおねえちゃんを……よろしく……おねがいします…………」
ほぼ同時に、マルクも自らの放った必殺技の反動で力つきる。
そして誰もいなくなった。
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