第81話 泣き落とし

「ど、どうして泣くんですか!? 落ち着いてくださいっ!」


 カーミラが突然目の前で泣き崩れ、困惑の表情を浮かべるマルク。


「だってぇっ、マルクちゃんとっ、お別れしたくないっ……ひっぐ!」

「わ、分かりましたから泣かないでください……」


 マルクはそう言って、どうにかしてカーミラのことをなだめようとする。


「アタシのこと見捨てようだなんて、あんまりよぉっ……うえええええんっ!」

「別に、見捨てようとしたわけじゃ……」


 しかし、もはやマルクが何を言っても、カーミラを止めることはできなかった。


 かえって、カーミラの泣く勢いが強まるばかりだ。


「……ワタクシ、まさかここまでするとは思いませんでした」

「ボク、逆に尊敬しちゃうかも」


 そんな大人げないカーミラを、引き気味に見つめるクラリスとリタ。


 もはやそこに、魔族のエリートにして王族出身者の威厳は存在していなかった。


「もう勝手にしたらいいんじゃない☆」


 みっともなく泣きじゃくる旧友の姿を目の当たりにしたルドガーは、どこか投げやりである。


「…………泣かないで、カーミラ」


 そんな、各方面から見放されつつあるカーミラに救いの手を差し伸べたのは、ライムだった。


「ライムぅ……あなたは、アタシの味方をしてくれるのねっ……!」

「ちょっと違うけど、ライムちゃんがなぐさめてあげる」


 そう言って、ライムはカーミラの頭を撫で始める。


「うぅっ……! ライム……あなたは良い子ね……!」

「ありがとう。ライムちゃん、うれしい」

「大好きよっ!」

「わっ!」


 突然、ライムに抱きつくカーミラ。


「おっぱい……顔に当たってる……」

「甘い匂いがするわ……それによく見たら、あなたの血もとっても美味しそうね……魔王の器として、たっぷり魔力がつまっている血よ……!」

「…………カーミラ?」

「ちょっとだけ吸わせてもらえないかしら? 一瞬痛いけど、その後すぐに気持ちよくなるから安心してちょうだい……?」

「ひゃうぅっ!」

 

 カーミラは、ライムの首筋を軽く撫でた後、耳元でこう囁いた。


「そうしたら、特別にアタシのおちちも吸わせてあげるわ……!」

「あ、あわわわわ……たすけてマルク……!」


 一瞬のうちにカーミラの餌食になってしまったライムは、引きつった顔でマルクのことを見た。


「――――わかりました……そんなに付いて来たいなら最初からそう言ってください。別に理由なんていりませんから」

「そ、それじゃあ……!」

「はい、改めてよろしくお願いしますね、カーミラさん」


 マルクは仕方なく、そう言ってカーミラにほほ笑む。


「みんなとお別れするのが嫌だなんて、カーミラさんも意外と子供っぽいんですね!」

「たぶん違うと思うよマルク……自分の身に迫ってる危機に気付いて……」

「……え? どういうことですかリタお姉ちゃん?」

「ホントに分かってないんだね…………」


 肩を落として呟くリタ。


 ともかくこうして、カーミラはなんとかマルクとの別れを回避したのだった。


 しかし、それでも尚ライムにちょっかいを出し続けたので、クラリスからいつものように制裁されることとなる。


 そうこうしている間に、一行は山を降り町へ戻ってきた。



「……ええと、それじゃあ、みんな僕と一緒に来るってことで、本当に良いんですね?」


 町のギルドで馬車の手配を済ませたマルクは、カーミラ達三人に問いかける。


「ええ、もちろんよ!」

「いやー……マルクの国に行くの、楽しみだな!」

「ワタクシも、腕が鳴ります!」

「そこまで面白いものは無いと思うけど…………☆」


 どうやら、三人の決意は固いらしい。どうあっても、マルクを追いかけまわすつもりのようだ。


「――それじゃあ、出発しましょうか!」


 そんな三人の思惑を知らないマルクは、もうすぐ姉に会って病気を治してあげられるという事実に心を弾ませながら、馬車へ乗り込むのだった。

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