第75話 魔王現る

「待ちなさい! この魔力は……一体……?」

「とても禍々しい魔力を感じます!」


 エルネストを追いかけて、真っ先に外へ出てきたカーミラとクラリスは、その魔力にたじろぐ。


 明らかに、先程までとは様子が違っていた。


「――これは良い。以前の老いた体より、遥かに力に満ち溢れている」


 エルネストの身体を乗っ取り、不敵に笑う魔王。


「オマエ……エルネストじゃないな……!」


 遅れて出てきたリタが、そう言いながら魔王を威嚇する。


「これはこれはお嬢さん方。お初にお目にかかる。……私は魔王、以後お見知りおきを」


 新たな力を手にした魔王に、以前の老人の面影はない。


「私の半身――あなた方がライムと呼ぶスライムの少女を差し出しさえすれば、危害を加えるつもりはないが……どうするかね?」

「そんなこと、神に誓ってできるはずがないでしょう! 恥を知りなさい!」


 クラリスは、魔王を睨みつけながら叫んだ。


「大人しくワタクシに浄化されなさいっ!」

「……それは残念だ」


 魔王はやれやれといった風に肩をすくめる。


「――では、死んでいただこう」


 その目が怪しく光ると同時に、魔王の身体から莫大な魔力があふれ出す。


「……一つ、良いことを教えてあげよう。かつての勇者ですら、背後から不意を打たなければこの私に勝つことは無かった。正面切って戦いを挑んだ時点で、キミたちの敗北は決まっていたのだよ」


 あまりの魔力に、カーミラ達はたまらず後ずさった。


「こ、これは……流石にまずいわね……」


 ――その時。


星降る指先シュテルネンリヒトナーゲル!」


 魔王の背中に、ルドガーの放った魔法が直撃する。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ルドガーの攻撃を無防備なままくらい、背中を抑えてうずくまる魔王。


「い、今だっ!」


 その隙をついて、リタが魔王に飛び掛かかり攻撃を始めた。

 

「ちょっと、まっ、ごふっぅ!」


 カーミラとクラリスもその後に続き、魔王へ殴る蹴るの暴行を加える。


「このからだっ! 思ったより弱いっ! はじめからっぼっこぼこだったっ!」


 うずくまって痛みに耐えながら、後悔の念を口にする魔王。


「なにこれ。もしかして私……攻撃する方間違えた……☆?」


 その様子を遠巻きに眺めていたルドガーは、思わずそう呟いた。


「ぐあああああああああああああああああああああ!」


 その時、クラリスがあらかじめエルネストの体にかけておいた聖なる魔法が発動し、魔王をさらに苦しめる。


「ぐふっ……!」


 かくして、魔王は縛り上げられて地面に転がされたのだった。


「……誰かと思えばルドガーじゃない。ちょうど良いタイミングだったわ」

「おやおや? どうしてこんなところに我が旧友のカーミラが☆?」


 言いながら、ルドガーはカーミラの元へ駆け寄っていく。


「わ、わけあってマルクちゃんと一緒に行動してるのよ」

「君がマルクと!?…………ま、まさかとは思うが、私の大切な弟子に手を出すようなことはしていないだろうね?」


 目を光らせながら問いかけるルドガー。


 カーミラは何も言わずに顔をそむけた。


「え…………冗談はやめてくれたまえよ☆」

「べべべべ、別に、あなたが思うようなことはしていないわ」

「…………ほーん?」


 ルドガーは、訝し気にカーミラのことを見つめる。


「あれ、ルドガー。借金は返せたの?」

「……リタ、君までいたのか。……まったく、マルクは修羅場だね☆」

「うん? どういう意味?」

「何でもない。こっちの話だよ☆」


 マルクの周囲に、自分に匹敵するヤバさの人材が集まっていることを知ったルドガーは、心の中で彼に同情した。


「みなさん……カサンドラさんは怯えてるし、外からは大きな音がしましたけど……一体何があったんですか……?」

「ライムちゃんも……記憶がとんでる……」

 

 その時、意識を取り戻したマルクが、ライムと一緒に外へ出てくる。


「今だっ! その体をよこすのだ我が半身よッ!」


 刹那、地面に縛られて転がされていた魔王がそのまま起き上がり、ライムへ向かって怪しげな魔法を放つのだった。

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