第73話 再会のエルネスト

「だ、だれ…………?」

「――なんだ貴様は。……こんなところに、本当に魔王の半身が居るのか?」

「ほ、本当にだれ……? 何を言ってるの……?」


 カサンドラの家にやって来たのは、エルネストだった。


「……なるほど、確かにこの中から禍々しい魔力を感じる。邪魔するぞ女」

「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 カサンドラを押しのけて、家の中へ上がり込むエルネスト。当然、中に居るマルク達と鉢合わせすることになる。


「――――オマエはッ!」

「エルネスト…………さん!?」


 リタとマルクは、驚いた顔で突然姿を現したエルネストを見た。


「なんだメス犬。こんなところに居たのか? 今は貴様にかまっている場合ではない」

「あ?」


 挑発され殺気立つリタを無視して、中に居る人間を見回すエルネスト。


「…………なるほどな、貴様が半身か。どうりで勝てないわけだッ!」

「ほえ?」


 そう言って、エルネストはずかずかとライムの前に近づいてきた。そう、魔王の半身はライムだったのである。


 ついでに、以前エルネストが町中で開催した喧嘩大会に参加し、エルネストを打ち破って金貨一万枚を持ち去ったのもライムだ。


「……お前を連れて来るよう言われている。抵抗せず、大人しく付いてこい」


 怒りをおさえつつ、ライムにそう告げながら手を伸ばすエルネスト。


 マルクは、ライムを庇うようにしてその間に立ち塞がった。


「ライムは僕の大切な仲間です。一体どういうつもりですか、エルネストさん」

「むふぅ……!」


 突然の告白と勘違いしたライムは、後ろで顔を真っ赤にする。


「…………! 貴様、よく見たらマルクじゃないか。なぜメイド服を着ている」

「い、今はそんなこと関係ありませんっ! いきなり僕たちの前に現れて、おまけにライムのことまで連れ去ろうとして、一体どういうつもりですかっ! ロリコンなんですかっ!?」

「ふざけるな。誰がロリコンだ。いいからどけ」


 エルネストは、マルクのことを押しのけようとした。


 しかしその時、カーミラ、クラリス、リタの三人が武器を引き抜き、それを三方向から同時にエルネストへ突き付ける。


「……事情はわからないけれど、あなたがマルクちゃんのことを追放したっていうエルネストよね? ちょっとお話があるの。返答次第では命まで取ることはないから、付き合ってもらえるかしら?」

「ワタクシは特に話すことはありません。マルクさんを苦しめたあなたは即刻浄化されてください」

「とりあえず、またマルクに手を出すつもりならボクが殺す」


 三者三様の殺気を向けられたエルネスト。


「おいおい、メス犬――ふぐぅっ!?」

 

 リタはエルネストの下半身を、後ろから容赦なく蹴り上げた。


、でしょ?」

「……ぐっ……リタさんはともかく…………他の二人は初対面のはずだが……?」


 困惑し、周囲を見回すエルネスト。四方を囲まれて、まさに四面楚歌の状態だった。


「そうね。死になさい」

「この者に裁きを!」

「おいおいおいまてまてまてまて! そ、そうだ、俺はマルクに話があるんだ。だから殺すな」


 命の危険を感じたエルネストは、とっさにそう話す。


「僕に……話があるんですか? この状況で……?」


 突然のことに、当然ながらマルクは困惑した。一体、この後に及んで何の話があるというのだろうか。


「――ああ、そうだ。以前お前をパーティから追放したのは間違いだった。お前の強さを認めてやるから、新たに一から立ち上げる俺のパーティへ戻って来い」


 エルネストは、「この場でマルクを味方につければ、ひとまず事が有利に働く」と頭の中で考えていた。


「嫌です…………」


 しかし当然、勧誘はあっさり断られる。


「なん……だと……!?」

「むしろ……どうしてそれで僕が戻ってくると思ったんですか……?」


 本気で困惑するマルク。エルネストの行動が、まるで理解不能だった。


「やっとわかったわ。あなた、馬鹿なのね!」

「なるほど……さすがにこれは救いようがありませんね。聖女もお手上げです」

「今のはちょっと……ボクもドン引きかな……」

「そういえばライムちゃん、こいつ倒したことあるかも。すごく弱かった!」


 他の皆からも散々罵倒されるエルネスト。


 プライドをズタボロにされ、そしてまたもや――


「ふ、ふざけるなあああああああああああああああああああああああああッ!」


 激怒したのだった。


 

 ――その後カーミラ、クラリス、そしてリタの三人に、再起不能になるまで叩きのめされ、拷問まがいの苦痛を受けたことは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る