幕間 不穏な動き


「……全員揃ったわね」


 部屋を見回しながら、カーミラが言った。

 

 室内には彼女のほかに、神妙な顔つきをしたリタとクラリスが居る。


「それじゃあ、とりあえず役割分担から決めましょうか」

「……ねえ、カーミラ」


 その時、リタが小さく手を上げた。


「あら、どうしたのかしら」


 カーミラに問いかけられ、ゆっくりと心配事を話し始めるリタ。


「今から急に準備して、本当に間に合うかな……? 上手くいくと思う……?」

「――元はと言えば、あなたが言い出したことでしょう? いまさら止めるなんて言わないでちょうだいね?」

「……べ、別に、止めるつもりはないけど……」


 リタは、おろおろしながらそう答えた。


「それなら何も問題はないわ。今ここには三人もいるのだから、ちゃんと分担すれば間に合う。――あなたもそう思うでしょう、クラリス?」

「もちろんです! それに、ワタクシたちの行いはきっと神も祝福してくださると思うので、失敗などありえません!」


 話を振られたクラリスは、やや強引に言い切る。


「う、うん……そうだよね!」


 しかし、どうやらそれで納得したようだ。リタの表情からは不安の色が消え去り、笑顔に戻る。


「――ところで、マルクちゃん達はもう居ないのよね? この話を聞かれていたら困るのだけれど……」

「大丈夫ですよ。先ほど隣の部屋を確認して来ましたが、お二人とも、すでに出かけていました!」

「そう。…………ライムも上手くやっているようね」


 意味深なことを呟くカーミラ。どうやら、マルクに知られてはいけないことを企んでいるらしい。


「ですが……また二人きりにしても大丈夫なのでしょうか? ワタクシ、万が一のことがあったらと思うと心配で……!」


 クラリスは、両手を組んで神に祈るポーズをしながら言った。彼女もゴルドムの件がトラウマになっているようだ。


「――その件に関しては大丈夫よ。いざとなれば、マルクちゃんの居場所はアタシが魔力感知で辿れるもの」

「……なぜですか?」

「だって、あの子の魔力は昨日、たっぷりアタシの体に覚え込ませて――」

「ほう。『魔力を覚え込ませた』ですか……それは聞き捨てなりませんね。一体、どういった方法でそれを?」


 クラリスの瞳が鋭く光る。口を滑らせてしまったカーミラは、「しまった」という風に両手で口元を覆った。


「ぜひとも、詳しく聞かせていただきたいものですねぇ」

「……ボクも、昨日の夜カーミラがマルクと部屋でナニをしていたのか、じっくりと聞かせてもらいたいな。返答次第では……そうだなぁ…………衛兵に突き出そっか!」

「――こ、こほん! と、とにかく、あの子の魔力はしっかり覚えているから、今回はマルクちゃんを見失うようなことはないわ! この話はこれでおしまいっ!」


 カーミラは問い詰められたことによる焦りと、昨日の出来事を思い出したことによる恥ずかしさで、顔を紅潮させながら必死に話を逸らそうとした。


「なぜ逃げようとしていらっしゃるのですか? 破廉恥なサキュバスには、やはりお仕置きが必要ですね……?」

「ちょ、ちょっと、何してるのよっ?!」


 いつの間にか背後に回り込んでいたクラリスに両腕を掴まれ、その場に拘束されるカーミラ。


「……とりあえず、またボクに全身舐め回されてみる……?」


 リタは言いながら、身動きが取れなくなったカーミラにゆっくりと近づいていく。


「なるほど、全身を清める意味合いでも、悪くないかもしれませんね」

「あ、あなた達……冗談でしょ……? アタシにそっちの趣味はないわよ……?」

「そっちの趣味……? 一体何の話をしているのでしょうか?」


 クラリスは首をかしげた。


「……よくわからないけど……きっとエッチなことだよ……!」

「なんと!? マルクさんだけでは飽き足らず、ワタクシ達までいやらしい妄想の餌食にしようというのですかこの●乱サキュバスはッ!」

「ボク……カーミラの頭のナカでどんな風にされちゃってるんだろう? ……どうせエッチな妄想に使われるんなら、マルクと一緒がいいな……!」


 カーミラの発言をきっかけに、ヒートアップしていく二人。


「どう考えても変態はあなた達でしょう!」


 体を揺らしながら、思わず叫ぶカーミラ。


「と、ともかく! マルクちゃん達が戻ってくるまであまり時間がないのよ!? 今はこんなことをしている場合じゃないでしょう!?」


 二人に対して、必死に訴えかける。


「それはそれ、これはこれです」

「覚悟してね……カーミラ」


 しかし、その主張は聞き入れられなかった。とうとう、カーミラはリタとクラリスに二人がかりで拘束されてしまう。


「これより神罰を下します」

「ちょっと! どこ触ってるのよ!? や、やめて……!」

「だめだよ。――だって、嫌がらないとバツにならないでしょ?」

「い、いやああああああああああああああああああッ!」


 逃げ場を失ったカーミラの悲鳴が、部屋中に響き渡るのだった。




 はたして、彼女達の計画は成功するのだろうか。




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