第47話 謝罪

「い、いきなりどうしたんですか!? 頭を上げてくださいカーミラさん!」


 マルクはあたふたしながら、ベッドから降りてカーミラの元へ駆け寄る。


「ちゃんと説明しないと謝っている理由に心当たりがありすぎてわかりませんよ、カーミラ」


 横から小声で呟くクラリス。


 その言葉を聞いたカーミラは、自身が謝っている理由を説明する。


「アタシ……知らなかったの! まさかマルクちゃんが、手袋なしで魔法を使うとこんなことになってしまうだなんて……!」

「言われてみれば……そんなこともありましたね」


 マルクはその時のことを思い出し、あまりいい記憶ではなかったのですぐに忘れた。


「それなのに……初めて会った時にマルクちゃんの手袋をびりびりに破いてしまって……アタシは……!」

「……他にもっといろいろとされた気がしますけど……」

「ごめんなさいマルクちゃあああああんっ!」


 カーミラは、姿勢を崩さないまま再びマルクに謝罪する。


「今更そんなこと言われても……もうやちゃったことですし、仕方がありませんよ」

「うぐぅっ……おっしゃる通りです……深く反省してるわ……!」

「それに、ちゃんと予備も持っていますしね」


 マルクはそう言いながらポケットを探ったが、手袋が入っていないことに気付いた。


「あ、あれ……?」


 そもそも、着ている服がいつもと違う。


「ああ、マルクさんの持っていた手袋の方は、ワタクシの方で保管しています。服も……その、だいぶ汚れていたので……ワタクシの手でお着替えを……ふひひっ」


 顔を赤らめながら、不気味に笑うクラリス。


「ライムちゃんも……マルクの体ふくの手伝った……!」

「えぇっ!?」

「マルク、まるはだか……」

「わざわざそんなこと口にださないでくださいっ!」

「わかった。次から気を付ける」

「うぅ……で、でも皆さんが僕の命を助けてくれたことは確かなので……ありがとうございました。……これ以上は何も言わないでおきます…………!」


 マルクは、恥ずかしそうにもじもじしてうつむいた。


「――とにかく、マルクちゃんが無事に目覚めて本当によかったわ」


 立ち上がり、心のそこからほっとした様子でカーミラは言う。それから、こう続けた。


「やっぱり、すぐにこの場所へ連れてくることができたのが良かったのかしらね」

「この場所に……? そういえば、ここはどこなんですか?」


 マルクは、先ほどから疑問に思っていたことを投げかける。


「ここは町にある大聖堂です。でも、マルクさんのように大けがを負った方の治療もしているんですよ。……お布施は必要ですけど」

「ライムちゃんがマルクをここまで背負ってはこんだ!」


 クラリスの説明に、ライムが付け足した。


「そうだったんですか、ありがとうございます。……それじゃあ、僕はあの後……」

「はい。外傷の方はワタクシの治療でどうにかなったのですが、体の内側にも酷い傷があって、おまけに魔力不足……かなり酷い状態でした。ワタクシ、あの痛々しいマルクさんの姿を思い出しただけで……ぐすっ」


 クラリスは涙ぐみ、服の袖で涙を拭う。


「でも、あの男――ゴルドムの方はアタシ達で懲らしめておいたから安心して。……それに、あなたのおかげで子供達も全員無事だった」

「そうですか……! それはよかったです!」


 マルクは、皆が無事だったことが嬉しくなり、ぱっと表情が明るくなった。


「自分の体のことより、子供達の無事を最優先するなんて……マルクさんはなんと慈悲深く勇気のあるお方なのでしょうか……っ! ワタクシ、深く感銘を受けました……ッ!」

「さ、さすがにそれは褒めすぎです……僕、どう反応したらいいのかわからなくなっちゃいます……」

「おお……なんと謙虚なのでしょう……! やはり、マルクさんのようなお方こそが真の勇者にふさわしいのです!」

「もう、クラリスさんは僕のことをなんだと思ってるんですかぁ……!」


 クラリスに拝まれたマルクは、困った顔をしながら他の二人に視線で助けを求める。


「――ああ、そうそう、マルクちゃんにはゴルドムを捕まえた賞金が出てるのよ! ……もし体の方が大丈夫なら、ギルドへ受け取りに行きましょうか」

「本当ですか!? 良かった、これで目標にまた一歩近づきます! ……ちなみに、報酬はどのくらい出てるんですか?」

「ええと確か……金貨十万枚よ!」

「――え?」


 聞きなれない数字を聞き、マルクの目が点になる。


「……そういえば、マルクが寝てるあいだ、ライムちゃんも金貨いちまんまいかせいだ! マルクにあげるね!」

「――はい? えっ?」


 さらに明かされる衝撃の事実。ライムが稼いだ額だけで、当初の目標金額に達していた。


「えええええええええええええええええええええ!?」


 そうして、再びマルクの叫び声が部屋中に響き渡るのだった。

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