無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる～今さら戻って来いと言われても、お姉さんたちが許してくれません！ 助けて！～

第33話 お話し合い(魔法)(物理)

「こんにんちは」

　マルクは男の前に立ち、礼儀正しく挨拶する。

「少し、お話を聞かせてもらってもいいですか？」

「ガキが……舐めてると潰すぞ……！」

「すぐに終わらせますから」

　男は、マルクの顔を睨みつけ、そして何かに気付く。

「……貴様……見覚えがあると思ったら……＜神童＞のマルク……！」

「僕のことを知ってるんですね。……もしかして、僕ってけっこう有名なんでしょうか……うぅ、なんか恥ずかしいです……」

　男に名前を言い当てられ、顔を赤くしてもじもじするマルク。

「それで本題なんですけど……」

「――まさか、ギルドに嗅ぎつけられたのか！？」

「あの、僕の話を……」

「おい、どうなんだ！　答えやがれこのクソガキ！」

　そう言われたマルクは、少しむっとしながら男の胸元に手を当てる。

「マナドレイン！」

　そして、容赦なく男から魔力を吸い取った。

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああ！？」

　悲鳴を上げて苦しむ男。

「……僕の質問に答えてください」

「ぐぅっ……この、悪魔めぇ……ッ！」

「さすがに、罪もない子供たちをさらう人に言われるのは心外です……」

「黙れクソガキ！」

「マナドレイン」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ！」

「お願いですから、質問に答えてくださいね…………？　そうすれば痛くしませんから……」

　マルクの言葉に対し、男は黙って項垂れた。

「とりあえず、ここから出る方法を教えていただけますか？」

「……………………」

　沈黙する男。

「マナド――「出口なら俺の後ろにある扉の先だ！　 真っすぐ進んで階段を昇れば廃屋に出られる！」

「……ありがとうございます！」

　そっぽを向く男に対して、にっこりと笑うマルク。内心、少しだけ楽しくなってきていた。　

　しかし、ふと我に返り、マルクは己の心のうちに眠る残虐性を戒める。

「こ、こほん。それじゃあ、子どもたちを見張っている牢屋の人と、あなた達二人のほかに仲間はいますか？」

「ペッ！」

　その時突然、男はマルクに向かって唾を吐きかけた。

　マルクはとっさに身をひるがえしたが間に合わず、着ている服に男の唾が付いてしまう。

　自分の身に起きたことが即座に理解できず、きょとんとした顔のまま固まるマルク。

「ざまあみろクソガキ！」

「――●しますね！」

　マルクは怒りで震える拳を握りしめて男に向かっていこうとする。

「マルク、おちついて。どうどう」

　その様子を近くで見ていたライムが慌ててなだめた。

「……っは！　ご、ごめんなさい。僕としたことが、怒りで我を忘れかけていました」

「あんなの、まじめにあいてしちゃだめ！」

「ライムの言う通りです……」

　ライムに諭されて、マルクはひとまず落ち着きを取り戻したようだ。

「クハハハハ！　ざまあねえぜ！」

「ちょっとだまってて！」

「はぅぅっ！？」

　男はライムに急所を蹴り上げられ、うめき声を上げながら背中を丸める。

「うえぇ……！」

　その様子を見て、マルクは思わず顔をしかめた。先ほどまで沸き起こっていた怒りは、ライムの無慈悲な攻撃を目撃したことで吹き飛ぶ。

「ぼ、僕は大丈夫ですライム。ですから……その、今後それはなるべくやらないようにしましょうね……？」

「それってなに？」

「お、おち●ちんを蹴り上げることですっ！」

「…………マルクがそういうなら、わかった」

　こくこくと頷くライム。

　マルクは水魔法で服についた唾を流し、気を取り直して男に向き直った。

「うぐおおおおおっ……！」　

　今度は同じことをされないように、うずくまる男の背後へ回り込み、背中に手を当てる。

「……だ、大丈夫ですか？」

「ち●ちんがぁ……ち●ちんがぁッ！」

「それで、さっきの質問なんですけど、どうなんですか？　他に仲間はいますか？」

「ぐおおおおおおおおっ！」

「あの…………」

「ぐああああああああああああああっ！」

　男はいつまでたっても苦しみ続けていて、マルクの質問に答えようとしてくれない。

「……マナドレイン」

「があああああああああああああああああああああああああああああああッ！」

「いい加減にしてください！　おち●ちんが痛いのは同情しますけど、そもそも自業自得です！　とにかく、あなたはもう捕まったんですから、大人しく質問に答えてください！」

　ライムに蹴られ、挙句の果てにマルクに怒られ、惨めな気持ちになった男は、ゆっくりと質問に答え始める。

「……今いるのは……ッ、俺達で……全員だ……！」

「なるほど、それじゃあここはもう安全そうですね」

「ライムちゃん、みんなを出してあげてくるね」

　ライムはそう言い残して、子供達が捕えられている牢屋の方へ走っていった。

「……もういいだろう。さっさと俺を解放しろぉ！」

「えっと、それじゃあ最後にもう一つだけ質問に答えてくれますか？」

「なんだよ……まだあるのかよ!」

「はい。――さっき話してたボスって、一体誰のことですか？」

　ボスのことについて聞いたとたん、男の表情がみるみるうちに緊張に包まれていく。

「……貴様、聞いてやがったのか！」

「はい。さっきの話、筒抜けでした。……それで、ボスって誰なんですか？　子供たちをさらっているのは、その人の指示なんですよね」

「……答えられない」

「マナ――「頼むよぉ！　本当に何もしらねぇんだ！　すぐそれに頼ろうとするなッ！」

　男に逆切れされ、マルクは若干の理不尽さを感じつつも手を引っ込める。

「知らないって、どういうことですか？」

「…………正体は、俺達にもわからねえんだよ。ボスは、姿を現す時いつも兜で顔を隠してるからな。自分がどこから来た何者なのか、一切話そうともしねえ。……だからその質問には答えられねえよ」

「……そうですか。ありがとうございます」

　いろいろと聞いてみたが、結局マルクの力ではあまり聞き出すことができなかった。

「――これで全部だな！　ちゃんと答えたんだから、さっさと俺を自由にしやがれ！」

　体を揺らしながら叫ぶ男。

　――やっぱり、こういうのは衛兵さんとかに任せておくべきだな。

　マルクはそう思った。

「……だめです。悪い人なのでちゃんと捕まってください」

「なんだと……ッ！」

「マナドレインッ！」

　男のひと際大きい悲鳴が響き渡った。