第32話 見つかる
部屋を出た先には、真っ暗な通路が続いていた。壁に掛けられた松明だけが唯一の光源で、その先にまた扉がある。
「暗いですね……」
「ライムちゃんがまもってあげる」
ライムは、マルクの腕にぴったりとくっつきながらそう言った。
「……ありがとうございます、ライム」
その様子を見て、苦笑いしながらそう答えるマルク。少しだけ心が安らいだ。
マルク達は、向かい側にある扉のそばまで歩いていき、誰かがいないか聞き耳を立てる。
「どう?」
「……何か話し声が聞こえます」
どうやら、男が二人話しているらしい。マルク達は息をひそめて、隣の部屋の話し声を聞こうとする。
「…………で、俺たちはいつまでこんなことをやってりゃいいんだ?」
「知らねぇよ。ボスの指示があるまでだ」
「ガキ
「ボスに直接そう聞けばいいんじゃねえか?」
「おいおい、そんな話したらどうなるかくらいわかるだろ? あっという間にバラされてゴブリンの餌だぜ……」
「だったら文句なんか言ってねえで、指示に従うしかないだろ」
その言葉を最後に、会話は途切れた。
「どういうこと?」
話を聞いていたライムは、首を傾げながらマルクに問いかける。
「……どうやら、子供たちをさらうように指示してるボスがいるらしいです」
「なんでそんなことするの?」
「さあ……変態だからでしょうか?」
「……ゆるせない!」
「僕もそう思います」
二人でそんな話をしていたその時だった。
「――おい、そこに誰かいるのか?」
扉の方から、明らかに自分たちへ向けてそう問いかける声が聞こえてくる。
マルクは慌てて口元を塞いだが、手遅れだったらしい。
「……今扉を開けるから、大人しくまってろ」
そう言って男が扉へ近づいてくる足音がした。
おそらく、今から元居た部屋へ戻ろうとしても間に合わないだろう。
「どうするのマル――」
マルクはとっさに、ライムの口を手で塞いで壁に張り付いた。
「むぐぐ」
「少しだけ静かに」
そして、突然のことに困惑するライムにそう耳打ちする。
それからすぐ、ゆっくりと扉が開かれた。
「…………誰もいないのか?」
扉一枚を挟んで男の声が聞こえてくる。
幸い、まだ扉の裏側に隠れているマルク達の存在には気付いていないようだ。
――つまり、一方的に攻撃を仕掛けられるチャンスは今だろう。
「――――ッ!」
マルクは、片腕でライムを抱き寄せたまま、もう片方の手で無詠唱のファイアーボールを放った。
「は?」
小さめの火球が、扉を突き破って男の体に直撃する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
無詠唱で威力が低下しているとはいえ、至近距離でファイアーボールを喰らった見張りの男。
その体は勢いよく壁に叩きつけられ、身にまとっていた衣服が燃える。
こうして、男はパンツ一枚の見るも無残な姿となり、床へ転がったのだった。
「うぅ……そのうち僕は人を殺してしまうかもしれません……」
二度も人間相手に魔法をぶっ放したマルクは、時間差で後悔の念に襲われる。
「な、何事だ!?」
「し、しまった、もう一人いるのを忘れてました……!」
「そこに誰か隠れてるんだなッ!」
もう一人の男がマルクの存在に気付き、扉に向かってそう叫ぶ。
「えっと……ライムはここに居てください……」
「うんうん」
マルクは、そっとライムを手放し、腹をくくって扉の前へ姿を現した。
「ガキだと……!?」
「ウォーターボールッ!」
そして、先手を打って魔法を放つ。
「ぶはぁ!?」
突然マルクの掌から放たれた水の塊に溺れる男。
「フリーズッ!」
間髪入れずに、マルクは濡れた地面へ向かって氷魔法を放った。
すると、あっという間に床が凍結していき、男の足を凍らせて動きを止める。
「ぐっ……くそッ!」
男はなんとか凍った足場から逃れようとするが、どうにもならない。
「はぁ……はぁ……意外と……なんとかなるものですね……!」
相手の無力化に成功したマルクは、冷や汗を流しながそう呟いた。
「えっと――ライムも、大丈夫ですか?」
それから、マルクは未だに扉の後ろで固まっているライムのことを覗き込みながら問いかける。
「……ライム?」
「マルク……すごくだいたん……!」
ライムは顔を赤らめながら、頬に手を当ててそう言った。
「え……?」
「あんなにらんぼうに……ライムちゃんの口をふさいで、自由をうばうなんて……!」
「ご、ごめんなさい! 痛かったですか!?」
「ううん……よかった……どきどきする……!」
マルクにはライムの言っていることの意味が分からなかった。
しかし、大丈夫そうなだったのでとりあえずそのままにしておいて、身動きを封じた男の方へ向き直った。
「……それじゃあ僕はあの人にじんも――少しお話ししてきますね。ライムは、落ち着いたら周りから人がこないか見張っていてもらえるとありがたいです」
「うん、わかった。ライムちゃんがんばる!」
「おねがいします、ライム」
マルクはそう言うと、未だに凍った足をどうにかしようとあがいている男の元へと歩み寄っていった。
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