第6話 マルクの役割
カーミラは、<勇者>パーティにおけるマルクの役割についての説明を始める。
「冒険者のパーティにおいて一番重要なのははパーティ全体の魔力量の管理ってことよ。マルクちゃんが担っていたのはその役割ね」
「…………?」
いまいちピンとこず、首をかしげるマルク。クラリスは説明を補足する。
「……確かに、威力の高い魔法やスキルで敵を圧倒する勇者エルネストのパーティにおいて、そこそこの威力の中級魔法しか使えないマルクさんは、あまり目立たない役どころです」
「うぅ……」
マルクは涙ぐむ。エルネストから似たようなことを言われたからだ。
「だ、だけど、大切なのはそこではありませんっ! マルクさんは、あのパーティにおける重要な魔力の供給源だったのです!」
「きょうきゅうげん……?」
「ここで質問です! マルクさんの得意魔法はなんでしょうか?」
「ええと……マナドレインです……」
マルクは、小さな声で自信なさげにそう言った。ろくに攻撃できない魔法など、得意だったところで大して役に立たない。今まで、エルネストに何度もそう言われてきたからだ。
「それは、これからあのパーティにとって欠かせないものになる魔法ね」
しかし、カーミラが口にしたのは意外な言葉だった。
「これから……?」
「更に高威力の上位魔法や、達人スキルを習得するほど、魔力不足という深刻な問題に直面するようになるわ。上を目指せば目指すほど、使う技に自分の能力が追い付かなくなってしまうの」
「そうなんですか……でも僕たちは……」
「魔力不足なんて誰も気にしていなかったのでしょう? だってマルクちゃんが全部管理してたんだもの。…………意図的なものじゃなかったのかしら?」
「僕は……強い魔法が使えないからできることをしていただけです……。みんなの役に立ちたかったから……」
「ふぅん……無知は罪ね」
「ごめんなさい……不勉強でした……」
マルクはしょんぼりと肩を落とした。
「ままま、マルクちゃんのことじゃないのよ。ゆ、勇者の馬鹿に言ったの! 熟練の冒険者パーティが直面する問題だから仕方ないわっ! ええそうよ!」
カーミラは自分の不用意な発言で落ち込んだマルクを慌てて慰める。クラリスは、そんなカーミラを横目で見ながら言った。
「哀れな取り乱しようですね。おお神よ、この者に救済を」
「黙ってなさいこの●●●●●」
「よくわかりませんが侮辱された気がします!」
顔を真っ赤にして怒るクラリス。
「ふ、二人とも落ち着いてくださいっ!」
好戦的かつ刺激的な二人の間に挟まれたマルクの精神は、現在もごりごりとすり減り続けている。
「……でもカーミラさん、ルーキーなのに僕より詳しいんですね。すごいです」
「うふふ……」
マルクに尊敬のまなざしを向けられ、嬉しそうに笑うカーミラ。
「ワタクシの説明を途中から奪わないでいただけますでしょうか……?」
クラリスは、そんなカーミラをうらめしそうに見つめた。
「あら、先に奪ったのはそっちじゃない。アタシはただ取り返しただけよ」
カーミラはくすくすと笑う。
「こ、こほん。あ、そうだ。マルクさんはその年でたくさんの魔力を持っているのもすごいところですよ。おまけに冒険者として今までたくさん魔法を使ってきたことでしょう。そうして体の中を何度も循環し極限まで無駄をそぎ落とされ熟成された魔力は大変美味で分け与えられた相手に多幸感をもたらすと言われています」
「そ、そんな話は初めて聞きました……それに、言っている意味がよく分かりません……」
クラリスに早口でそうまくし立てられたマルクは、少しだけ身を引きながらそう答えた。
「ヒューマンに魔力の味はわかりませんからね。……ぐへへ」
「く、クラリスさん……?」
クラリスは、青い瞳を光らせながらマルクのお腹を人差し指でなでた。
「ああ、若い……おさなごの……花開く前の……秘められたる魔力……!」
「あ、あの……?」
明らかにクラリスの様子がおかしい。マルクはクラリスから距離をとる。
「だめよ、むっつりすけべさん……。この子はアタシが先に目をつけたのだから……!」
しかし、背後にはカーミラが居た。マルクは、二人によって壁際に追い込まれる。
「ど、どうしてそんな目で見るんですか……? こ、怖いです……!」
「マルクさんを見ていたらお腹が空いてしまいました……さっき魔法を使ったせいですね……」
「アタシも、途中で邪魔されたからメインディッシュがまだよ……!」
「ひ、ひえ……」
じりじりとにじり寄ってくるクラリスとカーミラ。マルクが今まで戦ったどの魔物よりも恐ろしい。
「ちょっとだけ吸わせていただいてもよろしいですよね……?」
「な、何を吸うんですかっ!」
「アタシ……もうがまんできないわ……!」
「我慢してくださいっ!」
マルクはとうとう二人に捕縛される。二人がかりで抑え込まれ、身動きがとれない。絶体絶命のその時、マルクは二人が求めているのは自分の魔力だということに気づいた。
「く、くらえ!」
むにっ。
一か八か、マルクは目をつむりながら両手を突き出して二人に魔力を流し込む。
すると二人の動きがぴたりと止まった。
「んっ! すごいぃ! しゅごいですぅっ!」
ほおに手を当て、幸せそうな笑顔を浮かべるクラリス。
「あんっ……いいわっ……すごくいぃっ……!」
カーミラはぶるぶると震えながら自分を抱きしめる。
「た、たすかった…………?」
その時、マルクは自分の両手が柔らかいものを握っていることに気づく。
恐る恐る、目を開いて顔を上げるマルク。
「――あ」
なんと、彼が掴んでいたのは、二人の豊満な胸だったのである。
「ごごごごめんなさいっ!」
血相を変えて両手を離し、二人から逃げるようにしてベッドの裏側に回り込むマルク。
「……はっ! ワタクシは今まで一体何を……?」
それからクラリスは正気を取り戻した。
「意外と大胆なのね。……マルクちゃん?」
カーミラは、ゆっくりと起き上がりマルクの方を見てにやりと笑う。
「ご、ごめんなさいっ!」
「どうして謝るのかしら? ――そんなことよりマルクちゃん、汗でべとべとでしょう?」
唐突にカーミラはそう問いかけてきた。
「え……? は、はい」
マルクはうなずく。
「それじゃあ、入りましょうか」
「入るって……一体何に入るんですか?」
「お姉さんと、お風呂」
「………………」
あまりに突拍子もない提案だったため、マルクはカーミラが言っていることを理解するのに時間がかかった。マルクは、何度も目をぱちぱちとさせる。思考が理解を拒否していた。
「あらあら、かたくなっちゃって」
そう言ってカーミラはマルクをからかう。
「……ぼ」
「ぼ?」
「僕は一人で入れますっ!」
それに対し、マルクは顔を真っ赤にして叫んだ。
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