第16話「まるで吹雪の雪山のように」
その夜、清志はパソコンに向かいため息をついた。デビファンを起動しながら独り言をつぶやく。
「はあ、今日はさすがにみんな集まらないだろうな。」
『なんだゲームか。中学生の分際でMMORPGとは生意気だな。』
しかしその独り言も今は独り言足りえなかった。清志の指にはまるルビーの指輪魔導王がいるからだ。
「うるせえ。さっきまでいくら話しかけてもうんともすんとも言わなかったくせに。」
『お前の事情など知ったことか。』
「はあ。」
得体のしれないものが自分の手にあるかと思うと気が休まらない。誰かに押し付けたい気持ちはあったがやはり清志にはどうしようもないのだ。せめてストレスを発散しようとゲームを始めたわけだが、
「あれ、…新イベント?まだ内容は出てないみたいだけど…。」
ゲームのお知らせが書いてあるところに新イベントの告知があった。しかしまだ内容は書いておらず、ほかの情報サイトにも特に記載がない。
「何のイベントだろ?まあいいか、じきわかるだろうしな。」
デイリーミッションだけこなしその日は眠りについた。
次の日、清志たちは魔導王により前回異界へ入った場所である公園前に集まった。魔導王の話ではあの場所は世界の隠しポケットのような空間であるという。特定の条件を満たすことで侵入することができる場所であり、この公園はその条件をより満たしやすい場所であるらしい。
『それでお前たちに与える武器を制作するにあたり能力や武器種に希望があれば聞こうと思う。面倒だから紙にまとめろ。』
今回の本題はそれだった。その言葉を聞き特に瞳や洋子は喜んで自分の武器を考え始める。
「はー武器かー!やっぱり杖だよな聖女らしくどんな傷も治す杖でいざという時みんなを守る盾になるような…。」
「いいですね!あ、でもデビファンの武器種にわざわざ合わせなくてもいいですよねー。うーんでもやっぱり体験のカッコ良さには…。」
「僕はいつも通りの刀でいいかな。能力か、空を飛んだり斬撃を飛ばしたりも大丈夫なのかな?」
『能力はせいぜい二つ程度つけれると思え。あと完全に希望通りになると思うな。死人が生き返ったり時間が巻き戻ったりなどはできんからな。』
その時楽しそうに理想の武器を話し合うみんなを見て清志はある疑問が浮かんだ。
「ちょっと待て、俺は?俺希望も聞かれず渡されてんだけど、改良されたりするのか?」
『お前はすでに作ったのだからそれでよかろう。』
「え、このまま?」
『ああ。』
「…。」
『…。』
「なんだよそれずりーよ!なんで俺だけ!?ほかのみんなはオーダーメイドなのに!」
理不尽だと文句を言う清志を見て洋子は意地悪な顔をした。
「清志は初期キャラってことですね。これからインフレに負ける運命なのです。」
「そんなのあんまりだー!最初の一日二日使われてぽいなんて嫌だああああ!」
たいていのオンラインゲームにおいて初期キャラがだんだん新しい強力なキャラクターの登場で使われなくなることはよくあることだ。特に主人公が最初に持っているような武器はすぐにより強力なものに置き換えられて捨てられる運命にある。清志は自分もそうである気がしてならなかった。
『文句を言うな愚か者め。ただでさえ少ない魔力を切り詰めているというのにわざわざ改良している余裕などあるものか。あるだけありがたいと思え。』
「そりゃわかってんだよ。あれがいい刀だってことくらい…でもなんかなんか負けた気がする!畜生。」
昨日もらった刀は思わず清志が見ほれるほどのものだった。清志からすればとても素晴らしいものをもらったのは確かなのだが、人の性というべきか隣の芝は青く見えてしまうのである。
「まあまあ、それでそのアイテムはどのくらいでできそうなんだ?」
『そうだな…皆夫の要望なら刀だからすぐに作れる。ほかはまだデザインに時間がかかるな。魔力回復の観点から言って三日にひとつが楽だな。順番はどうする?』
「私はすぐじゃなくていいですよ。その代わりいいの作ってください。」
「じゃあ私は皆夫の次な。千歳たちはどうする?」
「私は洋子の後でいいです。別に。」
「私も後でいいかなー。」
千歳たちの言葉を聞き洋子は少しむっと顔をしかめた。
「千歳。何ちゃっかりと私の後列に並ぼうとしてるのですか。最良の武器は渡しませんよ。」
「ばっかじゃないの?」
『その程度の時間差で機能に差なぞあるか。全員初期キャラだ阿呆め。』
「な、誰が阿呆ですかだれが!」
その反応にリズは少しうれしそうな顔をしていった。
「お前だ!ふっふーん!…それでさ清志、その指輪外れたのか?」
悔しそうな洋子を見て一矢報いたと喜びながらリズは清志に質問する。清志は目を丸くした。
「いや考えてもなかった。とれるのか魔導王?」
『ん?ああ取れるがそれがどうした?あれは寝ているときに捨てられていないための安全策だ。起床時は必要ないからな。』
その瞬間、清志は指輪を外し地面に投げつけた。地面にぶつかる前に空中に浮くように制止する光景を見てただしゃべるだけの指輪出ないことを再認識するが
『何をする。』
「お前な、外れるんならそう言えよ!俺が昨日と今日どれだけ苦労したと思っていやがる!?」
「あー、そういえば学校で頑張ってたよね清ちゃん。」
そう、昨日と今日清志はこの指輪を巡ってある意味死闘を繰り広げたのだ。学校にこんな高価そうな指輪をしていくなんて大問題だ。担任の白夜は事情を知っているため特にお咎めなはいのだが、クラスメイトやほかの教師陣に隠し通すのは大変な苦労だった。
「授業中給食中休み時間中どこに行っても気が休まらなかったんだぞ!?」
「はた目から見ててすごかったぞ?人の視界に入らないように左手があっちゃこっちゃ動いてさ。」
「それは見てみたかったのです。」
「うわー。」
『いや突き指と称して包帯でも巻いておけばよかっただろう?』
「それじゃなんか苦しそうだろうが!」
『あ、俺のためだったのか…えーとありがとう?』
よくわからない気づかいに魔導王すら困惑した。清志に同情の生温かい視線が向けられる中、リズは宙に浮く指輪を拾う。
「じゃ、こいつは私がもらってくな。いいだろ?」
「え!?」
急に言われて驚くが清志は一度よく考えてみる。清志は正直に言ってこのまま魔導王と共に生活するというのはまっぴらだった。そこらへんにしまっておくわけにもいかないが、身に着けていれば四六時中監視されているみたいでいやだからだ。なので
「よしいいよ。」
「よっしゃ!」
快諾することにした。誰かに魔導王を押し付けるというのは気が進まないがほしいというなら上げればよいのだと思った。
『おい、人をものみたいに扱うんじゃあない。』
そう魔導王が文句を言うが気にしないことにした。リズはその返事を聞くと嬉しそうににひひと笑った。
「サンキュー!じゃあこいつは私が面倒みるから安心してくれ!話が終わりなら先帰るなー。」
「あ、おう。」
「じゃあ私も。瞳先輩さようなら。」
そういってリズと千歳は帰宅してしまった。
「なかなかりずはやりてですね。よく考えてみると昨日からあの指輪を狙ってましたし、いきなりすぎてそのまま話が通ってしまいましたよ。」
「まあ、魔導王が何かしないか心配っちゃ心配なんだけどな。」
「大丈夫じゃない?なんだかんだ言い人そうだよ彼。」
「そうかー?」
リズがどうして魔導王を持って行ったのかは知らないが、これで清志の肩の荷も少しは軽くなったというものだ。心配がないわけではないがしばらくは様子見となるだろう。すると皆夫のつけているブレスレッドが鳴った。ちょうど電話のようにベルのような音が鳴ったのだ。驚く皆夫は電話ボタンらしい部分を押した。
『言い忘れていた。お前たちに任務を与える。』
「任務?」
『俺の与えた武器を用いてその場所から異界に向かい、アンノウンを討伐することだ。アンノウンについては清志に説明した後で聞くがいい。異界に入るにあたり本名素顔は極力隠すんだな。』
「いきなりだね。でもまだ清ちゃんしかアイテムないよ?さすがに一人は危ないんじゃないかな?」
『すでに皆夫、お前のは制作した。試用してくるといい。』
その時皆夫の目の前に刀が現れる。清志のものとは違いより日本的な装飾の武骨な刀だった。
「わあかっこいい。仕事が早いね。」
『デザインがある程度決まっていたからな。要件は以上だ。俺がいないときに死んでも自己責任であるが、まあ死んだら契約違反で誰かが生贄になると思え。ではな。』
電話が切れた。
「勝手な奴だな。」
「でも魔導王なりの激励なんじゃないか?なあ皆夫、その刀見せてくれないか?」
「ならついでに清志のも出してほしいです。」
清志もブレスレットから刀を出し、見せた。
「美しいな。あ、でも抜けないな。持ち主以外使えない感じなのかな?」
「名前も付けないといけませんね。考えておくのです。」
「ありがとう。じゃあどうしようか?行ってみる機能の場所へさ。」
「行こう行こう!なんだか冒険に行くみたいでワクワクするな!」
「いや瞳はまだ駄目だろう?アイテムないんだぞ?」
「清志が守ってくれればいいんですよ。さ、行きましょう行きましょう!」
「だってさ。危なくなったら逃げればいいんだしいいんじゃないかな?」
「まったくお前らナー。」
しかし、なかなかわくわくした気持ちがあふれてきているのも事実だった。アイテムの存在で気が大きくなっているのも確かだが、この四人で探検するというのは清志にとってとても楽しそうなことだったからだ。
「わかったよ。行こうぜ。」
清志は魔導王に教えもらった方法で異界の門を開いた。そして四人はその門をくぐりまた異界へと足を踏み入れたのだった。
「…。」
「…。」
「…。」
「…なんだこれ?」
入った後、清志たちは固まってしまった。正直に言ってあの木々しかない森の中を淡々と歩くのも面白みに欠けるとは思っていたのだ。しかしそこには木々などほとんどなかった。木々の代わりに傾いた都会的な建物やモニターがあふれるフィールドがあった。来るとこ間違えたかなと思ったのは清志だけではないだろう。清志が次の言葉を発する前にモニターに知らない人物が映った。金色に染めた長めの髪にハートのサングラス、アロハシャツとチャラ男の典型といった風体の男がマイク片手に叫んだのだ。
『レディースエンドジェントルメン!ようこそデビファン特設フィールド「クレイジー・ノイジ―・シティー」へ!これから新イベント「最強決定バトルロワイヤル」について説明するよー!俺様は司会を務めるDJ・トルティーヤ様だ!』
やかましいその声に四人は唖然とした。そして清志はすぐにブレスレッドの電話ボタンを押していった。
「おい魔導王!変なとこに来ちゃったんだけど!?」
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