第11話 嘘つきの櫛
ゆっくりと
イリソスは夢中で水を求める様子を見届け、再び耕された土に視線を戻す。大地には巨大な
彼は車に戻ると、土器を運び出した。それらに満たされた土からは若々しく育った緑が伸びている。イリソスはそっとそれを取り出しては大地へ移して行った。
やがて
「ごめんな、お前も
腕を伸ばして再び撫でると牛はやがて眼を閉じた。皮と関節の目立つ
イリソスは腰の袋を探ると、白檀の
ラウレイオンを落札する時、既にクロエは
櫛には模様のようなものが刻まれている。これは彼女自身がつけた彫り跡だ。
『歯が欠けて嬉しい櫛なんて余りないでしょう?』
彼女の象牙の櫛は牛や小舟を生んだ。同じように、この櫛を売れば牛を買えるだろう。
しかし、イリソスは迷いを覚え、それを仕舞った。代わりに彼は自分の櫛を取り出す。
彼は動かない牛に近寄ると、その櫛で毛をそっと
その時、突然、櫛の歯はひとまとめに折れた。
心臓が
根元から失われた
「嘘つきの君らしい贈り物だ」
苦い笑みをもよおしながら彼は櫛に額を当て、天を仰ぐ。涙に暈ける世界を振り払うと、雲の割れ目に落日を追う
イリソスは彼女に問いたい衝動に駆られる。何かを成そうとするならばクロエはどんなものも惜しみなく手放すか、と。
――宝に身を飾ることの許される女神の似姿に生まれながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます