第16話 孔雀
誰が命を落とそうと、ラウレイオンに魔が
その日常の中、山の平穏は突然、訪れた。
挑戦者達は目の前で魔物が
鉱山の権利者は
やがて経営者自ら、貢献者に供物を下げ渡そうと、人々を近付けた時である。彼の隣りで孔雀の羽の
「クトニア!」
視線の先にはクロエがいた。彼女も青白い
「銀は私の届く限り、採り尽くしました。魔が消えて国から支援がなくなれば採算は合わないでしょう。経営権の残りの年月分、負債ですね」
そう告げるや彼女は
「まだ経営権を買っているなんて。嬉しいわ、お母様」
そして、彼女は孔雀の羽を憐れむように見た。ひ孫が生まれても不思議ではない歳を思えば充分に若々しいとはいえ、女にその飾りは派手やか過ぎる。しかし、クロエの見る不似合いは別にあった。
「男達をひざまずかせ、意に添わなければ娘の父親さえ死地へ送ったあなたでも、婚姻の女神の聖鳥の羽がそんなに魅力的? 所詮まやかしに過ぎないのに」
女神の民は女神の民としか結婚できない。
「この幸せがわからないのね。でも、そんなに衰える前に、一生を共にする心の妻、と誓う殿方を得れば良かった……そう、お前は後悔するわ。美しく生んであげたのに愚かな子」
母娘は鏡に映し合ったように互いを嘲笑した。
しかし、
「ええ。『心の妻、と誓う殿方』に、魔が掃討されたら公表する新鉱床がある、と
クロエが顔をほころばせると、対称的に女は色を失う。
「何故それを……」
「彼は私の声を運ぶ木霊」
彼女は母親の隣りに
「でも、一生を共にするのを邪魔する気はないわ。お幸せに、ね」
引かれるまま、彼が三叉路まで行くと、クロエは立ち止まり、手を離す。彼女は
「今まで有難う」
「……僕は用済みなんだね」
「あなたは適齢期じゃない。イリソス、私を二度と見なければ、あなたは幸せな生を得られる。私に寄られる隙を見せてはダメよ」
先刻の姿が嘘のようにクロエは静かに微笑み、彼へ背を向けた。
――君は嘘つきで嘘つきで、ずるくて残酷で。
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