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彩亜也
とある商人と奥様のお話
赤い切妻屋根が乗った石造のお屋敷。広い庭には四季折々の花が咲き乱れ見るものを魅了する。
この邸宅の持ち主は貿易商を営むカイゼル・バンフィールド。鉱石から香辛料まで多岐にわたる商品を取り扱い、その取引先は王家も含まれるほどのやり手だ。
日当たりのいい南面、向かって右下が彼の執務室。
しかし当の本人はその素晴らしい品ではなく、文字や数字ばかりが並ぶ書類に目を通し、灰色の瞳を細めたり、指輪で飾られた手を忙しなく、頭や口元、机の上と移動させ、時にはペンを持って修正を加えるばかり。綺麗に整えられたダークブロンドの髪が垂れてくる頃、重厚な扉が四回ノックされ、初老の執事が現れた。
「旦那様、奥様がお見えです」
少し呆れたような言い方は、このやりとり——正確にはこの後カイゼルと妻ダフニーとの間で行われる会話——が、今日が初めてではないからだろう。カイゼルは執事に中に通すよう伝えると、前髪を掻き上げ立ち上がった。
「失礼します」
プラチナブロンドの髪が窓から入ってきた光を反射して、一層輝いて見えた。ゆっくりと優雅な動きで入ってきた猫目の美女こそ、カイゼルの妻ダフニー・ヴァランタン・バンフィールド。煌めくエメラルドの瞳はその下、星のように散りばめられた
——元より整った顔のカイゼルの周りにはいつも華やかな女性がいた。父親は貿商王と呼ばれ上流階級と触れ合う機会も多く、また名ばかりの下級貴族からは収入の多さからぜひ婿入りをと声がかかることも少なくない。カイゼルは三男坊ではあったが、それでも引く手数多だった。
そんな彼の妻ダフニーは海を渡った隣国の子爵令嬢で得意先の娘の一人。ダフニー自身は長女であるが彼女には二人の兄と一人の弟がおり彼女が子爵家に直接関わることは無い。そんな二人がどういう
しかし困った事に当人同士はこれが愛の無い政略結婚だと考えていた。困った事、と言うのは二人が相思相愛だったから。想い合う二人が意味の無い線を引き合い、お互いの感情探り合って事態は明後日の方に向かってしまっているのだ。
ここで、ダフニーがカイゼルの部屋を訪れたところまで話を戻したいと思う。
ダフニーに見惚れるカイゼルに、ダフニーは先日貰った口紅で染まる柔らかな口を開き“カイゼル様、私……”ゆっくりと言葉を紡ぐダフニーは、躊躇うように言葉を切る。その先を促すようにカイゼルがダフニーの瞳を見つめると、ダフニーはようやく続けた。“……今度はシルクで出来たドレスが欲しいわ”と。執事はまたかと言うように小さく息を吐いた。カイゼルの方はこれを笑顔で承諾し、執事に至急仕立て屋を手配するように命令すると、他に欲しいものはないか?と微笑んだ。ダフニーはそんなカイゼルを見て少しだけ目を見開くと、呟くような声で「いいえ」と断って部屋を出て行った。
「アーロン、ダフニーの部屋のクローゼットにはあとどのくらい空きがある?」
「はい、旦那様。奥様のクローゼットにはもう入りきりません」
「だから、いい加減諌めてください」と言わんばかりに表情で訴えるアーロンを無視して、カイゼルはついでにダフニーのクローゼット用に使っていない部屋を片付けるように命じた。
カイゼルの部屋を出てすぐ、長い廊下を歩くダフニーの顔は決して晴れやかとは言えなかった。部屋に戻り、クローゼットの中を確認して余計に頭が重くなる。そんなダフニーを見て彼女付きの侍女ヴィオレットは「またですか」とアーロンのように溜息をこぼした。
「今度はどんなドレスを?」
「……シルクの物を」
「それならすでに十着はあります、毎晩夜会に出るおつもりで?」
そんなつもりがない事をヴィオレットは知っていた。毎日どころかダフニーは結婚してから一度もそう言った集まりに参加した事はない。そもそも愛するカイゼルがいるのだから必要もないのだ。分かっていて意地悪な言い方をするヴィオレットに癇癪を起こすでもなく、ただ肩を落とすだけ。
「明日こそカイゼル様に言うわ」
「レースの美しいドレスが欲しいと?」
「それこそシルクより多いわ!……カイゼル様とお茶の時間を過ごしたいって事よ……」
誰よりも切実な溜息を吐いてダフニーは椅子に座る。その様子にヴィオレットのお小言は形を潜め、代わりに優しく語りかける。
「私はダフニー様にお仕えして十余年、いつも貴方様の事を考えております。貴方様の幸せを」
「ええ、いつもありがとうヴィオレット」
ヴィオレットの真っ直ぐで優しい言葉に、微笑みを浮かべるダフニー。思えば自分が悩む時はいつでもヴィオレットがそばにいてくれた。その事にダフニーはいつも感謝をしていた。
「はい、奥様は誰よりも美しく、また心はそれ以上に美しいお方です。カイゼル様もそんな奥様の事を思えばこそ、こうして様々な贈り物をしてくださるのですよ」
ヴィオレットの言いたい事を理解して、ダフニーの瞳は悲しげに揺れる。贈り物は愛情の証、それが世間一般の常識であったが、ダフニーの育った環境に限りそれは優しさとは呼ばれなかった。それどころか罪とされ、ダフニーのために両親が贈り物をする事も殆どなかったのだ。しかしダフニーはそれに疑問を抱く事なく、それこそ真の愛情だと信じて今日まで生きてきた。だからこそ、与えるばかりのカイゼルの行動は自分に愛が無いからこそなし得るのだと曲解していたのだ。
「けれどお母様はそれは優しさではないと、愛ではないと仰ったわ」
「それは……」
子爵家の財政難が続いたせいだと言いたかったがヴィオレットは口を噤んだ。今仕えているのがダフニーとは言え、ヴィオレットの元々の雇用主はヴァランタン子爵家なのだ。タブーに触れてしまう。そんなヴィオレットに微笑みかけると、ダフニーは「私が頑張らなくちゃ」と窓の外を見つめた。
翌朝、意を決してカイゼルの元を訪れたダフニーを見て、カイゼルは「今日はどんなドレスを?」と先手を打ってきた。「いえ、ドレスではなく……」反射的に返したダフニーはドレスでは無いと伝えることができて内心喜んだ。ダフニー自身、すでに一生掛かっても着ることのできない数のドレスには困っていた。
「それでは、何を?」
「あの、お茶を……」
“お茶の時間を”と言いたいのに“お茶を”と区切ってしまい頭が真っ白になったダフニーはそのまま黙ってしまう。そんなダフニーにカイゼルはズレた気を利かせて「どんなフレーバーを御所望ですか?」と微笑み「あ、あの果物が好きです」と混乱したままに答え逃げるように部屋から出て行くダフニー。一部始終を見ていた執事のアーロンだけは新たなやり取りの確立に頭を抱えた。
この日から一月、ダフニーのために最高級の茶葉が毎日贈られている。
「お茶の“時間”を御所望だと思っておりましたわ」
と口角をひくつかせるヴィオレットにダフニーは「違うの」とベッドに倒れ込んだ。
「ですがダフニー様、ドレスと違って茶葉は消耗品です。これだけの量ですと、飲み切る前に茶葉がダメになってしまいます」
「そうよね……ヴィオレット、ここからここまで、みんなの休憩時間に配っておいて」
「そんな、旦那様からのせっかくの贈り物を……」
「ダメにしてしまうよりはその方がいいと思うわ」
困ったように眉間に皺を寄せるヴィオレットを無視してダフニーは廊下で待機している執事やメイド達に茶葉を配り出す。ヴィオレットは慌てて止めると「私がやります」とダフニーを部屋に連れ戻した。
この一件が事態をさらにややこしくする事をダフニーは知らない。
ダフニーが茶葉を配っている事はすぐにカイゼルの耳にも入った。そして、自分が苦労して手に入れた幻の茶葉まであっさりと譲ったと知り、ダフニーに不信感を覚え始めていた。
「ダフニーは私の事を夫として認めていないのだろうか」
不意に仕事の手を止めたカイゼルにアーロンは「そんな事は」と否定する。しかしカイゼルはそれ以外にダフニーの行動を説明できず頭を抱えた。
「彼女のために仕立てさせたドレスを着ている姿を私が見たことは一度も無い」
「それは……」
ドレスが日常的に着るようなデザインで無いことと、カイゼルは基本的に執務室に缶詰でダフニーと顔を合わせる時間は彼女が“おねだり”をする数分だけだからだろう……と言いかけてアーロンは黙った。
しかしその様子にカイゼルは余計悪い妄想を膨らませて行く。
「誰に会うためのドレスなんだろうな」
自分の知らないうちに、誰かと夜会へ参加しているのかも知れないと、カイゼルは表情を曇らせた。もしかしたら、屋敷に意中の男がいて、茶葉もその男に贈る目眩しのために使用人に配っていたのかもしれない。これまで商業に使ってきた頭を今一度妻に使って導き出した答えに、カイゼルは心臓が掴まれる思いだった。
「彼女の真意を確かめた方が良さそうだ」
カイゼルはアーロンに明日の午後ダフニーをお茶に招待するよう命じた。
そうと決まれば今ある仕事を片付けておく必要があると、カイゼルは誰も部屋に近づけぬようアーロンに命じ、夕食の時間まで執務室に篭りきりだった。
一方ダフニーは自分から誘えなかったお茶をカイゼルの方から誘ってもらえた事に喜び、どんな服を着ようかとヴィオレットに相談する。
「旦那様に頂いたドレスが山ほどございますが」
「……どれも夜会向きだわ。旦那様と行くならまだしも、一人では着る機会なんてないわね」
一度も袖を通していないドレスに触れ胸が痛む。なかなか勇気の出ない私のせいでこれほど上質なドレスを眠らせるために調達したのだ。どれほど値が張るのだろうか。少なくとも質素な暮らしをして来たダフニーには想像もつかないほどの大金だ。それをカイゼルと言えどポンと出せるわけがない。
「……旦那様が毎晩遅くまでお仕事をしているのは、もしかして私のわがままのせい?」
否定して欲しくてヴィオレットに問う。けれどその意図を無視してヴィオレットはそれを肯定した。
「こちらのドレスは最高級のシルク、こちらのレースはこの細かさからモンクレー氏の作品である事は明らか、さらにこちらのドレスには宝石が散りばめられています。どれでも一つ売ればまず庶民は向こう十年食べ物に困らないでしょう」
「そう、そうよね……」
突きつけられた現実に落ち込むダフニーに、ヴィオレットはついに我慢の限界を迎えた。
「ダフニー様、このヴィオレット、子爵様に恩はあれど、これ以上黙ってなどいられません。お嬢様、世の男性は愛しい人に贈り物をするものなのです」
「でも、それは愛ではないとお母様が……」
「子爵家はカイゼル様と違い裕福ではありませんでした。ですから、他のご令嬢方のようにやれ新作のドレスが、宝石だと言われたくなかったのでしょう」
「そんな!ヴィオレット、あなた自分が何を言っているのかわかっているの?」
「ダフニー様こそ理解すべきではありませんか。カイゼル様のお気持ちをもう少し考えてくださいませ、もう貴方は子爵令嬢では無いんですよ」
世間知らずではいられないのだと釘を刺された気がした。それでもダフニーは信じたかった。両親からの愛を。愛には多様な形があると、ダフニーはまだ理解できなかったから。
ヴィオレットはカイゼルからの最初の贈り物として渡された茶会用のドレスを引っ張り出す。
「このドレスを贈られた時の奥様の顔は純粋な喜びに満ちておられました。……少なくとも、最近の様な罪悪感に染まった表情は微塵もありませんでした」
ダフニーは受け取ると、そっと指を這わす。
ヴィオレットの言う通りだ。私は自分のことばかりで、カイゼルの気持ちを考えることもなく、ただ……呪いの様に両親の言葉を利用しただけ。自分に意気地がないだけだったのに。
ダフニーは自分の心を奮い立たせるように一度深呼吸をするとヴィオレットに向き直る。
「ヴィオレット、さっきは声を荒げてごめんなさい。図星だったの……貴方にここまで言わせてしまうなんて、主人失格ね」
力無く微笑むとダフニーはドレスを当ててヴィオレットに問いかける。
「このドレスに似合う髪型は何かしら?」
翌朝、ダフニーはヴィオレットの提案通りカイゼルに初めて貰ったドレスに身を包んでいた。プラチナブランドの髪は編んでまとめられ、瞳と同じ色のドレスとの対比が美しい。桜色の唇を震わせて、ダフニーは部屋の入り口を何度も確認する。
「落ち着いてください奥様。茶会まではまだ少し時間があります」
「ええ、わかっているわ。でも、どんな話をしたらいいのかわからなくて、心臓が壊れてしまいそうなの!」
緊張と不安で押しつぶされそうなダフニーの表情は、けれども幸せの甘酸っぱさが混じり合っており、ヴィオレットは小さく笑みをこぼした。二人が結婚してもうじき一年が経つ。一年経って、ようやく一歩を踏み出せるのだ。幼い頃から世話をしてきた身としてはこれほど嬉しいことはない。
その時、扉がノックされ茶会への案内人が現れた。思わずヴィオレットの方へ振り返るダフニーに微笑みかければ、ダフニーもふわりと微笑みを浮かべ先を歩いていく。不安が無いわけではないが、ヴィオレットは主人の背中を見て漠然とした安心感を噛み締めた。
花が咲き乱れる庭園には広い池があった。その
普段は何もないそこに、今日は屋外用のテーブルと椅子、そして色とりどりの軽食やお菓子ととても香りの良い紅茶が用意されている。
——この絵になる景色の中で、美しい男女が甘い雰囲気になれずにいた。と言うのも、ダフニーはカイゼルとの仲をどう縮めるべきか話題を考え、カイゼルの方はダフニーが一体誰を想っているのか探ろうとしていたのだ。このチグハグな状況に、それぞれの側仕え達が内心ため息を吐いていることに二人はまだ気づかない。
「カイゼル様」
先に沈黙を破ったのはダフニーだった。昨晩背中を押された彼女は早速自分の間違いを正したかった。
「私、謝らなくてはならない事がございます」
それでも、素直に話すことに抵抗が無いわけではない。躊躇いがちなダフニーの様子は、誤解を抱えているカイゼルに、状況が絶望的であると錯覚させる。
「ま、待ってくれ。謝ること?君は何か悪いことをしたのかね」
一瞬取り乱したカイゼルは、やり手の商人としての矜持か直ぐに平静を保つ。けれどもダフニーの口から自分以外の男の名が出ることを恐れて慌てて言葉を封じた。
ダフニーは改めて言わなくてはならない状況に勇気がへし折られてしまったが、ヴィオレットの気持ちを踏み躙りたくはないと奮い立たせる。
「ええ……。カイゼル様、私本当にごめんなさい」
頭を下げるダフニーと唾を飲み込むカイゼル。とうとうこの状況が来てしまったのかと観念したカイゼルはダフニーの言葉を待たずに質問を投げかける。
「一体相手は誰だ?執事か?庭師か?それとも……料理人?馬番とは言わないだろう、君は彼と面識がなかったはずだ」
「……?えっと……相手?」
思いがけない言葉に面食らってしまうダフニーと、予想外の反応に瞬きを繰り返すカイゼル。
一部始終を見守っていたアーロンはついにやったと思わず中指で眉間を抑え、ヴィオレットは質問の意図に気付いてカイゼルに冷めた視線をぶつける。
「君が、心から愛している相手のことだ。君が……本当に結婚したかった相手は——」
言いながら落ち込む。言葉は尻すぼみで、いつものような余裕など無く、それどころか涙まで滲んでいるのではと思うほど弱々しい。
カイゼルは一眼見た時からダフニーの虜だった。美しい顔立ちも、笑うと無邪気で年頃の少女の様に愛らしいところも、見た目のせいで受ける誤解に胸を痛めていることも——だからこそ、彼女を幸せにするのは自分でいたかったのだ。
「そんなの、カイゼル様だけですわ‼︎」
突然立ち上がったダフニーは、頬を真っ赤に染めて、エメラルド色の大きな瞳にカイゼルを映す。驚き呆けるカイゼルを見て、はしたなかったと慌てて座るダフニーは耳まで赤い。
「ごめんなさい……私、あのいつもいつもわがままばかりでカイゼル様を困らせて……その事を謝罪したかったんです」
ぽつりぽつりと語る言葉に徐々にカイゼルも意識が引っ張られる。
「本当は、ドレスもあんなにたくさん必要なくて、お茶も、茶葉が欲しかったのではなく、その……カイゼル様と、二人でお茶の時間をと、そう言いたかっただけなんです」
今にも死んでしまいそうなほど首から上を真っ赤にして、ダフニーは勇気を振り絞る。そんな様子にヴィオレットはと言えば、感動のあまり涙を滲ませた。いつの間にやら取り出したハンカチを握りしめて。
「ごめんなさい。私が弱いせいであんなにたくさん……そのせいで夜も遅くまでお仕事をして……本当にごめんなさい!」
必死に謝るダフニーのギュッと瞑った目や震える手を見て、カイゼルはようやく全ては自分の勘違いで、それどころかダフニーは自分と同じように自分を愛してくれていたと知った。
「謝るのは私の方だ。すまなかった」
こんな言葉では足りないかもしれない。
良かれと回した気が全て裏目に出ていたと今初めて知った。
いつも流行とは程遠いドレスに身を包む彼女の喜ぶ顔が見たくて、彼女には湯水の如く金を注ぎ込んだ。
そのせいで彼女との時間が取れなくとも、女性の幸せとはそう言うものだと思い込んでいた。
——カイゼル自身、ダフニーに向き合う覚悟ができていなかったのだ。
「貴方を傷つけてしまったら何の意味もないのに……」
「え?」
立ち上がると、カイゼルはダフニーの元へ近づき、その隣で膝を折って白く柔らかい手を取る。
「これまでの僕を許して欲しい」
「そ、そんな私こそ……!」
「いいや、私の責任だ。もっと君との時間を作るべきだったんだ。そして、話し合うべきだった」
「……それは、私もです」
風がダフニーの髪を揺らす。そっと耳にかけると、カイゼルは頬に触れた。
「これからは、努力しよう」
「……はぃ……っ!」
一瞬だけ重なった唇に、ダフニーは赤面し、思わずカイゼルを見る。逆光で良く見えないその表情は勘違いでなければ余裕が消え、ダフニーと同様頬が紅く染まっていた。
——あれから半年が経ち、ダフニーのクローゼットはすっかり整頓されていた。カイゼルも夕食までには仕事を終わらせ、二人の時間を取るようになった。
そして、ダフニーのお腹の中には新たな命が宿る。
「名前は何にしたら良いだろう?」
柄にもなくはしゃぐ様子のカイゼルに、ダフニーは苦笑する。
「まあ旦那様ったら、まだまだ先の事ですのに」
「男の子ならランスロットと言うのはどうだろう?」
「女の子ならどうなさるおつもり?」
「そうだな……娘だったら——」
“プロヴェーテ”
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