超魔仙鬼! 異形の半身を持ち誰にも顧みられない少年と不相応な地位を与えられてしまった美貌の仙女とが出会い、共に夢をかなえようとする〝超中華ファンタジー絵巻〟

どっこちゃん

第1話 咲く夜

 仙崖郷せんがいきょう、最下層。


 ――可濫カラン


「……はぁ~。……ははぁ~」


 呆けるようなため息が止められなかった。男はただ驚愕していた。目の前の光景に。そこから薫る蟠桃ばんとうめいた芳香に、鈴鳴りの音を奏でる玻璃はりの杯に。


「悪いわね。個室にしてなんて無理言っちゃって」


 それを手にしてほほ笑む少女の美貌に。――まるで人形のような、しかし艶めかしくも生気に満ちあるれた少女であった。


 ある種の非人間的な髪色は世にも稀な白桃色で、その毛先だけが淡く色づく薄紅色に染まっている。


 手足は細く体は華奢だが、たおやかに丸みを帯びた肢体は十分に成熟した女性を想わせる。 


 肌は絹めいて玉のように白く、その瞳は翡翠と玻璃が放射状に入り混じる稀有なる光彩を秘めている。


「お、お客さんみたいな方を一階の広間にお招きしたんでは、他の者が気が気じゃないですよ。はぁ~。しかし見事な髪色で。相当降りてこられたようですが……」


 男――凡庸な容姿をした初老の店主が目を丸くしながら少女に問いかける。


 店主の懸念は決して大げさなものではない。今もこんな安宿(とはいえこの辺りでは最良の宿ではあるのだが)の一角に楚々として腰かけているだけで、そこがまるで神仙の住まう桃源郷の宮殿ででもあるかのように思えてくる。


 彼女は本当に人なのか? 否。ここは仙崖郷――仙と呼ばれる者たちが住まう桃源の地である。


 しかしその中にあってもなお、この少女の美しさはあまりにも現実離れしすぎていたといわざるを得ない。

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