第十一話 突入02






 数十、いや奥にいる化け物達や出現し続ける卵を見る限り数百と無限に沸き出す悪夢。

 妖精はともかく、化け物の狙いはきっと俺達の肉体。その生命力。そうじゃなければクリスタルを狙いはしないから。


(いや待って、それだったら巣穴に入る前に俺たちを潰せばよかったんだ。……でもそうしなかった。なんで?)


 ここに入ってもらう必要があったから?

 でもどうして。俺達に何かを求めているというのか。


 先ほどの妖精の言葉が思い出される。



《生贄となるのはどっち? 海里夏? それとも────あなた?》



 あのセリフは、夕青2で出てきた特殊イベント。必ず海里夏が犠牲になってしまう選択ルート。

 もしもあそこで夏を選ばなければ、もう一人が生贄として捧げられバッドエンド。



 その一人こそ、プレイヤーである神無月鏡夜のはずだった。



(なのに何で、俺を真っ直ぐ指差したんだ?)



 妖精は意味のない行動なんてしないはず。

 弄ぶために嘘をつくことはあれど、絶体絶命のこの状況で、わざわざ嘘をつくだろうか。

 俺を真っ直ぐ見て、意味深に微笑むだろうか。


 ────もしも妖精が本当のことを言っていて、俺を真っ直ぐ見たとしたら。

 ゲームの知識を妖精が有していて、それでわざわざ俺の事を見たのなら。


 それはつまり。




《ねえ、考えている暇あるんですかー?》



 アハハっ、と。

 あざ笑ってくる妖精の声にハッと我に返った。


 いろいろ考えることはあれど、今は生き延びることが優先されると思った。


 じりじりと後退するが、どこまで逃げきれるか分からない。

 何でこうなった。何がいけなかったのか。


 舌打ちをしている春臣も、妖精を睨みつけている朝比奈も。どちらも冷や汗を流していた。

 こんな状況で死ぬかもしれないと、誰もが思っていたんだ。


 恐怖で身体が震える。

 こぶしを握り締め、小さく涙を流した。


 また死ぬのか。

 あんなにも怖い思いを、もう一度しなきゃならないのか。寒い思いをして、また繰り返して……。




「くそ。……やっぱり罠だったのかよ!」



 あの屋上へと続く階段で聞かれていたから待ち構えていた。そうとしか思えない光景だ。

 でも妖精は俺の言葉に小さく笑った。



《罠? いいえ、これは貴方たちが自ら飛び込んだエンディングの一つでしょう?》


「エンディングって……」


《人生にも様々な選択肢が付くものですよ。ある日突然階段から落ちて死んでしまうのもまた一つのルート。たまたま遠回りしたら居眠り運転の車にはねられて死んだのだって選択肢の一つ。ここへ飛び込んできたのは貴方たちの考えでしょう?》



 そう言って楽しそうにくるくると妖精はまわる。



《人生ってゲームと同じで予想もつかない出来事が起きるモノなんですよねぇー。私もあなたも、誰もかれも……ねぇ? そう思いません、秋音ちゃん?》




 あれ、なんだろう。


 ────妖精の姿が、なんだか違和感があるように見えた。


 妖精の姿がダブって見えるのだ。

 腕を回せば、一秒後に妖精の腕がまた回っているような違和感。

 まるで絵を二重に重ねたような、気味の悪い感覚。



《せっかくです。ここまで来たんですから……ちょっとした得点ぐらいは教えてあげなきゃ》



 妖精が指を鳴らす。

 そうして何か、骨が鳴るような嫌な音が響いた。

 音の発生源は妖精の方から。


 ボキバキと、骨を折る音。肉が裂ける音。

 そして妖精のうめき声と共に、彼女の身体が変化していく。


 手のひらサイズだったのに、俺たちと同じぐらいの身長に変わっていく。身体が大きく、髪の色も変異していく。

 背中から生えた羽はサイズが大きくなっただけで、消えることはなかった。服もワンピース姿のままで、変わらなかった部分もあった。


 でもその容姿は違う。

 雰囲気さえも、なにもかもが異なっているように見える。



「……はぁ?」



 春臣が何故か驚いたような声を出した。

 妖精は────。



《私はユウヒ、ただの夕陽。貴方達の全てが欲しいだけのただの────》



 その先の言葉は、ノイズが走ったかのような音が混ざってしまい聞き取れなかった。

 ただその姿、容姿だけは理解する。


 彼女が誰なのかを、思い出す。



「……白兎?」


《ああ、貴方はそう見えているのね》



 にっこりとまた嘲笑う妖精が「もういいですよ」と呟いた。

 そうして手を上げて合図するのだ。


 化け物達が涎を垂らし、俺達へ襲い掛かろうと飛び出してきた。



「させん!」



 それに前へ出てきたのは、朝比奈だった。

 木刀を手に化け物を一匹頭を潰した朝比奈の運動神経、その力に俺たちは唖然とする。


 ただ一人、妖精だけが深い溜息を吐いていた。



《ああもう。これだから朝比奈家って言うのは嫌いなんですよぉ! ……うーん、しょうがないなぁ、もう時間だもんなぁ。ギリギリを責めるのは私らしくないです。……あーあ。ようやく巣穴へ来たんですから、ちょっとぐらいは味見でもって思ったんだけどなぁ……》




 ────まあ、お楽しみは程々にとっておきましょうか。



 そう言って、俺を見た妖精は小さく笑って言うのだ。




《リセット!》





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