第七話 死者同盟の参加者
「ええと……」
「ああ、申し遅れた。私は朝比奈陽葵。赤組の新入生として学校の中を少しばかり散策していたところだ」
「そうかよ。俺は────」
「いや言わなくていい。桜坂春臣と、紅葉秋音だろう?」
うーん流石夕赤の主人公。入学式だというのにもう新入生全員の顔と名前を憶えているのか。絶対王者の貫禄というか、ユウヒシリーズの中で赤組のお話だけはテーマが異なっており戦闘必須、弱肉強食で無双も可能なステージが多い。しかし選択肢によっては闇堕ちする可能性が高く、仲間によって裏切られ死亡というバッドエンドもいくつか存在する。
つまりそれぞれのシリーズの主人公によって得意なステージが異なるというわけだ。夕青たる青組は妖精や白兎に対して生き残るための頭脳戦が行われる。そして境界線のステージでは夕赤たる赤組が唯一化け物と対抗できる。夕黄は境界線で死んでしまった場合に発生するあるバッドステータスを回避するための手段がある、というところ。
「……学校を散策か、そんで何か妖精に関するものでも見つけたってのか?」
「いいや、ただの散歩だよ。赤組の皆とは挨拶を交わしてね。後はちょっとした見学、といったところだろうか」
「じゃあ何で知ってんだよ。おかしいだろうが」
春臣の言葉に俺はハッと理解した。
────そういえば、と気づいたのだ。
なんでこの人は妖精の事を知っているのだろうか。だってあれは新入生にとってはまだ遭遇していない災害。しかし先ほどの発言によって、アレの事を知っているように感じた。
「……あの、何で妖精の事知ってるんです?」
「ふむ、なんといえばいいのか……知っているというよりは、それがいると分かっていた、が正しいな」
「分かっていた?」
「ああ。現実で会ったわけじゃない。ただ、夢を見たんだ」
「ゆめ?」
陽葵は小さく頷いた。
誰かに聞かれていないか周囲を警戒しつつ、その鈴の音のような声で説明する。
「最初に見たのは君が殺された場面だよ」
「はっ? え、俺?」
「そうだよ紅葉秋音。君が保健室で化け物に喰われ、そして妖精によって嘲笑う光景が夢に出てきた。リセット、と答えていたよ」
「えっ」
「その夢を見たのが一週間前。それで入学式に出てみれば何の偶然か君がいた。名前と顔が一致していた君が屋上裏手の階段で妖精について話をしていた。これはもうただの夢で終わらせられはしないなと思ったんだ」
「……それで、俺達に話しかけたと」
俺はそんな記憶持っていない。保健室で喰われただなんてこと、身に覚えがない。
思わず春臣の方を見ると、首を横に振って肩をすくめた。
何も言わない。嘘をついているかもしれない。散策している最中上級生からこの学校にいる妖精について話を聞いただけかも。
そういろいろと思っていても、俺の知識がそれら全てを否定する。
────だって、夕赤の主人公は嘘をつくことがない。真面目で少し鈍感な所がたまに傷だけど、誠実に対応する。からかい半分で嘘をついてやるだなんてことはしない。
だからこれは、本当の事だと思えた。
じゃあ何でその夢を見たんだ?
妖精が何かしら介入してでの夢だった可能性はある。その場合は何故朝比奈陽葵にその夢を植え付ける必要があるのか。
そしてそれ以外。たまたま覚えていた記憶を夢だと思い込んでいた場合に分かる謎は一つだけ。何故、朝比奈陽葵はその修正させた時空での話を覚えているのか。……そういえば、今回のリセットについては俺や春臣は覚えている。当然鏡夜たちも覚えているのだろう。
ということは、リセットするときに近くにいたら記憶を引き継ぐことが出来るのか?
(いや、そうじゃない。一番大事なのは陽葵が言っていた過去!)
俺の知らない過去。その経験。
保健室で死んだことなんてない。でも、ただの記憶とは思えない。
じゃあなんでこの朝比奈陽葵も保健室にいたのかとかいろいろ言いたいことはあるけれど……。
「そ、それで何か変わったことはありませんでしたか!?」
「いや、敬語は良い。同級生だろう?」
「分かったから早く答えてくれ!」
「ふむ、そうだな……私はそこで見たよ。化け物が屍となったそれを引きずり、空間の裂け目へ戻っていく姿をね」
「人間の死体を餌として喰らうため、ってことか?」
「いやそれはどうだろうか春臣君。それならその場で喰らえばいいだろう。あの化け物達は普通の動物とは違い、強者のソレだった。人間を殺すことが容易い化け物達が何故わざわざ巣穴へ帰るのか。巣穴で食べる必要があるのか……」
「時間がなかったから、って理由はねえのか? 妖精が来てリセットって言ってたんだろ」
「ではあの空間の裂け目に広がった場所には、時間の概念は存在しないということか?」
「それは……」
「私はそれが気になってね。何か知っているなら教えてほしい」
だからここへ来たのだと、陽葵は言う。
それに春臣と俺はお互いの顔を見合わせた。
「とりあえず以前の俺が書いていたであろう日記を渡します」
「……いぜんの?」
「はい。記憶はないんですけど何かしらあったらしい俺の記憶と情報です。それしか今は手立てはありません」
「ふむ、読ませていただこう」
ぺらりと陽葵が俺の少し血が滲んだ日記を読み始める。
それをチラリと見た春臣は先ほどまでの会話から何かを考えているようだった。
俺も、彼女の話について少しばかり思うことがある。
「……巣穴、か」
続編の夕青2で出てきた転校生によって空間の裂け目が広がりモンスターハウスのようにたくさんの化け物達が飛び出してきてクラスメイトを襲う無残エンドはあったけれど、巣穴に飛び込んでどうなったのかは知らない。
確か、巣穴に飛び込んだら強制的にゲームが終了して、そのあとエラーになってたんだっけ? 背景が真っ赤で血に染まってたとかいうやつ。エラーっぽい何かのエンドだったって考察されていたはず。
あれ、何で俺、あれがエラーって知ってるんだ?
やった記憶はない。というか、そういうエンドって本当にあったっけ。いや、どっかで見たことあるような……。
「紅葉、どうかしたか?」
「あっ、いや。何でもない春臣……ちょっと巣穴の中ってどうなってるのか気になって」
「俺もそれは思ってた。もしかしたらその奥に鏡があるんじゃねーかってさ。……でもなんか嫌な予感がしねーか?」
「うん。これが妖精の介入ありで話が進んじゃってたら罠だと思う」
「いや俺が言ってんのはそっちじゃねえよ。それに妖精がなんで罠なんて作る必要があるんだ? なんせ今は妖精側にとって有利のはずだろう? 俺達を弄ぶために用意したステージって言われたら納得がいくが、朝比奈の夢だけに介入だとしたら意味はねえだろ」
「あーそっか。だってただの夢だって思い込まれて忘れちゃう可能性だってあるからね」
きっと、俺が今ここで妖精について話をしていなければ彼女は来なかっただろう。ちょっとした予知夢か何かかもしれないと思っただけであって、保健室で俺が死なないかを気にする程度で一人でその全てを背負ったはずだ。朝比奈陽葵ってそういう性格だから……。ゲームとしての知識だけじゃない。今あって話をしてそう思えたのだから。
じゃあ、妖精の罠ってことは低いのか。ならやっぱり事故だろうか。リセットした傍にいたら記憶は引き継がれる。これどうなのか検証してみたいな。きっと鏡夜ならそう言うはず……。
「実際、あの中ってどうなってるのか確かめないと駄目だよなぁ。鏡探しててもめぼしいものないし、でもなぁ。あの裂け目の中って見たことないんだよなぁ」
「ふむ」
陽葵が日記を閉じて、そうして不敵に笑った。
「ならば行こうか。その巣穴の中へ」
「へっ?」
何を自殺願望なことを言っているんだ、この夕赤主人公は。
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