薬草を求めて

「んぅ……。あれ、私は……?」

「お、起きたか。おめぇ、魔物倒してからぶっ倒れたんだよ。」

「俊平さん……?」

 清華が目を覚ますと、横には俊平が座っていた。

 清華が起きたのを確認すると、ホッとしたような声を上げ、立ち上がる。

「これは……。」

「俺のブレザー、気に入らなかったらわりぃな。」

「いえ……、ありがとうございます……。」

 剣道着の上から羽織られていたブレザーに気付き、体を起こしそれを俊平に返す。

 俊平は清華に面とむかって「委員長」というほどデリカシーが無いのだと、ずっと考えていたが。

気遣いが出来ない訳ではないのだと、少し感心しながら。

「そう言えば、洞窟を見つけました。」

「マジか、そりゃよかった。大地と修平も早く合流しねぇとだな。」

「そうですね、事は一刻を争います。」

 地面に刺していた刀を引き抜き、鞘に収めながら清華は話をする。

俊平は二人を呼びに行くかどうかを考えていて、清華が歩けるのなら二手に別れる事も考えていた。

「歩けるか?」

「何とか……、え……?」

「ほら、手ぇ掴まれよ。」

「は、はい……。」

 手を差し出され、顔を赤らめる清華。

男性に手を差し伸べられた事は、人生で初めてだ。

 たとえそれが苦手としている俊平相手であろうと、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「よっし、あいつら探しに行くか。っておい、あれ……。」

「大地さん、でしょうか?」

「なんか背負ってね?」

 丁度そこに現れたのは、修平を抱えた大地だった。

「あれは……、修平さんではないですか?」

「何だって大地が修平背負ってんだ?」

「さぁ……、何かあったのでしょうか?」

「おーい!大地ー!」

 大地は俊平と清華の元に走り寄り、二人が無事である事を確認すると、ホッとした様に一呼吸する。

 後ろにおぶっている修平の呼吸は浅く、大地が走り体が揺れる度に乱れる。

「……、修平が、毒に侵された……。」

「マジかよ!?」

「……。確かに、昨日の蓮君と同じ様に伺えます。洞窟は見つけました、急いで薬草を探しましょう。」

「……、うむ……。」

 清華が見つけた洞窟へと向かう四人。

 大地は修平をおぶっているから、探索出来るのは実質二人だ。

しかし急がなければならない、蓮に加え修平まで毒に侵されてしまったのだから。


「ここが洞窟です。」

「中、結構明るいな。穴でも開いてんのか?」

「さぁ……。しかし、松明を忘れてしまいましたので、丁度良いですね。」

 3メートル程の直径があるであろう洞窟の中は思ったよりも明るく、松明を買い忘れてしまっていた一行でも探索出来そうだ。

 何故明るいのかはよくわからないが、天上の所々から光が零れていたり、地面が少し発光していたりする。

「行こうぜ、さっさと薬草取って帰ろう。」

「はい。」

 清華と俊平が先行して洞窟に入り、修平を背負った大地がその後に続く。

洞窟の入り口付近には魔物はいないらしく、風の抜ける音だけが聞こえてくる。

「草が光ってんのか?」

「発光、していますね。このおかげで、洞窟内が明るいのでしょうか?」

 地面をよく見ると、花の咲いた小さな草があちこちに生えていて、花が光を発していた。

なんという種類の花かはわからないが、しかし有難い事に変わりはない。

「行こうぜ。」

「えぇ。」

「……。」

 いつ魔物が現れてもいいように警戒しながら、一行は洞窟の中へ入っていった。


「やぁ、状態はどうだね?」

「さぁ……、良いとは言えないと思いますけど……。」

 所変わって天野の住処。

 天野が帰ってきて一番に言葉を発するが、知識のない竜太には何とも言いようがなかった。

「ふーむ、毒の回りはそこまで進行していない、まだ持つだろうさ。それよりも、魚を取ってきた。腹ごしらえしないと、体が持たないから食べると良い。」

 そう言いながら、土間と思しき所にあるかまどに炭を入れ、火を点ける天野。

昨日の朝から何も食べていない竜太と蓮は、燃ゆる炭の香りに腹を鳴らす。

「あの、天野さん。」

「なんだね?」

「どうしてそこまでしてくれるんですか?毒の治療は料金をお支払いするからとして、ご飯まで…。」

「癖の様なものだよ、気にする事じゃない。」

 魚に竹串を通し、火元に置きながら竜太の質問に天野は答える。

手慣れている様子で、いつもしている事の様に見える。

「腹が減っているだろう?食べないと体力を消耗する、そうすると毒の回りも早くなる。だから、病人にはきちんと食べさせるんだよ。」

「そう、ですか。」

「勿論君の分もあるぞ、平等じゃないからな。」

「ありがとう、ございます。」

 パチパチと火のはぜる音と、魚の焼けるこんがりとしたいい香りに、蓮と竜太の腹が再び鳴る。

早く魚が焼けないのかと、そわそわしている。

「すぐに魚は焼ける、まあ待ってなさい。」

「すみません……。」

「君くらいの歳の子なら仕方がないと思うけどな、まあゆっくり待つといい。」

 魚に火を通しながら、天野は笑う。

 腹をすかせた二人は、魚の焼ける香りにもう落ち着いていられない。

 毒でやられて弱っている蓮でさえ、まだかまだかとそわそわしている。

それだけ空腹なのだろう、特に竜太は一日食事をせずに過ごしたことなどないのだから。

「ほれ、魚が焼けたぞ。食べなさい、空腹は病人の敵だからな。」

「ありがとう、ございます。」

「ありがとう、おじさん。」

 渡された焼き魚を、むしゃむしゃと食らう二人。

 白身魚の様で淡白な味わいだったが、しかし空腹極まっていた二人の胃袋には丁度良かった。

胃袋に食事が入っていく感覚が、心地良く気持ち良い。

「いい食べっぷりだな、その様子だと一日くらいは飯を食べてなかったんじゃないか?」

「……、そうなんですよ、よくわかりますね?」

「人の状態を見る目には自信があるからな、これくらい余裕だ。」

 天野を信頼しても良いのかどうか、という考えを持っていた竜太は、少し信頼する方向へと傾いていく。

 蓮の毒を治すと言い、食事を与えてくれ、そんな人が悪いとは思えなかったからだ。

「君の仲間も腹をすかせていそうだったが、まあ宿があるから大丈夫か。」

「多分、お金は修平さんが持ってますから。」

 魚を一気に食べ終え、腹の落ち着いた竜太が答える。

蓮は魚を食べ終えると横になり、少し落ち着いた様でスースーと寝息を立て始めていた。

「そっちの坊やは落ち着いたか、苦し気だったからどうなるかと思ったが。」

「蓮君もお腹がすいてたんだと思います、今は満腹で落ち着いたんじゃないかな…。でも、いつまで体力が持つか……。」

「まあそこは君達の仲間次第だな、信じて待とうじゃないか。」

「はい。」

 何度も信じて待てと言われ、そうした方が良いと思うようになっていた竜太。

 天野の言葉は、無意味ではなかった様だ。

目を瞑り、皆が無事である事を願う竜太。

 その様子を見て、天野は少し嬉しそうな笑みを浮かべた。


「この洞窟、どんだけ広いんだろうな。」

「さぁ……、とにかく薬草を探しましょう、青い花が咲いているとのことでしたが。」

 ぱっと見た所、青い花は見えていない。

洞窟は意外と奥まで続いている様で、空洞音が耳に入って来る。

「行こうぜ、早くしねぇと。」

「はい。」

「……。」

 草花の灯りを頼りに、どんどん中へ入っていく清華と俊平。

大地は、修平をあまり刺激しない様にと、ゆっくりとその後を追う。

「あれ、そうじゃねぇか?」

「……。いえ、これは青緑色ですね。求めている薬草とは違うのではないでしょうか?」

「細けぇなぁ……。でもま、間違ってましたじゃ済まされねぇもんな。」

「細かい……?」

 眉間に皺を寄せる清華、俊平の言葉が気に入らない様子だ。

「貴方ががさつなだけではないのですか?」

「おいおい、そりゃねぇぜ。」

「事実でしょう?いつもいつもがさつで気配りも出来ない、それが貴方でしょう。」

「何だと!?」

 気の強い清華が、思っていたことを口にしてしまい、俊平と清華の間にピリピリした空気が流れる。

普段から俊平に不満を持っていたのが、ここにきて爆発してしまった様だ。

「委員長が生真面目過ぎんのが問題なんだろうが!」

「委員長ではありません!私には鈴ヶ峰清華という名前があります!それに俊平さん!貴方ががさつすぎるんです!」

「んだと!?」

 元々気の強い二人だ、火がついてしまったら中々鎮火してくれない。

 大地は一人、何とか場を諫めようとするが、言葉が出てこない。

「貴方はいつもいつも人の癇に障る事ばかり話して、自覚はないのですか!?」

「んだよ!そんなこと言ってねぇだろ!」

「それが自覚が無いと言っているんです!いい加減自分のがさつさに気付いたらどうですか!」

 洞窟内に二人の声が響き渡り、反響する。

 このままでは洞窟内にいる魔物に気付かれてしまうかもしれない、と大地は考え焦り始めるが、しかし止める手だてがない。

「……。二人とも……、俺達は、何のために、ここにいるの……?」

「……!?」

「修平!てめぇダイジョブなのか!?」

そこに、小さい声だが確かに修平が一言苦言を呈する。

「蓮君、助けなきゃ、だろ……?こんなとこで、言い合ってる、場合なの……?」

「それは……。」

「薬草、見つけなきゃ……。大地君、俺も、探すよ……。」

「……、しかし、毒が……。」

「へい、き……。」

 大地は修平が降ろしてと言っている様な気がして、修平を背中から降ろす。

 修平はふらふらと体を揺らしながら、呼吸を乱している。

しかし地面を踏みしめ、一歩一歩歩き始めた。

「いこう、俺達には、時間が、無いんだ……。」

「修平さん、貴方も毒でやられているんですよ……?大地さんのお背中にいらした方が……。」

「だめ、だよ…。俺も、探さなきゃ……。」

 そう言うと、ふらふらと体を揺らす修平。

大地が修平の体を支え、清華と俊平はそれを心配そうに見ている。

「喧嘩、なんて……。してる、場合じゃ、ないだ、ろう……?」

「……。すみません、修平さん。貴方がそう言ってくださらなかったら、私は本来の目的を忘れる所でした。もう大丈夫です、安心して、大地さんのお背中をお借りになってください。」

「……。俺もだ、すまねぇ修平。いいんちょ……、清華もすまねぇ。」

「……、修平よ……。」

「ごめん、大地、君……。」

 体力の限界だったのか、大地に凭れかける修平。

大地は体をねじり修平を背中に背負い、少し体を動かして安定させる。

「さあ、探しましょう薬草を、蓮君と竜太君が待っています。」

 修平のおかげで冷静になった二人は、前に立ち薬草を探す為奥へと進んでいく。

 大地は、修平が場を納めてくれた事にホッとしながら、その後をついていく。

 洞窟は奥深くまで続いていたが、灯りになる草花があるおかげで灯りには苦労はなさそうだった。


「蓮君、すやすや寝てる……。」

「飯を食べたからだろう、寝かせておいてやりなさい。」

「それもそうですね。」

 天野の住処にて、竜太は蓮の様子を眺めていた。

蓮は腹を満たし落ち着いたのか、呼吸もそこまで乱れずに眠っている。

「そう言えば君達、何処から来たんだね?旅人なのはわかるが、見たことのない格好だ。」

「僕達はジパングから来たんです、船に乗ってマグナに行くはずが、船が襲われてしまって…。」

「ジパングか?にしては不思議な服装だな。」

「ドラグニートからの輸入品なんです、港町で買いそろえました。」

「ほほう、そうか。」

 外界から来たと言う事は話してはいけない、と竜太はディンに言われた事を思い出しながら嘘をつく。

 ジパングの人間の恰好ではないが、ドラグニートの人間は確か洋服を着ていたはずだ、と。

「俺はここから出たことはないんだがな、風の噂で色々と耳にしてきたんだ。国によって規律は違うが、ジパングは確か港町だけが発展してるんだったか。」

「そうですね、大体が農村ですから。」

「それがなんで武器担いでこんな所に?ジパング人は争いは好まないと聞いてたが。」

「聖獣の守り手、っていえば伝わり、ますかね?」

「成る程ジパングを守護する四神の守り手か、昔何処かでそういった人間が存在すると聞いたな。」

 天野は納得したように首を縦に振る。

 そして竜太は、何処か会話に違和感を覚える。

 四神の使い、聖獣の守り手は千年前に存在していたが、それ以降は存在自体はしていないはずだ。

それなのに何故、存在すると聞いたのか。

 と、ぼんやりとした疑問を浮かべる。

「……。」

「ん?どうした?」

「いえ……。」

 再び湧き上がってくる疑心、それはぼんやりとした物だった。

しかし、天野は何かを隠している、様な気がする。

 曖昧な疑問、しかし竜太にはそれ以上はわからなかった。


「これ、違うか?」

「……。」

「なぁいいん……、清華、これそうじゃねぇか?」

「私に聞かず、ご自身で判断なさったら良いでしょう?私は細かいですから。」

 洞窟を暫く進んでいた一行。

喧嘩を止めた、と言ってもピリピリした空気に変わりはない。

 俊平がそれらしい花を見つけるが、清華はそれを見ようともしない。

確執が生まれてしまっている、これはどうしようもないのかもしれない。

「……、これは……。」

「……?」

「大地さん、この花から何かを感じませんか?」

「……、何か、とは……?」

 清華がとある花の前で立ち止まり、大地を呼ぶ。

その花は青く発光していて、柔らかな光を放っていた。

「……、何も感じぬが……。」

「そう、ですか……。私は、この花が薬草だと思ったのですが……。」

「……、もしや、そうかもしれぬな……。」

「試す価値はありそうですね。」

 清華は花に魅入られている様な様子で、この花が薬草だと何処かで確信している様だった。

「なんだ?薬草っぽいのみっかったのか?」

「……、貴方は貴方で探せば良いでしょう?」

「あのなぁ、蓮と修平やばいってのにそんな怒っててどうすんだ?俺らが争って解決すんのか?」

「……。」

 再び火が点きそうになる二人。

というよりも、清華が俊平を嫌がっているというのが正しい所だろう。

「なあ清華、俺達ここで喧嘩しても意味ねぇだろ?」

「……、貴方にそう言われるとイライラします。」

「んなこと……。」

「が、それが正論です。今は仕方がないと割り切りましょう。」

 清華がそう言うと、俊平は少しホッとした様子を見せる。

また怒り出したらどうしようかと、困っていたからだ。

「この花と、あちらの青い花を持ち帰りましょう。足りるかどうかはわかりませんが、足りなくても全力でここまでくれば間に合うはずです。」

「そ、そうだな。大地もそれで良いよな?」

「……、うむ……。」

「んじゃ、さっさと摘んで戻ろうぜ。」

 さっさとしてしまうと、清華と俊平が花を摘む。

花を摘むこと自体は簡単で、少し力を入れれば簡単に抜けた。

「さあ、戻りましょう。」

「あぁ、ってなんか聞こえねぇか?」

「はい……?」

 聴力の良い俊平が初めに気付くと、清華と大地も耳を澄ませる。

確かに、何か聞こえてくる。

 どたどたとでもいえば良いのだろうか、何かが走ってくる音だ。

「まさか、魔物……?」

「急いで出るぞ!こんな足音の数、結構な数の魔物がいるはずだ!」

 俊平の言葉に始まり、走り出す一行。

まだ視認は出来ないが、足音の数からして相当数の何かが迫ってきている様だった。

「急げ!」

「わかっています!大地さん!」

 一行の中で一番鈍足で、尚且つ修平を背負っている大地が徐々に二人から距離が離れていく。

俊平と清華は足運びを緩め、戦える自分達が殿を勤めようと動く。

「あいつらだ!急げ!」

 視認出来る距離まで足音が近づいてきた。

それは先ほども戦った餓鬼の物で、数はもう視覚的には確認しきれない程の数だった。

「……。」

 大地は懸命に走るが、修平を背負っている分やはり足が遅くなる。

 まだ洞窟の出口は見えない、しかし足を止めてはいけない。

そして大地は思い出す、この状況を打開出来るであろう術を一つ持っている事を。


 それは外園邸での修行中、四人合わせての合同訓練の時の事だった。

四人で連携をしながら、ディン相手に組み手をするという内容だ。

「君達は連携が苦手だなぁ、特に大地君は人と呼吸を合わせるってのが苦手だな。」

 それはディンがふと言い放った言葉だった。

 それはそうかもしれない、自分はずっと一人だったから。

「まあその代わり、大地君は一番魔法に適正があるな。ほれ、試しに何か放ってごらん?」

「……。」

 ディンにそう言われ、一旦攻撃の手を止め後ろに下がる大地。

ディンは他の三人の攻撃を捌きつつ、大地の方へと接近した。

『……アースウォール……!』

 大地が唱えると、大地が隆起し壁が出来る。

「うーん、これじゃだめだな。これはまだ初期魔法だ、大地君が使えるのはもっと上位の魔法だよ。まあ、実戦でいつか使えるようになるか。」

 そう言いながら土壁を蹴り飛ばすディン。

 大地は玄武に教わった、その上位魔法を唱えようとしたが。

しかしディンの攻撃が飛んできて、結局唱えられずじまいになってしまった。


「……、先に、行け……!」

「しかし!」

「なんか考えあのんか!?」

「……、ある……!」

 大地がディンの言葉を思いだし、決して大声とは言えない声を出す。

俊平と清華はそれを聞いて、どうするか悩む。

 確実にそれが出来るのであれば良いが、もしも失敗した場合。

修平だけでなく、全員がやられる可能性がある。

「……、行け……!」

「……、わかりました。大地さん、信じます!」

「わあったよ!俺も信じるぜ!大地!」

 大地の言葉を信じ、前に走る二人。

大地を追い抜き、洞窟の入口へと走る。

「……母なる大地よ……、我が呼び声に応えよ……!」

 大地が詠唱をすると、周囲の魔素、マナが呼応する。

琥珀色の輝きが大地の周りに集まり、大地に魔力を送り込む。

『……ランド、メイカー……!』

 大地が唱える。

 すると、洞窟が蠢き始めた。

地面は隆起し、壁は狭まってくる。

 それが餓鬼達の進行を阻み、大地達との距離を離れさせる。

「出口だ!走れ!」

 俊平の声が少し遠くから聞こえてくる、どうやら出口はすぐ近くにある様子だ。

大地は餓鬼の声を遠くに聴きながら、必死に光が強い方へと走る。

 暗い洞窟の入口から、日差しが入ってくる。

大地はそこへ向け、懸命に走った。


「よっしゃ!出たぞ!」

「何とか、なりました、かね?」

「……、……。」

 まだ体力に余裕がありそうな俊平と、余裕のなさそうな清華と大地。

 修平は背中で揺さぶられ、だいぶ毒が回ってしまったようだ。

呼吸を乱しながら、苦し気にしている。

 洞窟でどれくらい時間が経っていたのか、陽の昇り具合を見るとわかる。

まだ朝だったのが、太陽が真上にある。

何時間か、洞窟で薬草を探していたようだ。

「さっさと戻ろうぜ、急がねぇと二人がやべぇし、いつまであいつらが待ってくれるかもわかんねぇ。」

「はい、急ぎましょう。しかし、街の中を通っていくのも少し危険な気がします。」

「なんでだ?」

「……。薬草は医者にしかその場所を知らされないという事は、私達が持っている花がそうだとしたら、街で誰かに引き留められてしまうかもしれません。それに、魔物が街の中に入ってしまうかも……。」

 俊平は最短ルートで戻ろうと考えていたが、清華は少し違ったようだ。

何か本能的な危機感というべきものか、何かを感じ取っている様な様子だ。

「……。わかった、街の周り通って行くぞ。」

「はい、大地さんもそれで構いませんか?」

「……、うむ……。」

 街の外周を通っていく事には異論はなさそうな大地。

それよりも、蓮や修平の容体が不安と言った所だろう。

「では行きましょう。」

「あぁ、さっさと戻ろうぜ。」

 二人が先行し、魔物が現れてもいい様にと武器を構えながら街の外周を進んでいく。

大地は修平を背負い直し、それについていった。

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