竜神王という存在
「いやぁ、うまかったなぁ。」
「セレンさん、貴方の食べ方は独特ですねぇ。」
「若者が大食らいなのはいいことじゃないか?外園君よ。」
「……。」
「父ちゃん、美味しかったね。」
「そうだなぁ、この世界の飯ってなかなかうまいんだな。」
時間は夜8時頃、外園邸に集まった6人は顔合わせも兼ねての晩餐会で外園の料理に舌鼓をうち、満足そうにくつろいでいた。
「じゃあ改めて。俺がディン、みんなを集めた守護者だ。」
「僕はディンの息子の竜太って言います、一応継承者って名乗ってろって言われてるのでそういうことなのかな?」
少しの沈黙の後、おもむろにディンが口を開き自己紹介をする。
ついでにと竜太も自己紹介をし、ディンが外園に目配せをして自己紹介を促す。
「おや、次は私ですか。私の名は外園(ほかぞの)と申します、この屋敷の主にしてそうですね……、預言者と言った所でしょうか?皆さんとは違いこの世界の住人ですので、力不足かもしれませんがお手伝いをと。」
それに気づいた外園が肩をすくめながら自己紹介をし、今度は興味ありげにリリエルの方を見つめる。
「……、私はリリエル。復讐者、といったところですね。」
淡々と無表情で言葉を吐いたリリエルは、謎の体勢でくつろぐジグモンドに美しい目を向けた。
「oh、気軽にウォルフと呼んでくれ。役割?それは英雄ってとこか?」
傍らにおいたライフルを拭きつつ、ウォルフは陽気に視線に応えた。
そして最後、料理を食べ過ぎて腹を摩っているセレンをからかい甲斐がありそうだと笑いながら見据えた。
「あ、俺はセレン。役割ってゆーのは前ディンに言われた鍛冶屋って言うのでいいんか?」
手をひらひらさせよくわからないという感じで挨拶を済ませるセレン。
一通り挨拶を終えた一行はディンの方を向き、詳しい話をと催促する。
「んじゃ本題。みんなにはこの世界ディセントを守る手伝いをしてもらう為に呼んだ、あとみんなとこの世界にはなんかしらの因果があるからってのもあるけど。」
「因果?私はこの世界の住人ですから当たり前ですが、他の方と世界を結ぶ因果関係とはどのようなもので?」
「まず俺はこの年輪の世界の守護者、竜太はその息子。リリエルさんは復讐相手が、セレンは自分の家族が消えた理由が、ここにあるからだ。ウォルフさんは…。」
「oh yeah!俺は英雄さ、坊や達とは違うね。」
「まあ、そんなとこで集まってもらったわけだ、今回のはちと特殊なのとまあたまにはこういうのもいいかってことで。あーあと、他にも何人か声かけて来てもらってたり後からきたりする。」
ウォルフの気の抜けたようなそうでないような声に若干笑いながら、ディンはここにまだ来ていないメンバーがいるということを伝え、そして話を続ける。
「んでやってもらうことなんだけど……。」
「ちょっとその前にいいですか?ディン、貴方に私達に命令をする権利はあるのかしら。」
「んー?あるんじゃない?一応一番強いし。」
要件を伝えようとしたところに口を挟んできたのはリリエル、こんな子供になぜ命令されなければならないの?と不満げなこえをあげる。
「見たところ私よりも幼いようだけれど、そんな大口を叩いても平気ですか?」
「まあ、ね。試す?なら外行こうか?」
美しい青紫の瞳を細め問うリリエルに対し、ディンはさして気にもしていないような気の抜けたような声で答え、背を向ける。…
「まったく……、父ちゃんの悪い癖が…。」
「悪い癖?彼は元々そういう事をしていると?」
「うーん、まあなんというか…。そんなところ?ってとこです。」
竜太の呆れ声と外園の興味本位な響きが場に流れる中、ディンはさっさとリビングを出ていこうとし……。
「……!?」
「……。流石暗殺家業に身を置く者、後ろから気配なしで首取りに来るたぁいい腕前と度胸だ。」
「私の刀を……、毒の刃を、素手で……!?」
「あーあ、父ちゃん第四段階開放までして……。あんまり本気出すと怖がられちゃうよ?」
「ほほう?」
「なんだあれ???」
刹那光る紫の光と、その終着点に可視化される程のオーラを纏ったディンの左手、そして驚くリリエルと呆れる竜太、興味深げな目を向ける外園と理解が追いつかないセレン、そして眼光が鋭くなるウォルフ。
「でもいけない、殺気と視線でどこを狙うかが一発でわかっちゃうんだから。今までのターゲットっていうのはそれでも良かったのかもしれないけど、俺やここにいる連中はそうは行かないからな?」
「……。分かりました、認めましょう。」
瞬速の初撃を阻まれたリリエルは認めざるを得ないといった様子で紫に光る刃を消し、柄だけになった刀を太もものスリットにしまう。
「君は何者だ?相当な力の持ち主だってのはわかるがね?」
「あ、まだ言ってなかったっけ?俺は竜神王、10代目竜神王ディン。」
「oh!あの竜神王か?」
「まあウォルフさんなら知っててもおかしくはないか。別名年輪の世界の守護者、っていえば分かるかな?」
ディンが改めて素性を語ると、ウォルフは驚愕だというふうに言ってみせる。
この世界の外の外に位置する世界から来たウォルフは、どこかでその名を聞いたことがあるのだろう。
「年輪の世界の守護者……?確か遥か昔にそのような童話を見かけたような。遥か昔に1つだった世界を隔て、平和をもたらしたという神の物語の末文にそのような記述が……。」
「そだね、先代の成した世界分割は全ての世界に何かしらの形で残ってる。この世界では童話だったかな?まあともかく、指示を出す資格と言われるとあるとしか言えないな。」
「えーっと、取り敢えずディンはすげえやつってことでいいんか?」
「まあそう認識してくれれば構わないよ、恐らくだけど年輪の世界のどんな強者にも勝てる自信はある。ウォルフさんみたいなやつはわかんないけどな。」
あっさりとした様子のディンはリリエルから離れると、改めてといった感じで皆を見回す。
「……みんなにして欲しいのはそういう意味合いが強いってのがあるんだ、理解してくれ。」
「なるほどねぇ、それなら確かに俺たちは適任!ってわけだね。」
「暗殺者の私に警護が務まるとはあまり思いませんが……、まあ自分より強い者には従うが得、と考えましょう。」
「私はみなさんの中継所という捉え方でよろしいですかな?しかしそれならディンさん、貴方も参加するのが……。」
少し時間が経ち、一通りの説明を終えたディン。
話を聞いていた各々はまま納得という感じで声を出すが、外園がはてと疑問を1つあげる。
「あぁ、俺は色々とやらんきゃいけないことがあるんだよ、じゃあ1週間後から頼むってことで。その間は親睦深めるなり世界を見て回るなり好きにしてくれ。」
全員が納得したのを確認すると、ディンは解散の音頭とともに消えてしまった。
残された5人は一瞬ぽかんとするが、取り敢えず部屋に戻りましょうと外園が一声かけ、全員がそれに従った。
「まったく父ちゃん……、なんにも言わないで行っちゃうから……。」
月明かりがよく入る部屋を割り当てられた竜太は、部屋に備え付けられていたベッドに寝転がりひとりため息をつく。
今回初めて他の世界に来た竜太にとって、ひとりきりは流石に不安なのだろう。
「……。」
しかし考えても仕方がない、今日は寝ようと目を瞑る竜太。
すぐに夢の中へとまどろんでいったのか、静かに寝息を立てる。
「……。」
そんな竜太の部屋の前に1つの影。
装備を外すこともなく屋敷を散策していたリリエルが、角部屋である竜太の部屋の前に立っているのは些か不可解だ。
(あの子……。)
心の内で呟くリリエル。
初めて顔を合わせた時は内心驚いた、まさか彼に似ている子が戦っているなんて、しかも父親とともに膨大な使命を背負って。
「まさか、貴方が仕組んだことなの……?」
目を瞑り誰かを思い出す。
その誰かがどうなったのか、今どうしているのか、どういう関係だったのか。
それはリリエルにしかわからないが、特別な想いや因縁の深い相手なのだろう。
「……、まさか復讐者に成り果てた私が、誰かを。なんてね。」
思わずつぶやいてしまう程、自身の心境の変化は衝撃的だった。
そうとしか言いようがないが、今はそれを語るときでもないのだろう。
張り詰めた空気を一瞬微笑みで和らげると、リリエルは自身に当てられた部屋へと戻っていった。
「俺は何をすればいいんだ?」
……。
「あんたさんはこの世界郡には不干渉なんだろう?」
……。
「まぁわかった、この俺に任せなさい。」
ウォルフは部屋で外園に淹れてもらった緑茶をすすり、独り言をしゃべっている。
いや、独り言ではなく「誰か」と話をしているようだが、話し相手の声も姿もどこにも見えない、といった方が正しいだろうか。
「まったくおもしろい、実に面白い、この世界は。」
……。
「まあ彼の竜神王がいらっしゃるんだ、俺はその場の流れにまかせよう。おぉ茶柱が」
お茶請けにと出された金平糖を食み茶をすすると、金平糖の甘味とお茶の渋みが混ざり良い塩梅になる。
茶柱がと言ったあと話相手がいなくなってしまったようで、ウォルフはまったりと茶と甘味を楽しんだ。
「ふぅ、あれが外界の方々ですか……、まったく次元の違う力を感じますねぇ。」
気疲れ、とため息をつきながら少し懐かしい銘柄の紅茶を淹れる外園。
外園はこの世界「ディセント」の中で限定すれば最上位に位置する魔道士ではあるが、やはり「外界」へと渡る力を持つ戦士たちと肩を並べるとなると能力でいえば少し弱い。
「そういえば竜神王という単語についてはあまり詳しくは教えてくれませんでしたが……。」
童話レベルでしか残っていないであろう伝説に関する文献などあるのだろうか?と疑問符を浮かべるが、しかしどこかにそれを知るヒントがあるような気がしてならない。
「ドラグニートを守護する竜は彼と関係があるのでしょうかねぇ?」
ドラグニートとはここジパングと海を隔てた巨大な大陸の中にある国で、8柱の竜が守護しジパングを除けば一番平和な国だったと認識している。
「それに、デイン様とも……?」
そしてもうひとり、正確にはひと柱。
この世界の破滅を予言し国を出てしばらく経ってから知った、この世界の守護神の存在。
外園はその守護神を知っている、それはとてもとても優しい神だと。
「まあそのうち教えてくれるでしょう……。」
紅茶にミルクと砂糖を加え一口啜り、初めてこの銘柄を飲んだ時のことを思い出す。
「あぁ、彼女は今どうしているのでしょう。あの人魚は彼女が淹れなければ出会うことは叶わない……。」
懐かしそうに笑う。
初めて飲んだとき、そのあまりの美味しさに感動し、何かが見えたものだ、と。
「はぁ、俺こんなとこいていいのか?あんなバケモンみたいな奴らと……。」
広い屋敷の隅に拵えらえられた、厳密にはディンが急場で仕上げた工房の、煉瓦造りの炉の前でため息をつくセレン。
炉の中では石炭が煌々と燃え、何やら金属が放り込まれているようだ。
彼は非戦闘員、というより戦ったことなどないある意味一般人だ。
ただ出生が特殊であること、彼の創りだす武器が素晴らしいからと、家族の居場所のヒントがこの世界にあるぞと唆されてやってきた。
「俺に出来ることなんて……。」
おちゃらけたキャラとは思えない程、陰りを写す顔は険しい。
「武器自体はあるけどよ……。」
そう言って工房の隅に目をやると、そこには2振りの小太刀と壁にかけられたリボルバー式の拳銃が。
「俺戦えねえぞ……?」
普段はネガティブを悟られないようにと明るいキャラを演じているが、根っこの部分は薄暗いもやにいつも苛まれている。
そんな「人間」が世界の命運を左右する戦いに参加してしまっていいのだろうか。
……お前にしか出来ないことだ、俺たちの為にその鎚を振るってくれ……
「なんて言われていい気になってたけどよぉ……。」
ディンに初めて会った時のことを思い出し、頭を抱える。
あの時は失意のどん底にいたから、それを救ってくれたディンの言葉に応じたが。
いざその場に来るとどうしても尻込みしてしまうのも事実だ。
「はぁ……、やるっきゃねえ、か……。」
首をブンブンと横に振ると、今はやることをやろうと炉の中に放り込んだ金属を取り出し、打ち始めた。
「はぁ、とうとう始まってしまうんだね……。」
「テンペシア様、如何なさいましたか?」
「ううん、何でもないよ。一度皆下がってもらってもいいかい?」
「かしこまりました。」
ディセントはドラグニート。
八つの神殿に囲まれ護られている国の中で最も神聖な場所の1つ、風の神殿の中。
風を司る竜テンペシアは人間の姿で日々を過ごしており、その姿は緑色の短髪に新緑のローブを羽織った少年といった風貌だった。
しかし竜である事は間違いがなく、周りにいたローブのフードを深くかぶった神官たちにひと声かけると、神官達はささっとその場からいなくなる。
「王様、これでいいかい?」
「おう、すまねえなテンペシア。」
エルフの耳によく似た尖り耳を少し掻き、テンペシアは目の前に現れたディンに声をかけた。
「そういやみんな人間体でも翼は生やしてるんだっけか?」
「そうだよ、僕らを僕らたらしめる飾りみたいなものだけどね。」
背中から生えている新緑の翼をパタリとはためかせ、肩を竦めてみせる。
「そんなことをいいに来たわけじゃないんだろう?」
「まあな、何が起こってるかはわかってるか?」
「大体は把握してるよ、他の竜にも伝達してある。でも、なんでまたこの世界が…?」
少年の見た目と声とは似合わない憂いを帯びた表情をするテンペシア。
ディンが外界から戦士を集めているという事は知っていた、そしてそれが意味するところも。
だからこそ憂いている。
「んー、他世界から干渉があった、それで神々が争いをさせる。その予兆を感じた、ってわけだ。」
「今のうちに鎮める事は?」
「出来るけどしない、俺のやり方は何千年何万年経っても変わらねえよ。」
「まあ王様は頑固だからね、それはわかってる。問題は何が干渉して何のために……。」
ディンの言葉にため息を吐きつつ、諦めているよと両手をひらひらする。
そして核心の部分を問いかけようとするが、ディンはそれじゃと言うとその場から消えてしまった。
「はぁ、僕らには言えない、か。確証がないのか守護者を育てるまではまてってことなのか…。まあ多分後者なんだろうなぁ……。」
深いため息とともに吐き出されるのは落胆か、それとも別の何かか。
ディンが竜神の王となってはや1000年強。
そうしなければ自分たちがいなくなってしまった場合世界が滅びるとはわかっているが、しかし他に方法はないのかと頭を悩ませてきた。
「王様は優しいから、辛いだろうに……。」
少年の姿ではあるがディンよりは年上、年下であるディンの気持ちを考えると胸が苦しくなる。
しかし自分は一介の竜神、憂う相手はその王。
従うしかないのはわかっているが、しかしそれでも。
「今は僕らに出来ることをするしかない、か。」
テンペシアは頭を振りながら呟くと神殿の中央にある玉座へと腰掛け、瞑想を始めた。
王を使命から解き放つという、反逆とも取れる存在しない方法を考えるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます