1、青春の残滓(5)

 僕はあの日から一度もサクラと話をしていないし、目が合うこともない。学校に来ないサクラは平日、毎日のように図書館にいた。駐輪場に置いてある自転車だけを確認するが、僕は図書館の中に入ることまではできなかった。


 木曜日にはA君とサクラが家に来て、そして僕の部屋を使う。結局何も変わらなかった。唯一変わったことといえばサクラは僕の家に入る時に不機嫌そうな顔をするのをやめたことだった。サクラはA君の腕に抱きついて、嬉しそうに笑みを浮かべながら玄関を抜けて行く。それはまるで僕がした質問に答えているかのようだった。


 僕ごときが二人の間に入る隙などありはしなかったんだと。それをひしひしと痛感する。僕はある日を境に、自分の部屋にカメラを仕掛けるのをやめてしまった。やめようと決めてやめたわけじゃない。気づいたらやっていなかった。


 中学卒業を間近にした頃からサクラとA君は僕の家に来なくなった。木曜日にサクラが学校に来ることもなくなり、サクラは完全不登校生徒となった。


 卒業式の練習にも、もちろん本番の卒業式にも、サクラは来なかった。噂によると地元から少し離れた高校に受験だけはしに行っていたらしい。どこの高校に行ったのかはわからない。もう僕がサクラと会うことは一生ないのだろう。


 帰宅して、自分の部屋に卒業証書を広げる。三年もの間、僕は最底辺であり続けた。知識も体力も積むことはなく、この三年間で増えたのはサクラとA君を盗撮したデータだけだった。


 僕にとっての青春は、他人の青春の一片を知ることだった。青春の渦中に僕がいることはなくて、僕はいつだって外にいた。


 僕は、残りカスだった。


 僕自身が残りカスになっていた。


 これは後から聞いた話なのだが、どうやらA君とサクラは二人が僕の家に来なくなった頃には既に破局していたらしかった。


 僕はサクラのことは疎か、クラスの話題にもついていけていなかった。

 

 僕は、残りカスだった。


 僕の部屋にはもう一欠片の青春も残っていない。


 そうして僕は高校生になる。


 これから僕が語るのは、僕が夏休みに入る前に体験した出来事だ。


 あれは期末テストが終わって間もない、ある雨の日の出来事である。



 僕は……

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