風紀委員(自動販売機担当)
大幸望
序章
春休み。卒業した先輩、OBOGと一緒に、僕らはみんなで自販機をきれいにしていた。
校舎裏の人気のないところにひっそりと置いてあるようで、けれども立派な柵と屋根に囲まれ、防犯カメラや最新の防犯システムが導入されている。
「メンテナンス終わりましたか?」
「今終わりました!」
「え、なんか買うの?」
「いやー、今までズボンだったけど、スカートに戻そうと思って。」
「あぁー、制服変更のチケット、今月末までだっけ?って、健二も何か買うの?」
「赤に染めようかな、と思って。」
「それじゃあ、来月から赤鬼か。」
「赤鬼って。いつから鬼になったんだ?」
「いや、赤だから赤鬼かなって?」
「はぁ、じゃあ金色にする。」
「じゃあ、黄鬼だね。」
「きおに?それってやっぱり鬼じゃないか!」
「ははは、そうかも。」
「そうかもって!!」
そう言いながら、男子生徒が 髪色:赤 のチケットを、女子生徒が 制服:スカート のチケットを買っていった。
向かい側にある普通に飲み物を売っている自販機から、男女数人の集団が歩いてきた。
この高校には、選択の自由がある。たいてい、どんなこともこの自販機でチケットを手に入れれば選ぶことができる。
服装も、持ち物も、授業の欠席も。
そして、学校生活の居場所さえも。
2年前に卒業したOBの先輩がポツリといった。
「にしても、すごい制度だよな。こんなにも簡単に、色々自分で決められるんだから。居場所や自由をボタンひとつで手に入れられる、時々あの頃に戻りたい、と思うんだよね。維持する側としては大変だったけど。」
だから掃除の手伝いに来ちゃうんだけど。そう遠くを見ながら笑う先輩を見て、僕も一年前を思い出していた。
一年前、居場所をボタンひとつで得た、あの頃を。
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