第3話 姉妹
「全部、お姉さんのせいよ!」
5年は帰っていない実家に帰宅したら、旦那と2人の子供と実家でのびのび暮らしているはずの妹は、ロングの髪はボサボサで、上下セットのスエットを着て、目の下はくまがあり、顔色は青ざめ、アキに開口一番、怒鳴りつけた。
まるで、鏡台で頭を打って死んでしまった転生するまえの自分を見ているようで、アキは、愕然とした。
怒鳴り声に怯えたのか、手を繋いでいた娘の愛がアキの手をぎゅっとにぎってくる。
元カレの旦那らしき佐伯直人は会社に行ってしまい、自分の娘の愛のお昼を何とか作り、母親からのせっつく電話にせかされ、愛の手を繋ぎ、アキは実家へと行った、第一声だった。
玄関に入ると、昼夜逆転した妹、シキとばったり会い、家中に響きような声で怒鳴られたアキは、固まった。
「どうしたの?」
台所から慌てて出てきた母親は、アキが知る妹のシキ家族と住み、仕事で燃え尽きうつ病になったアキを見捨て、幸せに生きていた母親ではない。
痩せ細り、髪は一つに縛り、化粧もせず妹のシキと同じように目の下にくまを作り赤い目をしている。
「お母様・・・」
母親がアキに最後に転生する前に言った言葉は「働きもせず、恥をかかせる娘だ」だった。
その母親が、アキをすがるよう目で見ている。
「た、ただいま」
何とか絞り出した声が、震えていた。
母親の後ろから、年子の男の子と女の子を産んで夫と、両親と幸せそうに毎日生きていた妹のシキが、憎しみを振り絞るような目で、アキをにらむ。
「何で、お姉さんが家に帰ってくんのよ!愛までつれて、私への当て付けなの!」
それは、アキには辛い悲鳴に似た叫びに聞こえた。
「違うのよ!お母さんが呼んだのよ!シキの気分転換になるかなと思って」
母親が、アキが見たことのないような動揺した顔でシキをいさめた。
「何が気分転換よ!ずっと成績も出た学校も結婚だって喜ばれたのは、いつだって、お姉さんじゃない!」
玄関で、呆然として立ち尽くしているアキに向かってシキが裸足で乗り出したのを、母親が細い体でくいとめる。
違う、転生する前はいつだってアキより可愛くて要領もよく、両親にも可愛がられ、学校の成績が良いシキをアキが嫉妬し、憎んでいた。
まるで、転生する前の自分を見ているようでアキは怖くなった。
手を繋いでいた愛の手が震えている。
愛を見ると、大きな瞳からぼろぼろ大粒の涙を流している。
愛にとっては、叔母にあたる人間からこれだけ怒鳴られている事に気がつきアキはとっさに、愛を抱っこした。
子供なんて抱っこした事がなかったのに、ずっと抱っこしてきたかのように。
「ごめん、今日は帰る」
アキが一言呟くと、母親が見たこともない寂しい目でアキを見た後、うなずいた。
愛を抱っこしたまま、アキは玄関を飛び出しす。
「また逃げるの!お姉さんは、昔から私から逃げてばかりじゃない!」
最後は泣き叫ぶようなシキの声がアキの背中を貫いた。
「逃げる」
転生する前に、アキの両親と妹家族がアキに対して散々してきた仕打ちだ。
一瞬、アキはいいきみだと思った。あなた達が私が死ぬ前にしてきた事じゃない。
「お母さん、私が悪いの?」
アキの胸に顔をうずめたまま、愛が大泣きしていた。
我に返り、アキは自分が転生後、産んだらしい愛の涙をぬぐった。
「愛は、悪くない。誰も悪くない。おばさん、少し心の病気なの。愛も悲しいと泣くでしょ?おばさんも、つらいことがたくさんあって心が泣いてるだけなの。愛は悪くない」
何度か顔をのぞくと、アキに似た少しつり目と真に似た丸い顔を向けた愛がうなずいた。
気がつくと、夕日が落ちて夜空が広がっている。
アキは、やっと気がついた。
この転生した世界は、ただの世界じゃない。立場が逆転し、異空間にあると言われている、違う人生を人が歩むパラレルワールドなのだと。
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