2章 狐憑きと旦那さまの結婚式編。
2章1 式の日取りが決まりました。
それは、深雪が暑中見舞いの宛て名書きをしている時のことであった。たまたま休みであった崇正が、世間話でもするかのような調子で告げた。
「ところで深雪」
「はい。なんでしょうか」
「式の日取りが決まったんだ」
ぴこん、と深雪の狐耳が動いた。筆を進める手も止まる。
「……今なんと?」
「式の日取りが決まったって言ったよ」
今一度ハッキリと崇正から告げられ、深雪は思わずにやけてしまった。楽しみにしていたことだから、どうしても頬が緩む。
「……何時ごろになるのでしょうか」
「10日後だね」
10日ということは、あと一週間とちょっとである。
わりかしすぐだ。
深雪が目を輝かせると、それを見た崇正がいつもの優し気な笑みを浮かべた。
「……そういう素直な反応が、深雪の良いところだよね。こっちも頑張ろうって思える。居てくれるだけで元気を貰えるよ」
崇正が褒めてくれた。
しかし、最後の言葉がどうにも引っかかり、深雪はなんとも言えない気持ちで眉をハの字にした。
居るだけで良い、というのが少し嫌。
崇正の為に何かをしたい、と思う自分の気持ちを蔑ろにされた気がするというか……。
「わたしは、旦那さまの為に動きたいです。だから、出来れば、何かして欲しいことがあれば言って欲しいです。居てくれるだけで良いというのは、わたしにとっては辛いことです」
深雪は自らの気持ちを真っすぐに吐露した。
「して欲しいことは言葉に出して欲しいです。もしもそれが、わたしに出来ないことであれば、出来ないときちんと言いますから」
無理をするつもりは無い。
それをすれば、崇正は優しいから心を痛め、恐らく次からは何も言ってくれなくなる。
崇正の為に動きたい、という思いからの「なんでも言って欲しい」なのだ。困らせたり、逆に気を使わせたりしたら本末転倒である。
だから、無理なことは無理だと伝えるとしっかり言葉にした。
「……分かった。深雪にやって欲しいかもと思うことがあったら、まず相談するようにするよ」
「ぜひぜひ」
崇正の言葉を受けて、深雪は再び筆を走らせ宛て名書きを再開した。すると、崇正も筆を握り、宛て名書きに参加し始める。
二人でもくもくとハガキを書き続け、穏やかな時間が過ぎていった。
「ところで、旦那さまって意外と字が汚いですよね」
「……僕は普通だと思うよ。深雪が上手過ぎるんだよ」
一生一度の晴れ舞台まであと僅か。少しずつ定まって行く二人の日常が毎日を彩り始めている。
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