不器用な彼

私達の<よろずや>は、実は獣蟲じゅうちゅうがよく<巣>を作る場所に面した位置に建っています。そのため、獣蟲じゅうちゅうの多くは私達の知覚圏内を通ってこちら側に侵入してくるというわけです。


これは、私達が獣蟲じゅうちゅうに対する<守り>の役目をしていることも意味しています。


何しろ相堂しょうどう伍長は、索敵能力も獣並みなのです。臭いや音で獣蟲じゅうちゅうを察知してしまいます。風向きさえ合えば数キロ離れていても嗅ぎ付けるそうですから。


もっとも、それさえ、ロボットがいれば十分に代わりができてしまう程度の能力なので、どうしても必要な人材というわけでもないんですよね。


だからもしかすると、こういう、人間としては特異な能力をもってしまった彼を管理下に置いて制御するために敢えて軍に引き入れたのかもしれないとも思えます。


まあそれはいいとして、伍長は食べたらすぐにまた横になって寝てしまったので、私は少佐と一緒にゆっくりとお茶にしました。


今日はお客も来なかったので、のんびりと。


「ビアンカは、ここでの生活は慣れたかい?」


穏やかな表情で少佐が問い掛けてくれます。


「はい。私は心身共に良好です。だって、少佐と一緒にいられますから。少佐と一緒なら、どこだって私にとっては天国です♡」


それが私の正直な気持ちでした。少佐と一緒でなかったら、もし、伍長と二人きりだったら、私はきっと、一人で別のところに行っていたでしょう。


私も軍人の端くれですから生きるだけなら一人でも生きていけると思います。でも、ここで一人で生きていくのは、とても虚しかったかもしれません。


獣人達は親切にしてくれたとしても、彼らは決して少佐ではありませんから……


『少佐と一緒なら、どこだって私にとっては天国です♡』


私のその言葉に、少佐も、少し照れくさそうに微笑みながら、


「ありがとう。そう言ってくれると僕も励みになるよ」


って。


もっとも、私の本音としては、そんな言葉より、


『愛してる』


の一言が欲しいんですけどね。


<データヒューマン>として前の世界にいた時に、


『あの朴念仁をとっとと観念させなさい! 見てて歯痒いったらありゃしない!!』


『私達はあんたの味方だからね!』


『なんでお前ら結婚しないんだ? バカじゃないのか?』


などと皆に言ってもらえるくらい、私と少佐の関係は近いものになっていたはずですから。


だけど改めてここに来たことで、少佐は自分の責任として私や伍長のことを守らなければと思ってくれてるみたいです。


『もう軍人じゃない』と言っていた少佐自身が誰よりも軍人としての責任感に縛られているんです。


でも、私は、そういう不器用な彼のことが好きなんですよね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る