食いたいもんが

メイミィを集落まで送り届け、<よろずや>に戻った私は、お風呂に入って寛ぎました。


今日は大変でしたが、こういう日もありますね。


それに、実際に獣蟲じゅうちゅうに対処した少佐と、まあ、伍長の方が大変だったでしょうから。


……伍長は楽しめただけかもしれませんが……


お風呂から上がって服を着ると、


「さ~て、風呂、風呂~」


獣蟲じゅうちゅうの処理を終えた伍長がそう言って裏口から入ってきました。


「お疲れ様です」


「おう!」


機嫌よさそうに応えた彼が風呂場に入っていくのを見送った後、部屋に様子を見に行くと、ノーラと赤ちゃんは眠っていました。


なお、ノーラの赤ちゃんの名前については、トームに決めてもらうということで決まっています。


ノーラはそこまで考えてないでしょうし。


「お疲れ様」


店に隣接してるリビングに来ると、少佐が食事の用意をしながら迎えてくれました。


「いえ、私は全然大丈夫です。少佐こそ、ご無事で何よりです」


少佐なら大丈夫とは思いつつも、それが本音ですね。


そんな私に、少佐は、


「ありがとう」


とても穏やかな笑顔を向けてくれます。少佐のその笑顔があれば私は、自分が人間でなくなったとしても生きていけます。


「ユキは後でいいそうだから、先に食事にしよう」


「はい…♡」


相堂しょうどう伍長というお邪魔虫はいても、実質、ほとんど少佐との夫婦生活のような今の暮らしは私にとっては本当にかけがえのないものですし。


人間は、どこにいてもどんな状況でも幸せを掴むことができるんだと実感しますね。


「後片付けは私が」


「ああ、ありがとう」


食事の後、私と少佐の分の片付けを済ませると、そこに伍長がお風呂から上がってきて、自分の分の食事の用意をささっと済ませ、ガツガツと貪り始めました。


彼は、自分のことは自分でするタイプなので、まだ私も耐えられているというのもあります。これが、時代錯誤的な、


『家事は女の仕事だ!』


的なことを言う人だったらそれこそ一緒にさえいられなかったでしょう。


ただ、彼の食事は、


『腹さえ膨れりゃいい』


というそれなので、良く言えばワイルド、悪く言えば出鱈目な感じですね。


まあ、本人がそれでいいのならいいのですが。


しかも、獣蟲じゅうちゅうを解体していた時に、傷むのが早くて保存食にもできない部分を、彼は、串に通して火で炙って、その場で食べてしまっているようです。


食中毒などの危険もあるのでやめるようには何度も言ってきたのですが、聞いてくれません。


「食いたいもんが目の前にあって、他に食うヤツもいないってのに食えないんじゃ、生きてたってしょうがねえだろうが!」


本当にしょうがない人です。


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