人間とは認められない
出産に鎮静剤の用意。
これだけを見ると完全に離島や僻地の<診療所>みたいな役目をしてますね。
でも、あくまでここは<店>で、<よろずや>なんです。
最初はそういう形で始めたのですが、医療という概念のないこの地では、自分達の価値を獣人達にアピールするには医療の方が効果的だったようです。
当時、見慣れない姿をした私達を獣人達は警戒して、なかなか近付こうともしませんでした。
けれどある時、先ほど訪れたメイミィと彼女の妹のレミニィがこの近くを通りがかった時に、レミニィが発作を起こして暴れたのを、
これをきっかけに、店に<ホコの実>の在庫を置くようにし、同時に、商店として商品を置くだけじゃなく、簡単な医療も提供することになったというのが経緯です。
実は少佐は、戦場で救急対応ができるようにということで医師免許を持ち、軍に入る以前には実際に医師としての勤務の経験もありました。
加えて、戦場で負傷した味方の手術を行ったこともあります。
もっとも、私達がいた世界には、非常に高度な機能を有したロボットが多数いて、それが応急処置も行ってくれるので、わざわざ仕官が医師の真似事をする事態に至ることはそんなにありませんでしたが。
ただそれが今になって役立つことになるとは、実に皮肉なものです。
ちなみに私も、軍に入る前、一時期、看護師をしていたこともあるので、多少の知識も経験もあります。ただ、看護師として許されている以上の医療行為はできませんでしたから、そちらは見様見真似ですが。
人間社会では私が過剰に医療行為を行うのは触法行為になってしまうものの、この世界には<法律>そのものがありませんし、そして私達自身が、厳密には<人間>ではないのです。
これは、<義体化してあるサイボーグ>であるとか、人間そっくりの生体ロボットであるとか、そういう意味ではありません。あくまでも肉体の構造そのものは人間のそれと寸分違わぬ存在なんです。
単に、
『法律上は人間とは認められない』
というだけで……
こうして一騒動あった後、ようやく私達は一息吐きました。
三人それぞれ手分けして夕食の用意をして、夕食を採りながら今日の報告を行い、
「僕がノーラと赤ん坊を見てるから、ビアンカは先にお風呂に入ってくれていいよ」
と少佐に言われ、
「はい、じゃあ、先に失礼します」
と、私は、小屋の奥に設置した、これも丸太をくりぬいて作った<浴槽>に、土器とカマドで沸かしたお湯を張ったお風呂に入ります。
そして石鹸代わりの泥で体を洗い、湯で流すと、そこには、比喩表現としての『透き通るような』というそれではなく、本当に『透き通った』手足が現れたのでした。
そう。これが今の私、いえ、私だけでなく、少佐や伍長も含めた、<私達の体>なのです。
私が、
『法律上は人間とは認められない』
と言ったのは、これが理由なのでした……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます