歩美ちゃんは呼びたい

秋谷イル

 私は今、仏壇の前でおじさんと向かい合ってる。おじさんの名前は大塚おおつか 豪鉄ごうてつ。やたらごっつい名前だけど見た目はそれ以上にごっつい。立って並んだら私の頭のてっぺんが腰にも届かないくらい高身長。腕も丸太みたいで顔はクマよりもおっかない。ママは世紀末覇王フェイスって呼んでいる。世紀末覇王が誰か知らないけど、ゲームだったら絶対ボスキャラだよね、この人。ストーリー中盤で戦う無茶苦茶強い将軍か、もしくは世界を支配しようとしている帝国の親玉とか、とにかくそういう感じの人だ。

 ちなみに何故か和装。

歩美あゆみよ」

 声も渋い。そのくせよく通るので声優さんみたいだなとも思う。

「今日から、お前も我が家で暮らす。まずは先祖に挨拶してやってくれ」

 見た目と口調に反し物腰は低い。こう見えて優しい人なんだよね。大の子供好きだし。

 私は頷いて仏壇の方を向く。そして、おじさんの両親だという人達の遺影を見た。おじさんよりさらに三倍くらい顔が怖いお父さんと、おじさんの妹の美樹さんに似た日本人に見えない顔立ちの綺麗なお母さん。近付き、手に持っていたもう一つの遺影を二人の横に並べる。

 浮草うきくさ 雨道あまみち。私のパパだ。生まれる前に病気で死んじゃったから会ったことはないんだけど、優しい人だったってママから聞いてる。

 写真の中のパパは線の細い美形。よく女の人に間違われていたらしい。豪鉄おじさんとは真逆のタイプ。ママの好みはどっちなんだかいまいちわからない。両極端な二人に恋をしたんだし、あの人もたいがい変わり者だよ。

 私はパパとおじさんの両親に向かって手を合わせ、瞼を閉じて語りかけた。

(これからよろしくお願いします。パパ、ママのことは任せてね。私がついてるから心配いらないよ)

 そしてもう一回おじさんと向かい合った。やっぱり手を合わせて拝んでいたおじさんは、こちらを向いて頷く。

「うむ、これでお前も大塚家の一員よ。これからよろしく頼む」

「こちらこそ、ええっと……」

 差し出された手を握り返し、おじさんのことをどう呼ぼうか迷っていると相手はフッと笑った。

「好きに呼ぶがいい。いきなり“お父さん”などとは言えまい」

「じゃあ、しばらくは今まで通り“おじさん”で」

「うむ、それで良い」


 そんなわけで私こと笹子じねご 歩美あゆみ十歳は、ママの結婚により本日から大塚 歩美になったのである。

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