第90話 セーラの話

 カツヨリとリコはサンディに連れられてセーラの家に着いた。ジャミラの町外れにある薬屋だ。ミューラさんのお店も町外れにあったけどやっぱりエルフは隠れ気味な生活なのかも。セーラはミューラと同じ薬師のようだ。


「セーラさん。カツヨリとリコを連れてきたよ」


 店の奥からセーラが出てきた。結構なお婆さんというかお年を召した人がでてきた。エルフでお婆さんて一体何歳?


「良かった。間に合ったね、私がセーラだよ。よくきてくれた、歓迎するよ」


 セーラは400歳だそうだ。長命のエルフでもいつ寿命が来てもいい年齢に差し掛かっている。サンディ曰く、知ってる人の中では最長老らしい。


「私が親から聞いた話だ。エルフはその昔魔族に土地を奪われた。勇者が魔王を倒しその土地は功績のあった者に与えられた」


 それはミューラさんから聞いた。今は何だっけ?そうナッツピー合衆国になってるところだよね。


「そう、そのナッツピー合衆国だが、今は龍族が指名した人族の子孫が治めている。ナッツピー合衆国にはエルフはいない、いや入れない」


 入れない?国がエルフを戻さないようにしてるのか。


「カツヨリは頭がいいな。その通りだ。実はナッツピー合衆国になっているところにはエルフの里だった場所がある。そこに魔王が拠点を築いたのだ。何故だと思う?」


 ???、普通に考えると何か美味しいものがそこにあるって事だよな。何だろう?エルフって言うと普通は世界樹?カツヨリは普通と言っているが全く普通ではない。前世の異世界小説から得たエセ知識を普通と言っていいのか!


「世界樹とは何だ?だが美味しいものというのは正しい。エルフの里には木聖と呼ばれる、そう、人族がダンジョンコアと呼んでいる宝具があったのだ」


 世界樹はないのね。ここでダンジョンコアが出てくるのか。


「セーラさん。この間、アキールの町の近くに魔族が現れ、魔王を復活させるためにダンジョンコアを育てていました。そのコアは俺が持ってますが。500年前は魔王はどうやって誕生したのですか?」


「私も500年前には産まれていないのでわからない。だが、エルフが魔族に追われた時、すでに魔王はいたそうだ。魔王は木聖を狙ってエルフの里を襲ったのではないかと言われている。木聖の力が欲しかったのじゃろう」


 木聖の力?そういえば魔王復活に成長したダンジョンコアがいるってことは魔源の量か何かか?


「それはわかっていない。ただ、木聖には木、風の魔力が大量に含まれていたとされている。ただ、木聖はエルフにしか反応を示さない」


 じゃあ魔王は木聖を狙ってエルフの里を襲い、エルフを追い出したものの肝心の木聖の力は手に入らなかったのか。


「魔王はエルフの里だったところに居城を築いた。そして木聖の力を得る事ができず、エルフを捕らえた。だがエルフは誇り高き種族だ。魔族なぞに味方をするものはいない、たとえ殺されてもだ」


 てことは、結局魔王は木聖の力が使えない、いや、違うな。そうか、それで!


「やはりカツヨリは頭がいいのう。その通りだ」


 リコがキョトンとしている。全然わっかんないんだけど。


「お兄ちゃん。どういう事?」


「ダークエルフだよ」


 エルフが言う事を聞かないのでエルフに子供を産ませた。そしてその子を魔族として育て、木聖と接触させた。


「そうだ。ダークエルフは魔族とエルフの混血だ。魔族は人間に化けてエルフと子供を作ったのだ。生まれたダークエルフは木聖の力を完全に引き出す事はできなかったがいくらかは魔王に使われたといわれている」


 それで、魔王亡き後その居城にあった木聖はどうなったの?


「何で魔族が成長させたダンジョンコアを必要としているのか、だ。先程カツヨリが話した通り、魔族は魔王復活の為にダンジョンコアの魔源を必要としているのだ。では、魔王はどこで復活すると思う?」


 封印されたか死んだかはわからないけど普通に考えると魔王の居城ことエルフの里だよな。


「その通りだ。そしてそこには木聖がある。勇者カツヨリは木聖の力を借りて魔王を倒したと言われている。そのかわり魔王は木聖の力を利用する事で復活すると言われている。この事はエルフにしか伝わっていない。おそらく魔族はダンジョンコアを使って木聖と同じ魔源エネルギーを生み出そうとしているのだろう」


 じゃあ、強力な魔源を集めれば魔王が復活するって事か。それで何でエルフはナッツピー共和国に入れないの?


「龍族が国を作る時に決めた掟だ。この国にエルフを入れてはならないとな。勇者パーティーは木聖の力を知り、それが悪用される事を恐れたのだろう。それ以降、エルフは里には戻れなくなった」


 ???だったらダンジョンコアなんて面倒くさい事をしなくてもエルフを攫って連れていけばいいんじゃねえの?


「そう思うのが普通だ。だが、木聖に話しかける事ができるのは産まれてから1週間以内に木聖にご挨拶をしたエルフのみなのだ。人間の言葉でいうと洗礼という行為だ。そうする事でエルフは木聖と話ができるようになる。それ以外の者はエルフといえど木聖とは話ができん。だがそんな事はエルフにしかわからないし、木聖の存在を知るエルフももうほとんど残っていない」


 じゃあ、今生きているエルフは?


「そう。誰も木聖とは話ができない。つまり魔王復活に木聖の力は使えないという事だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る