第70話 ウサギ獣人

獣人の国、勇者カツヨリのパーティーだった虎獣人のジャグラーが起こした国だ。元々獣人は人間からあまりいいイメージを持たれてなく、今の獣人の国があるエリアに集まって住んでいた。それが魔王を倒した功績で正式に国として認められて他の人種と対等になった。獣人には色々な種類がある。猫獣人、犬獣人、ウサギ獣人、虎獣人、そして最大派閥の獅子獣人だ。戦闘力では劣る獅子獣人だが一番数が多く、徒党を組んでいた。


 獣人は寿命が200歳、人間のほぼ倍生きるといわれている。事件はジャグラーの子供の代で起きた。ジャグラーの子、ジャグラスには子供が出来なかったのだ。ジャグラスは大臣を集め、


「獣人は勇者に従い国を作る事ができた。勇者パーティーに父、ジャグラーがいたために王となったが実際は数多くの獣人が大戦に参加し命を落としている。偉大な多大な犠牲により国として認められたのだ。私は父から最も勇敢に戦ったのはウサギ獣人だったと聞いている。戦のせいでそのウサギ獣人は数が著しく減ってしまったということも。私は王の座をウサギ獣人に譲ろうと思う」


 大臣達は反対した。王を決めるのに選挙をすべきだというのだ。大臣の1人、獅子獣人のレオンは獅子獣人派閥を作っており自らが王になる気マンマンで、チャンスを伺っていたのだった。子がいないジャグラスが動くのを待っていたのだ。ジャグラスはこのまま獅子獣人が王になると他の獣人が嫌な思いをする事になると警戒したが、数の意見は強い。なんとか王の権限で王位争奪格闘技戦の開催を決定し、優勝者に王位を譲る事に同意させた。


 ジャグラスは父のジャグラーがウサギ獣人に助けられた事を何度も聞かされ、いつか親の恩を返したいと考えていた。とはいえまさか子が出来ないとは考えてなく、このまま権力を失う前に何とかしたいという焦りもあり早期に王位を譲るべく動いたのだった。


 獣人の国に住むウサギ獣人は20人しかいない。戦闘力は高いがそれ故に戦に駆り出され、多くが死んでしまったのだ。ウサギ獣人の長、バイアランはジャグラーから優遇され比較的広い土地を与えられていた。そこで農業を営み稼ぎを得ていた。ある日バイアランは王城へ呼び出された。


「バイアラン。よく来てくれた。実は今度王位を譲る事になった」


「王様。そのような大事な事を私に。で、今日のご用件は何でございますか?王様の好物の山イチゴはまだ実っておりませんし」


「王位の件だ。そなたに王位争奪戦に出て欲しい」


「………………」


 ジャグラスは経緯を説明した。獣人国の未来のために王位を継いで欲しいと頼んだのだ。バイアランは父の代のウサギ獣人の多くが戦争で亡くなった事を知っている。そのおかげで国が出来た事も。ウサギ獣人の中には我らこそが王位を得てしかるべきという輩もいる。


「お話は伺いましたが少し考えさせて下さい。我らは力だけでは国を治める事は難しい事を理解しております。それにその格闘技戦に出るのでしたら私ではなく息子の出番でしょう。ただ息子が王に向いているか、今まで考えた事もありませんので本人とも話をした上でご回答申し上げます」


 バイアランは領地へ戻り息子のオズバーンに王からの依頼を話した。オズバーンの答えは即答だった。


「出る」


 オズバーンは戦闘に長けているウサギ獣人の中でも才能のある若者だった。俺があの時代に産まれていたら勇者パーティーに入っていたのは自分だと自負していた。つまり自分の強さに自信を持っていたのだ。そこに格闘技戦での王位継承となれば、本来ウサギ獣人の物であったはずの王位を得る事ができる。迷う事などなかったのだ。


「オズバーン。王位は格闘技戦で取れても国を治めるのは難しい。力だけでは民はついては来ない。そこをわかっていて王位争奪格闘技戦に出ると言うのか?」


 バイアランは不安だった。仮に勝てたとしてオズバーンが王の器とは思えない。それに他の獣人達が納得するのかどうかわからなかった。なぜ、王はこんな突拍子もない事を考え出したのか?そうせざるを得ない何かがあるはずだ。だが、オズバーンは、


「勝てば王になれるのでしょう。本来この国の王にはウサギ獣人がなるべきなのです。父上、俺が王になったら各獣人から同数の大臣を出してもらい、平等な政治を行うのですよ。どっかの獅子みたいな派閥など政治の邪魔でしかない。俺はずっと考えていたのです。この日を待っていた、何年も」


 突然持論を話し出した。どうやら以前から王位につく事を考えていたらしい。誰の入れ知恵だ?日々農業に明け暮れ、そんな事を考えるような暇があったとは思えないし、そもそも王位につくなどと想像する事がおかしい。その時孫のローラとシェリーがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「じいじ、じいじ」


シェリーはまだ3歳、やっと言葉を話すようになったのだが最初に話した言葉がじいじ だったので可愛くてしょうがない、目の中に入れても痛くないほどの可愛さだ。孫達の後ろからオズバーンの嫁、ミランダも歩いてくる。

あ、あの女。あの女の入れ知恵か!バイアランはミランダを睨んだ。

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