第66話 王都
王都では色々とうごきがあった。城へ出向いたゲーマルクは王に会い経緯を説明した。
「王様。ですのでカツヨリは約束を反故にはしましたが理由があります。罰することのないようお願い致します」
「そうか。勇者かもしれん男をその程度で罰する事はないぞ。何かお主らは余を勘違いしていないか?どうも余の事を理解のない堅物だと思われている節がある。確かに余は曲がった事が大嫌いだ。だが理由があるものに対して一方的に攻めたりはせん」
王のイメージ。それは本人の考えとはかなり異なっていた。王は人に優しく振る舞っているつもりでも、周りはそうは思わない。王の何気ない言葉や冗談も聞く人によっては物凄く重い言葉になる。王は自分の立場をわかっていなかった。本人は周りと対等のようなつもりでも実際は全く違うのだ。一つ一つの自分の言葉がどれだけ周囲に影響を与え、喜ばせ、驚かせるかを。王の一言は命令であり指示だ。例え本人にそのつもりがなくても。
過去の王の発言は王の約束を破るものには徹底的に責めるというイメージを作っていた。それは城の中から城下へ、町へと伝わり王都では知らない人はいない。それがカツヨリに伝わっていて悪い印象を持たれてしまった。この誤解の代償は大きかったのだが、今は誰も知らない。
「ゲーマルクよ。余は色々と調べた。王族にしか伝わらない書物、王国図書館にある今まで見てこなかった古書。そして町のエルフにも話を聞いた。カツヨリはそのエルフを訪ねてくるようだ。エルフはカツヨリが来たらエルフにしか伝わっていない話をしてくれると余に約束したぞ」
「エルフですか。あまりそういうのと関わりにならぬ方がよろしいかと。良からぬ噂も聞きますゆえ」
「だがな、今回は一大事。いや余はこの世界が滅亡する可能性もある有事と考えておる。お主から聞いた魔族にしても我が軍で敵わぬとならば策を練らねばならぬ。そこに勇者かも知れん男の登場だ。過度の期待は危険ではあるがまずはその男を見極めねばならぬ。カツヨリを守れ!そして連れて参れ」
「承知致しました」
ゲーマルクは数少ない出動できる者達を集めてカツヨリを追いかけた。
エルフのサンディは王都へきてギルドへの伝令を頼んだ後、アキール町のエルフ、ミューラが師と仰ぐセーラのところへ来ていた。ギルドに助けを求めた後、集まったBランクパーティーを見て自分の出番はないと考えたのだ。アキール町長のドリルドの伝手で王にも面会し、カツヨリの報告もした。後はカツヨリが王都に来るのを待つだけだった。セーラのところに手紙が来て、カツヨリが王都に向かった事、セーラを訪ねるように段取りを取った事が書かれていた。
「カツヨリ、リリィ、リコ。会うのが楽しみだ。スキル勇者の影、謎が解けるかもしれん。早く来い、カツヨリ」
だが、カツヨリは来なかった。
ギルドからはレイラとバーザムがハゲールの森に入り盗賊の死体を見つけた。結構時間が経っているように見える。必死に追いかけたが追いつく事はなかった。
カツヨリ達は森を進み続け気づいたら森を抜けて平地に出ていた。ここはすでにマルス国だ。森の中に国境があったのだが魔物を倒すのに夢中で気づかなかった。国境といっても
『ここからマルス国』
って標識が立ってるだけなのでまあ気付かなくても仕方がない。
「リリィ。森を抜けちまったぞ。リコは一体どこへ?」
「盗賊もあれっきり出てこないし。龍はこっちに向かって飛んでいったから方向は合ってると思うけど。なんか空気が違う気がするんだけどここってラモス国じゃないんじゃない?」
そうか。知らないうちに国境を越えたって事?まあラモス国王はなんか会う気がしなくなったし戻らなくてもいいかな?色々調べてくれてたみたいだけどなんか思ってたのと違うし。
でもミューラさんが訪ねるようにいってたエルフのところへは行きたいからリコを助けた後、こっそり戻ればいいか。
平地を歩いて行くと街道に出た。賑わってはいないが歩いている人がポツリポツリいる。道の向こうには町が見える。振り返ると地平線まで道が続き、左手にはハゲールの森、右手は山だ。
「リリィ。盗賊の手がかりが欲しい。森の中で襲ってきた奴らはこっちの腕を確認するための囮だろう。弱すぎるし。となると本隊、いやリコはどこだと思う?」
「さっきの龍が盗賊の仲間だとすると町に行ったとは思えない。となると、山かしら?」
俺を狙っていてリコを攫ったはずなのになんなんだ一体。盗賊と龍の関係もわからないし、リコのためなら龍でも倒す!と改めて気合いを入れていると、
「カツヨリ、あれ見て」
リリィが山の方を指差している。馬車が3台、馬に乗った何者かの集団に襲われていた。うーん、あれだな、出来過ぎってやつだ。あまりにもテンプレすぎるだろこの展開は。でも行くしかないんだよな、他の選択肢がない。
「リリィ、行くぞ」
カツヨリは猛スピードで走り出した。
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