第18話 天才魔法少女

 飛び出したカツヨリを見た周囲のウルフ達は一斉にカツヨリの背後から襲いかかろうとした。まるで待っていたかのようだ。そこにサンディの中級魔法が発動した。


「ニードルレイン!」


 針葉樹の尖った葉っぱが針のように敵に降り注ぐ、広範囲魔法だ。広範囲な分、威力は少ないが大勢の敵を一気に攻撃できる。これにより背後から仕掛けようとしていたウルフは全滅した。リコは中級魔法を連発してゼーゼー言っているサンディに水筒を渡し、前へ進もうとした。


「リコ、ダメよ。後方支援しかしちゃあダメ」


「でもリリィ。お兄ちゃん1人じゃあの数は。しかもボスみたいのもいるし」


 サンディは水筒の水を飲み回復を確認してから、


「いい2人とも。あれはBランクの魔物。あんた達なら瞬殺されるわ。あんた達にできるのはここからの魔法支援だけ。ここからじゃボスは魔法の射程外だし、カツヨリが囲まれたら後ろの敵を倒して。私はここからは弓を使う」


 サンディにはスキル必中がある。エルフにしかできない弓矢の狙撃スキルと組み合わせれば後方攻撃支援としてある意味では最強である。サンディの本来の戦闘スタイルは弓による後方支援なのだ。




 カツヨリは一気に飛び出した後、まずは周囲のエルフに攻撃を仕掛けた。昔、伊那のくノ一に教わった苦無による手裏剣、の代わりに短剣を2本投げ左右の2匹を倒すとそのまま刀で中央のウルフの首を飛ばす。


「良く斬れるなあこの剣。あの盗賊いいものをくれた」


 くれたのではなく奪ったのだが。ウルフを蹴散らし黒いウルフに斬りかけようとした時、なんか嫌な感じがして飛び下がった。いわゆるバックステップだ。その瞬間、元いた位置に小さな稲妻が落ちた。なあるほど。ああやって魔法で痺れさせてそこを攻撃してくるって事ね。って魔物のくせに頭いいじゃん。サンディの声が聞こえる。


「Bランクの魔物は統率スキルがある。頭もいいし魔法とのコンビネーションも使う。私が弓で支援するからその隙を突け!」


 カツヨリはサンダーウルフを見た。向こうもこっちを見ていて目があった。魔法避けやがったな、このやろうって言ってる気がする。サンダーウルフが顎で指示するとシルバーウルフがカツヨリの左右に陣取った。サンディの矢がブラックウルフを攻撃している。と、一本の矢がサンダーウルフに向かった。サンディの必中スキルだ。


「フン!」


 サンダーウルフは鼻息とともに矢を跳ね返した。サンディは、驚き呟いた。


「そんな、あんなに硬くはないはず」


 必中スキルは当てる事はできるが、それで倒せるかは別である。単純に攻撃力と防御力の差だ。カツヨリにはサンダーウルフの周りに黄色いオーラのような物がみえていた。魔力?防御力アップなのかな?カツヨリは知らなかったがサンダーウルフが使っているスキルは、


<統率>


  同系統の魔物を従えることができる。自分も含め従えた魔物は全ての能力が20%強化される。


<身体能力強化>


 攻撃力、防御力、素早さを30%上げる。但し持続時間は10分。MPを10使用する。一度使用すると再使用までには10分のインターバルが必要で使用後は疲労感におそわれる。


 サンダーウルフはカツヨリ達を強敵と判断して身体能力強化のスキルを使っていた。それがカツヨリには黄色いオーラに見えていたのだ。黄色い魔力がサンダーウルフの顔の方へ集まってきている。あ、魔法使うのかな、なんか出た。カツヨリは移動して魔法を避けた。元いた位置に稲妻が落ちた。カツヨリが移動したところにシルバーウルフが襲いかかる。なんつー連携だよ、うますぎる。カツヨリは体勢を崩しながら剣を振るいシルバーウルフが避ける。そこにもう1匹のシルバーウルフとブラックウルフが襲いかかる。カツヨリは体勢を崩したのが響いて防戦一方になった。


「やっベー。魔物が連携ってこんなに手強いのか」


 カツヨリは立ち直すきっかけが欲しかった。その時、火の玉がシルバーウルフを襲った。ダメージはほとんど与えられなかったようだが動物は基本的に火が苦手だ。シルバーウルフが一瞬引いたのでカツヨリは体勢を取り戻した。


「よっしゃー、仕切り直しだ」




 火の玉はリコのファイヤーボールだった。リコはカツヨリを支援しようとファイヤーボールを打った。ここからカツヨリまでは30mは離れている。ファイヤーボールは20mのところで消えてしまった。届かないのだ。それを見たサンディは、


「射程外って言ったでしょ。でも近づいちゃダメよ。カツヨリがこっちに気をとられたら絶対にやられるから。私の弓に任せて」


 ところがサンディの弓から放たれた矢はシルバーウルフに当たる前にブラックウルフが足で叩き落としていた。シルバーウルフが攻撃に専念できるように守っていたのだ。


 それを見たリコは右手にファイヤーボール、左手に突風をだし、


「届いて!ロングレンジファイヤーボール!」


 ファイヤーボールを突風に乗せたのだ。火の玉は勢いを増してシルバーウルフを襲った。


「!!!!!」


 サンディとリリィは目が点になっている。何今の?リコは続けてファイヤーボールを打とうとして2人に止められた。


「ちょっと待って。狙うなら手前のブラックウルフ2匹よ。あれはEランクの魔物だからファイヤーボールだけでは倒せない。でもあいつを倒さないと矢が当たらない。私の土魔法と、リリィの風魔法を飛ばすの。タイミングが肝心よ、いくわよ」


 サンディは土魔法の硬土弾を、リリィはウィンドカッターを発射した。それに合わせてリコの両手から、


「ダブルハリケーン」


 竜巻のような風が地面と水平に吹き、硬土弾とウィンドカッターを加速させた。硬土弾はブラックウルフの頭を打ち抜き、ウィンドカッターは首の半分を切ったところで消滅した。ブラックウルフ2匹は倒れた。


「よし、これで弓矢が当たる」


 サンディは矢を構えたが、その時カツヨリは痺れて動けなくなっていた。

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