第6話 アキールの町

 カツヨリは無意識に剣で魔法を跳ね返し盗賊の頭を拘束した。あれ、おいら何でこんな事出来るんだ?と考えながら意識は周囲を警戒している。残る盗賊は3人、その3人が同時に魔法を繰り出した。三方向から火の玉が飛んでくる。カツヨリは奪った剣を一閃し、火の玉を斬り裂いた。それを見た盗賊はこりゃ敵わんと馬車に中にいたリコに気づき、人質にした。


「剣を置け、さもないとこの娘の命はないぞ」


 リコって強いのかな?ステータスとかどうやって見るんだろ?狩りで逃げたって言ってたから弱いのかも?こんなザコくらい自分で何とかしてほしいものだよまったく。自分が規格外に強い事をまだ知らないカツヨリであった。


「おい、聞いているのか?」


「剣を置いたら、リコを離してどっかいってくれる?」


「いや、馬車ごといただく。この女は安全な場所まで移動できたら離してやるよ」


 そんなの信じる奴いないだろ。しかも盗賊の言うことだぜ。ん、リコから何やらアイコンタクト。うーん、わからん。リコはカツヨリに目で必死に訴えていた。


『私が何とか逃げるからその隙に得意の魔法を打って』


 カツヨリは目で答えた。


『何言ってるかわからんぞ』


 リコはカツヨリが理解したと勘違いした。リコからすれば小さい頃から一緒に遊んできた兄には伝わると信じ込んでいただけなのだが。


 リコは自分を捕まえている盗賊の足を思いっ切り踏みつけるとともに、風魔法で盗賊の顔に突風を仕掛けた。突風は風の初期魔法でその名の通りただの風だが、足を踏まれて痛い所に風が来たのでよろけてしまいリコを離してしまった。その隙にリコは盗賊から離れ、


「お兄ちゃん、今よ!」


 カツヨリは魔法ではなく、剣を振るい盗賊を殲滅した。リコを見て上手くいったとドヤ顔を向けたのだが、リコは呆れ顔で、


「お兄ちゃん。得意の風魔法はどうしたの?私の魔法の師匠でしょ?剣なんか持った事ないのに何であんなに上手なの?今までのお兄ちゃんなら魔法を使うはずよ」


 質問の嵐だった。そんな事言われてもなあ、身体が覚えてるのさ、剣を。本当は刀なんだろうけどね。女神様が剣神持ってるっていってたし。ん?得意の風魔法だって、そうか風か。風なら使えるんだよ俺。確かこんなふうにしてたよな?気合を入れて叫ぶ!


「ウィンドカッター」


 ………何も起きなかった。なんで!!!カツヨリが落ち込んでいるとリリィの拘束魔法が解けたようでカツヨリに抱きついてきた。


「ありがとうカツヨリ。本当に強いのね」


「リリィの魔法も凄かったよ。でも何で俺は魔法が使えないんだろう」


 リリィはカツヨリの腕を取って胸を押し付けてきた。おっと当たる当たる、鼻の下が伸びるぜ。目線は谷間にロックオンって別に見たいわけではないんだけど自然と目が谷間に向いてしまうのは男の性なので仕方がない。ゲッ、リコがジト目で睨んでいる。ゲンゾーは、


「助かった。さすがカツヨリだ。しかしさっきのは何だ?剣で魔法を跳ね返していたぞ。剣士というのはあんな事が出来るのか?」


「いえ、よくわからないのです。何となく身体が動いて。それよりお二人の魔法が解けたという事は」


 カツヨリが振り返ると盗賊の頭の魔法が解けたところだった。カツヨリが剣を向けると両手を上げて降参してきた。


「降参する。お前はなんなんだ、うちの盗賊団は冒険者崩れの集まりだ。それがこんなに簡単にやられるとは」


 カツヨリは馬車にあった縄で盗賊の頭を縛り、町へ向かった。


「ゲンゾーさん。盗賊はどうしたらいいですか?」


「アキールまで行けば警護団がいるから預けてしまおう。もしかしたら討伐依頼が出ているかもしれないぞ。それなら賞金が手に入る」


 賞金かあ、貰えるといいなあ。





 馬車は町についた。入り口で検問があり、盗賊に襲われて大勢倒した事、一人盗賊の頭らしき人を捕まえている事を説明すると警護団の事務所に連行された。


「お前か、盗賊を捕らえたのは。ギルドカードを見せてくれ」


 ギルドカードってよく異世界転生小説に出てくるやつか。そんな物持ってないぞ


「すいません。持ってません」


「冒険者ではないのか?ギルドに所属してなくてそんなに強いのか。ゲンゾー、こいつは何者だ?」


「ヤンギュー国から来たカツヨリだ。おっと、サリバンさん名前でそんなに驚くなよ。カツヨリは村の恩人なんだ。単独でシルバーウルフを倒したり、この盗賊もほとんど一人でやっつけた」


「本当か。だったらBランクじゃないのか?Bランク冒険者は名簿に乗るはずだがカツヨリなんてふざけた名前は聞いた事がないぞ」


「カツヨリの国、ヤンギュー国では勇者伝説がないそうだ。だからカツヨリと名付けても不思議はないさ。それにカツヨリは記憶を失ってるんだ」


 ゲンゾーと警護団のサリバンは知り合いのようだった。話はトントン拍子に進んでいき、


「ならギルドに行くといい。ギルドに登録すればギルドカードが貰えるし、身分証明書にもなる。リコも一緒にな」


 サリバンはカツヨリに紹介状を書いてくれた。リコも12歳なら冒険者として活動できるらしい。その時、


「サリバンさん。大変です。先程の盗賊ですが、国際盗賊団カイマックスです。捕らえられた盗賊が吐きました。しかもこの盗賊は元Cランク冒険者のザインでした。この少年が倒したのも元冒険者ばかりです。これだけの数を倒せるなんてBランク以上でないとあり得ません」


 ランクねえ。よくあるやつかな?

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