ホラーハウス
仲仁へび(旧:離久)
第1話
それは遊園地にあるアトラクションの一つだ。
私は、彼氏と共にアトラクションに挑戦している最中だった。
怖いのは嫌いじゃない。
むしろ大好物だ。
でも、挑戦しなければならない理由がある。
数日前、つきあってる彼氏の本音を聞いてしまったのがその原因。
「可愛げのない女」
彼氏は私のいない所で、そう言っていた。
だから、今日は女性らしい所をうんと見せてあげなければならない。
怖いものに驚く女子。
何て女の子らしいんだろう。
きっと、彼も私の事を可愛いと思ってくれるに違いない。
もしかしたら、そんな私を庇う頼もしい彼の姿も、ついでに見れてしまうかも。
だから私は、ひっしに怖がるフリをしながらホラーハウスの中を進んでいくのだ。
彼と腕を組みながら、びくびく震えるのも忘れない。
心細そうに彼の名前を呼ぶのもポイントだ。
保護欲を掻き立てる弱い女性。
男の人はそういう女性が好きらしいから。
「たっくん、私怖くてもう歩けない~」
「どうしたのなっちゃん? いつも夜道を怖がりもせずに歩いているのに」
それは三日前のデートの時の事だ。
過去の私。
なんて馬鹿な事を。
私は焦る。
「そっ、それはいつもは慣れた道だからよ。ここは知らないところでしょっ?」
「う~ん、そういうものなのかな」
言い訳をしながら、不思議そうにしてる彼を必死に誤魔化す。
そこにちょうどよくお化けがやって来たので、私は「きゃーっ!」っと思いっきり叫んで抱きついた。
「大丈夫だよ。なっちゃん。なっちゃんにも怖い物があるんだね」
たっくんは優しく私に囁きながら、頭を撫でてくれる。
やった!
さっそく効果が出たわ。
その後も、ミイラやドラキュラぬりかべや一反木綿や、和・洋・国問わずよくわからないお化けがたくさんでてきた。
私はそのたびに、怖いフリをして彼を頼る。
彼は、いつもは穏やかなんだけど、今日は私を気遣ってくれるし頼もしい。
すべてが順調だった。
これで二人の将来は安泰。
大好きな人とこれからも一緒にいられるはず。
そう思った私は、出口の近くでダメ押しとばかりに、出て来た血まみれの男に驚く。
とてもリアルなお化け。
血まみれの包丁を持って、本当に人を呪い殺してきたみたい。
「いやーっ!」
叫んで腰を抜かして、もう動けないというフリ。
最初はうまくできなかったけど、いまでは滑らかに動けるようになったわ。
私の演技なかなかセンスがあるかも。
でも、相手のお化けの様子が変。
お化けはとても、演技とは思えない迫真の演技で怒りの表情を浮かべこちらに包丁を振り下ろしてきた。
「えっ?」
ザクッ。
いたいっ!
あれっ?
血が出てる。
何で?
「なっちゃん!」
頼もしい彼が私をでき寄せて、お姫様だっこしてくれた。
素敵! 夢みたい!
こんな時は、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になるはずなのに、何でだろう。
むしろ血の気が引いてきてる。
おかしいな。
「しっかりしてなっちゃん。ああ、神様! なっちゃんを助けてください。可愛げがないなんて影口叩いてごめんなさい! ちょっと男っぽくて、度胸もあるなっちゃんだけど、僕はそんな所も好きなんだ。不満なんて嘘なんだ。周りの人間に合わせただけなんだ」
ああ、なんだ。
そんな事だったのね。
全然心配する必要なかった。
破局の危機だなんて、嘘っぱち。
私達はずっと相思相愛よね。
もうっ、たっくんは仕方ないんだから。
でも良いよ。
許してあげる。
だから、このホラーハウスを出たら、何か温かい食べ物を奢ってね。
くっつきあって温めるってのはさすがに、明るい所じゃ恥ずかしいからダメ。
「いやだ! 目を開けてよなっちゃん!」
今の私、だって、こんなにも寒くて冷たいんだもの。
ホラーハウス 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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