入学式
「もうすぐフォニアムの街に到着しますよ」
御者のお姉さんがそう教えてくれる。
今は私が御者さんの横に座り、周囲の警戒をしている。
私達の馬車の前に、凄く綺麗な馬車と、剣を腰に下げた人達を乗せた馬が走っている。
後ろを振り返ると、後ろにも同じように豪華な馬車と、その馬車の護衛と思しき人達を乗せた馬。
私達の帆馬車とは、豪華さが雲泥の差。
護衛と思しき人の何人かは、こちらを警戒しているようだった。
「そういえば、もうそんな時期になるんですねー」
ぼそっと御者のお姉さんがそう呟いたのが聞こえて来た。
「そんな時期とは?」
「今向かっているフォニアムの街にはとても大きな学校、フォルティシモ学園と言うものがあるんです。もうすぐ入学式が始まるので、多くの貴族や豪商の子供がフォニアムの街に集まっているんですよ。今私達の前後を走っている馬車は、入学する子供か関係者が乗っているんでしょう」
事前に学校がある街だとは聞いていたけれど、わざわざ別の街の貴族が通う程大きな学校だとは思っていなかった。
学校や入学式と言った言葉に、胸が少しきゅっとなった。
本当なら私は今頃、幼馴染達と共に高校に通い、とっくに進級して後輩ができているはずだったのだ……。
「フラストハルン王国には、三大校と呼ばれている特に大きな学校がありまして。フォニアムの街にあるフォルティシモ学園、グローケインのピアニシモ学校、そして首都フラストハルンにあるフォルツァート総合学園の三つが三大校と呼ばれています」
「どんなことを教えているんですか?」
「それはもう様々ですよ。フォルティシモ学園には騎士科、魔導技術科など様々な科があり、自分の目指すものに合わせて学科を選ぶんです。と言っても、貴族の子供は大体が騎士科だそうです。豪商の子供は総合科や魔導技術科。次男以降や長女といった、後継ぎになれない子供が、騎士科以外を選ぶんだそうです」
「一般市民……平民って通ったりできるんですか?」
「一応通えることにはなっているそうですけど……。かなり難解な入学試験をクリアしないとダメなので、平民が入る余地はほぼほぼ無いそうですよ。何年かに一度は合格者がでるらしいですが。そもそも文字の読み書きができる平民自体が少ないんです。平民もちゃんと通えますよって言う建前としての部分が大きいんじゃないですかね?」
「なるほど……」
フォニアムの街に入り、宿を探す。
これと言って問題も無く、順調そのもの。
街を歩いていると、紺色のローブを身に纏った子達の歩いている姿をよく見かけた。
同じローブに鞄を下げ、楽しそうに何かを話している。
その姿を少し羨ましく思ってじっと見てしまった。
「瑪瑙いくよー!」
「あ、はーい!」
無事に宿もとれ、夕食まではまだ少し早い時間。
私達は冒険者ギルドへ向かう事に。
この近辺に出る魔物の種類や、最近の動向の確認など、情報収集は大事だからね。
冒険者ギルドの中へ入り、まずは常設依頼が貼られている掲示板を確認する。
「あ、この近辺って魔物がそんなにいないんだ。小動物とか薬草の採取がほとんどだ」
「ほんとだ」
「お! この街は初めてかい? 良かったら俺達がこの街を案内してやっても良いぜ? 先ずは食事でもどうかな?」
私達が掲示板を覗いていると、突然男性が連れだって私達に声をかけて来た。
「いえ、遠慮しておきます」
とりあえず、すぐにお断りする。
何と言うか、もうちょっと紳士的な態度をとれないものか……。
ハルルじゃなくてもすぐにわかる程度には、下心が見え見えな表情を全員が浮かべている。
「まあそう言わずに」
最初の一言で引き下がってくれればよかったのだけれど、どうやらそうはいかないようだった。
「この手のやり取りは久しぶりだから、油断していたわ……」
げんなりとした様子でルーリが言う。
このまま掲示板の前にいると他の人の迷惑になりかねないので、私達は受付の方へと移動をしようとすると、先回りするように男性達は移動し、私達の行く手を塞ぐ。
「どいてください」
リステルが声を低く威圧して言っても、
「おーこわ! まあそんなかっかしなくても!」
と、おちゃらけた様子で、取り合ってもらえなかった。
どうしたものかと困り果てていると、
「またあなた達ですか! いい加減女性冒険者に絡むのはやめてください!」
制服を着た女性の職員が、怒鳴り声をあげながらやって来た。
「またアンタかギルドマスターさんよー? 勘弁してくれよー」
「俺らは親切で言ってやってるんだぜ? 何も悪い事をしてないじゃないか」
ギルドマスターと呼ばれた女性職員に気を取られたらしく、声をかけてきた男性達はそろって私達から目を離した。
何か言い合っているのを無視して、私達は冒険者ギルドを出ようとすると、
「ちょっとちょっと! 無視してどこかへ行こうとするのって酷くない?」
流石に気付かれて、また足止めを食らってしまった。
「そのまま気づかずにおれば良かったものを……」
サフィーアが大きなため息をつく。
このまま男性達を無視して冒険者ギルドを出ることは可能だけれど、そうすると絶対についてくるだろう。
流石にそれは勘弁してほしい。
「別に女性に声をかけるなと言っているわけじゃありませんが、彼女達はどうみても嫌がっているではないですか! あんまりしつこいようだと、フォニアムでの冒険者活動をできなくしますが、よろしいですか?」
「でもさー! こんな可愛い子達、滅多にいないんだぜ?! お近づきになりたいって思うのが男の性ってもんだろー?」
「女の私に男の性を説かれても知ったこっちゃありません!」
「わかった! わかったってもう! しゃーない、行こうぜ」
「嬢ちゃん達すまんかったなー」
「もし気が向くようなことがあったら食事しようぜー」
「言った傍から! 次はありませんからね!」
『へーい』
私達に言い寄っていた男性達はギルドマスターに返事を返し、冒険者ギルドを出て行った。
「何だかあっさり終わっちゃった」
リステルが、ぽかんと口を開けて言う。
「いつもこれくらいで終わってくれればいいのに」
ハルルが口をへの字にしている。
「皆さん災難でしたね」
呆気にとられていた私達に、ギルドマスターの女性が話しかけて来た。
「あの人たちは何だったんですか?」
「少し前にフォニアムに流れて来た冒険者のパーティーで、どうにもフォニアムに根ついたらしく、あちこちで女性に声をかけて言い寄っているみたいなんです」
「取り締まったりはできないんですか?」
リステルが少し冷ややかな声で言う。
「あはははは……。お気持ちはお察しします。ですが、ああやってすぐに引き下がるんですよ。言い寄られて迷惑だったという報告は聞くんですが、無理やりどうのということはしないらしく、こうやって注意をする程度の事しかできないんです。あ、どうぞ受付の方までいらしてください」
何度かあんな風に言い寄られたことはあるけれど、確かにあんなにあっさり引き下がったのは珍しいほうだとは思う。
それはそうと、面倒臭い事には変わりはないので、嫌なものは嫌なんだけれど。
ギルドマスターさんに促され受付へ行き、冒険者カードを渡す。
どうやらギルドマスターさんが直々に、私達を担当してくれるようだった。
魔法陣に冒険者カードをかざして何かを確認したのか、ギルドマスターさんが私達の顔を驚いたように目を見開いて、何度も見返していた。
「証明書をお持ちですね?」
私は空間収納から、サーキスで貰った講師を務めた証明書を取り出してギルドマスターさんに渡す。
「何てタイミングなのかしら……。あのっ! 少しお時間良いですか?」
私達は顔を見合わせ、首を傾げるのだった。
「この暖かい陽気の中、今年度もフォルティシモ学園に新しい仲間が増えたことを、大変うれしく思う」
紺色のローブを身に纏い、私は今、フォルティシモ学園の講堂の中にいる。
ようやくこの日が来たことに、深く感慨を覚える。
学園長先生の話される言葉にしっかりと耳を傾け、新たな門出に拳を強く握り、より一層に意気込んだ。
厳かな入学式が終わり、指定された教室へ。
騎士科の教室のドアを開ける。
女の私を不躾な目で見てくる男達をよそ眼に、女の子二人が座っている席へと向かう。
隣の席に座るために、まずは挨拶。
「ご機嫌よう。
「これはご丁寧に。私はルーチル・ルバート・シルバール。お名前から察するに、シルフォン辺境伯の?」
「ええ、両親の反対を押し切って騎士科へ入学させていただきました。シルバールというと、ここのお隣の領の?」
「ええ、私の場合は両親に好きにして良いと言われてですけどね?」
「あら、それは羨ましい。あなたのお名前もお伺いしても?」
私はルーチルさんの隣に座り、左前の席に座っている女の子にも声をかけた。
「あー、私はアンバー……です。すみません、私は貴族ではなく、平民なのです……」
目を伏せ、申し訳なさそうに話すアンバーさん。
「あら、そうですか。ですが、私はそんな事を気にしませんよ。同じ騎士科に在籍しているというのは運命です! アンバーさん、私の事はヘリオと呼んでください」
「うえっ?! そんな恐れ多い事を!」
「ダメです! 敬語も駄目! 友達として仲良くなりましょう!」
「ヘリオドール嬢。私もヘリオと呼ばしていただいても?」
「――! ええ、勿論です!」
「嬉しいよヘリオ! 私の事はチルと呼んでくれると嬉しい。アンバーもよろしくね?」
「ええ?! 私も呼ぶこと確定ですか?!」
私とチルはアンバーさんに笑顔で手を伸ばす。
少し強引だけれど、折角年齢の近い女の子が二人もいるのだ。
是が非でも仲良くなっておきたい。
お父様とお母様の反対を押し切り、厳しい鍛錬を欠かさず行い、念願の騎士科への合格を勝ち取った。
騎士科は男性しかいないと聞いていたのだけれど、それを覚悟のうえで入学を決めたのだ。
まさか二人も女の子がいるとは思ってもいなかった。
私、ヘリオドール・リステッソ・シルフォンは、シルフォン辺境伯家の三番目の子供として生まれた。
上には兄が二人いる。
私は自分で言うのもなんだけれど、かなりのおてんば娘だった。
素晴らしい剣の腕と言われている長兄に、小さなころから木剣を振り回してじゃれていたほどだ。
「お前が男だったら、絶対俺より強くなってたはずなのにな……」
「僕、ヘリオに喧嘩で勝てないよ……」
二人の兄にそう言われたことで、私は真剣に剣の道で生きることを考え始めた。
嫌いだった礼儀作法なんかも頑張れるようになった。
お父様とお母様は、ようやく私が大人しくなったと勘違いしていたようだけれど。
行く末は、王国最強の騎士団に配属されることを夢見た。
そんなある日、ついこの間の事だ。
兄達に連れられて劇場へと足を運んだ私は、信じられない物を見た。
少女四人が厄災と呼ばれる魔物、
舞台の内容に感激していた私に、兄がさらに信じられない事を言った。
「この風竜殺しの四英雄と言うのは、ハルモニカ王国で起こった本当の事をモデルとした話なんだそうだよ」
「――っ!! では、
「そう、実在するんだ。そうそう、これはあくまで吟遊詩人から聞いた話だけれど、叙勲の際、天覧試合が開かれて、王国騎士団三番隊の一番強い人たちと戦って圧勝したという話しさ」
私はその話を聞いた瞬間、涙を流して打ち震えた。
それと同時に、今まで以上に剣の道で生きると言うことを、強く想うようになったのだ。
教室のドアが勢いよく開かれ、灰色の短髪で、髪と同じ色の口ひげを貯えた逞しい体つきの初老の男性が入ってくる。
「私語は止めろ。さっそく講義を始める……と、言いたいところだが、まだ初日だ。各々自己紹介をしてもらおうか。ああ、それと、五人が遅れてやってくる」
入学初日に五人も遅刻している事に、教室は騒然とする。
ふざけた奴もいたもんだ。
騎士科を何だと思っているのだ!
どうせ大したこと無い奴らだ。
放っておけばいい。
「黙れ。何か勘違いをしているようだが、その五人は学園長に呼び出しを受けて遅れているんだ。正当な理由があっての事だ」
学園長からの直々の呼び出しという言葉に、騒がしかった教室は一瞬で静かになる。
「さて、まずは俺から。俺はホリングワース。お前達の面倒を見ることになった。実技がメインだが、座学の方も少しは教えることになる。容赦はしないから、励めよ。じゃあ左端のお前から、順番に自己紹介をしていけ」
順に自己紹介をしている最中だった。
コンコンと教室の扉をノックする音が響く。
「入れ」
ホリングワース先生がそう言うと、扉が開き五人の女生徒が入って来た。
「お疲れさん。丁度今自己紹介をしている最中だ。右端の席に座って順番を待て」
その五人の容姿に私は目を奪われた。
透き通るような長い銀髪に赤い瞳の少女、深い青色の髪にくりっとした瞳の少女、黒に近い赤茶色をした髪を高い位置で結っている少女、淡いクリーム色の髪に眠たげな表情が印象的な小さな少女に、宝石のように煌めく水色の髪をした幼くも貫録を感じさせる佇まいの少女。
同性の私でも、見惚れてしまうほどに可憐で美しかった。
一通り自己紹介が終わると、
「今年は騎士科に女生徒が八人もいるが、男と扱いは同じだからな。覚悟しておけよ」
ホリングワース先生は私達女生徒の方を向き、厳しい言葉を放つ。
『はい!』
元より厳しい事を覚悟のうえで騎士科を選択したんだ。
そんな事で一々怯むような私ではない。
それは他の女生徒も一緒だったようで、しっかりと意気込みを感じる返事を返していた。
「では、グラウンドへ行くぞ」
教室を出て廊下を歩いていると、
「騎士科には女はいないって聞いていたのに、今年は八人もいるんだね」
チルが嬉しそうに話しかけて来た。
「ほんと、驚きよね。やっぱり風竜殺しの英雄の話があったからかしら?」
「あ、ヘリオもそう思う? やっぱり憧れるわよね」
「お二人もやはりそのお話の少女達に憧れてですか?」
少し控えめにアンバーも話に加わる。
「アンバー、敬語はだめっていったじゃない」
「ええっと、ホントに良いの? 後で不敬だとか言って処刑しない?」
「……私を何だと思ってるのよ。そんなことできるわけないじゃない。これから生活を同じくするんだから、仲良くなりたいと思うのが必然だと思うのだけど?」
「私もヘリオと同じだよ」
「わかった。改めてよろしくね?」
私達は三人は、こうしてすぐに仲良くなることが出来た。
後を歩く五人組はもう既に仲良くなっているのか、楽しそうにしていた。
この五人とも、仲良くなっていきたいものだ。
後ろを振り返り、思い切って声をかける。
「ねえ、あなた達」
声をかけた私を、キョトンとしてみている五人。
「せっかくこうして出会えたのだから、あなた達とも仲良くしたいわ」
そう言って手を伸ばす。
一瞬複雑そうな表情を見せたかと思ったけど、
「よろしく!」
「こちらこそ、お願いするわ」
「よろしくね?」
「ん!」
「よろしく頼むのじゃ」
すぐに笑顔で答えてくれた。
「――!」
そのあまりにも素敵な笑顔に、思わず私はドキッとしてしまうのだった。
グラウンドへ到着すると、
「まずはそこにある武器をとって来い。長棒、短棒、木剣、扱ったことがある物を選べ。もちろん盾もある」
ホリングワース先生が、物置を指差した。
物置の中には、様々な木造武器が立てかけられていた。
私は両手持ちできる木剣を選ぶ。
長さも重さも、普段から訓練に使っている木剣と似ていて、良く手になじむ。
「私としては、もう少し長くて重いものがいいんだけどな」
チルは長棒を構え、くるくると回している。
その様子からは、普段から扱いなれている事が見て取れた。
アンバーは盾と、一番オーソドックスな片手持ちの剣を持っている。
各々が武器を選び、軽く準備運動を始める中、男子生徒の一部がふざけてじゃれ合っている。
どうにも、あの五人の事を意識しているようだった。
まあ確かに素敵な女の子達なので、恰好を付けたいという気持ちはわからなくもない。
ただ、私達三人も負けていないはずなのに、こちらはあまり意識されていないのには、些か不満に思う。
「ちっ、はしゃいでからに。おい、お前!」
ホリングワース先生が、はしゃいでいる男子生徒の一人を指差して、
「そんなに元気が有り余っているなら、いっちょ模擬戦でもしてみるか。さて、相手は……」
そんな事を言い出した。
そして、ホリングワース先生が五人の方をチラッと見ると、
「いや、流石にな……」
苦々し気に首を横に振り、
「よし、俺が相手をしてやろう」
と、武器を構える。
どうして彼女達を相手として選ばなかったのだろう?
……もしかして先生は、彼女達に気を使っているのだろうか?
また少し不満が湧く。
「先生! 模擬戦の相手を私がしてはダメですか?」
手を挙げて、思わず言ってしまった。
「構わんが、痛い思いをしても知らんぞ?」
その一言に、少し腹が立った。
「男と同じ扱いだからな」と言っていたくせに、結局は女として見られ、気を使われている。
実家にいた時もそう言う事が幾度もあった。
それがどれだけ屈辱的なことかなんて、された方にしかわからないだろう。
「望むところです! 私は騎士になるためにここに来ました!」
「ほう、良い目をする。理解しているのなら構わん」
「え? 本気でやるんですか? 女相手に?」
ホリングワース先生の言葉に動揺している男子。
「問題ない、やれ。ここで負けたらお前も恰好がつかんな?」
「――っ! あんた、くっそ腹立つことを言うよな!」
男子は私と同じ木剣を構えると、
「泣いても知らねーからな!」
と、私に啖呵を切った。
「望むところよ!」
私も武器を構える。
「始め!」
先生の合図と共に一気に駆け出す。
「早っ?!」
驚いている相手に、まずは斜めに木剣を叩きつけるが、あっさりと剣で受け止められてしまう。
私はタンっと一歩下がり、距離をとる。
距離を詰め、振り下ろされる木剣を横にステップを踏み躱す。
出来るだけ武器で受けないようにする。
悔しいが、女の私では男に力では勝てない。
攻撃をしっかりと躱し、攻撃を加える。
速さで翻弄する。
それを何度も繰り返す!
大丈夫。
お兄様や訓練をつけてくれた人たちに比べれば、今の相手はずっと弱い!
「せええええええい!」
攻撃をかわされ、体勢を立て直す前に入った一撃が、相手の剣を叩き落とした。
「それまで! 勝者ヘリオドール!」
おおおおおっ!
歓声が響き、チルとアンバーが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ヘリオ! 君は凄く強いんだね!」
「見事な戦いだった!」
「ありがとう二人とも!」
ちらっと五人組の方を見てみると、私に笑顔で拍手を送ってくれていた。
「ヘリオドール。お前、戦い慣れてるな?」
ホリングワース先生が私の下まで来た。
「実家でずっと訓練をしてきましたから」
「実戦形式でか?」
「はい」
「お前は女の弱点を良くわかっているな。中々いい試合だった。これからしっかり励めよ」
「ありがとうございます!」
「お前ら、今のを見て気合が入っただろう! 女だからと言って、油断していると痛目に遭うぞ!」
『はい!』
ほとんどの生徒たちが姿勢を正し、気合を入れ直している中、不服そうにしている生徒もちらほらいた。
私は、自身がちゃんと強くなれていた事に胸が熱くなった。
強くなっているという確信と、何もかもが順調な始まりに、私の胸は期待でいっぱいになるのだった。
この時の私は、自分があんな大きな事件に巻き込まれることになるとは、思ってもいなかった……。
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