宿場町

「……」


 頭上を遮るものが無い夜空の下、私達を照らす焚き火の音だけがパチパチと響いている。


「……だから、私達はお嬢様を全力で支援することを決めたんです」


 少し間をおいてから、コルトさんはそう話した。


「できればずっと傍にいて、せめて一緒に旅をできればと思っていました。ですが、それは叶いませんでした。クオーラ様に止められてしまったんです」


「クリスちゃん自身が望んで家を出たとしても、やっぱり王族だからねー。捜索しないわけにはいかなかったのよねー」


「本当は捜索隊が編成される予定だったんだ。それをクオーラ様が、無理やり私達だけで捜索することを押し通したんだ。事情を知っている連中が多かったせいもあったのか、あっさりとクオーラ様の案は通ったんだがな」


 少し気分が落ち着いたのか、苦笑を浮かべつつ三人は話す。


「フルールでお嬢様と再会したあの時から、私達にとってとても幸せな日々が続きました。……その、メノウのことは色々ありましたが……」


 少しばつが悪そうに、私を見て話すコルトさん。


「もう気にしてませんから、そんな顔しないでください」


「ありがとうございます、メノウ」


「最初コルトは、メノウとルーリに嫉妬もしていたんだぞ? 一人でいることを選んだリステル様が、二人と過ごすためにフルールに根つくことを決めたことにえらく驚いていたんだ」


「ちょっ!! シルヴァ!!」


 シルヴァさんの密告に、コルトさんは慌てて声を上げる。


「えっ、そうだったのコルト?」


「いやっあのっ! えっと、その……ハイ……」


 コルトさんはの声は徐々に小さくなっていった。


 灯りが焚き火しかないから顔色はわからないけど、きっとコルトさんの顔は真っ赤だと思う。

 さっきまでのしんみりとした空気はどこへいったのやら。


「そういうシルヴァちゃんも嫉妬してたでしょー?」


「ん? しないわけないだろう?」


 カルハさんのちょっかいに動じる事もなく、シルヴァさんはさらりと肯定する。

 コルトさんはあんなに動揺しているのに、この反応の違いには流石におかしくなってしまう。


「すぐに嫉妬なんてしなくなったがな。確かにメノウの事で色々画策はしていたが、結局そんな必要なんてないとわかったし、リステル様が二人を気に入った理由も良くわかったからな」


「そうねー。メノウちゃんにルーリちゃん、それにハルルちゃんも凄く良い子だものねー」


「そう言うカルハはどうだったの?」


 リステルがカルハさんを見て首を傾げる。

 ちょーっと悪い顔してる気がするのは、たぶん気のせいじゃないと思う。


「私は嫉妬なんてしなかったわよー? リステルちゃんが一人じゃなくなったのは素直に嬉しかったものー」


「そうなんだ……。自分で聞いておいてなんだけど、ちょっと照れるね」


「メノウが優しい子だと言うのもすぐにわかりましたよ。ただそれと同時に、戦う事には向いてないこともわかったので、心配になりました」


「だな。それでも努力をしている姿には感心したよ」


「メノウちゃんもルーリちゃんもハルルちゃんもー、私達にとってはもう可愛い弟子だと思ってるのよー」


 そう言って、私の隣に座っているカルハさんは優しく私の頭を撫でる。


「……だから、だからもう失いたくなんてないんです。お嬢様だけじゃなくて、メノウも! いなくなるなんて……嫌なんです……」


 コルトさんが消え入りそうな声で言ったと思ったら、大きく深呼吸をして……。


 パチン!!


 思い切り自分の頬を両手で叩いた。


「ごめんなさいメノウ。酷く自分勝手なことを言ってしまいました。メノウの事を想えば、こんな事を口になんて出してはいけないはずなんですが……。いよいよ旅が始まって、少し寂しくなってしまいました」


「いえ、皆さんが私の事もそんなに大切に思ってくれていたなんて、嬉しいです」


「まったくもー。コルトちゃんはちょこちょこ余計なことを言うんだからー」


「いやっ、そう思ってたのは二人も一緒じゃないですか!」


「それは確かにそうだが、コルトが言い出さなければ、私は口に出すつもりなんて全くなかったぞ」


「コルトちゃんは寂しがり屋だからねー」


「……ごめんなさい」


 寂しそうな笑いを浮かべていたコルトさんは、二人からの追撃でしょんぼりとしてしまった。


「やれやれ。お前さん達が瑪瑙の事を大切に思っているのは十分にわかったのじゃ。わかったからこそ、言っておかねばならん事がある」


 軽くため息をついたサフィーアが、真剣な面持ちで話しを始める。


「旅をする理由なんじゃがな? 瑪瑙が元の世界に戻る方法を探す事は勿論なんじゃが、瑪瑙の心を守るためでもあるのじゃよ」


「心を守る?」


 サフィーアの言葉に、三人は同時に眉をひそめて私を見る。


「あ、その話はしていませんでしたね……」


「瑪瑙のことをこんなに大切に思ってくれているんだもの。ちゃんと話しておいた方がいいんじゃないかしら?」


 ルーリにそう言われて、少し考える。


 別に話す事は問題ないんだけれど、私自身、私の心の状態があまり良くないという事くらいしかわかっていない。

 どうして今の状態になっているのかとか、これからどうなっていくのかという事を、私は自分の事なのにちゃんとは理解していない。


「えっとですね。私の心の状態が良くないみたいなんです。徐々に悪くなっていっているのを、サフィーアからもらったペンダントと宝石魔法のおかげで辛うじて進行を抑えている状態なんです」


 私自身の事だから、ちゃんと私から伝える。

 多分説明不足でわかり辛いとは思うんだけど……。


 私の説明を聞いた三人はやっぱりわかってなさそうだったけど、良くない話だという事は伝わったようで、不安そうな顔をしている。


「心が壊れかかっておるのじゃよ。瑪瑙にとって相当ショックなことが多かったんじゃろうな。普通では考えられんような状態なのじゃ。そうじゃな、説明をしてもピンとは来ないじゃろう。実際に心の状態を見せた方が早いのう」


「心の状態を見せるって、そんな事ができるのか?」


「うむ。水の宝石魔法には、精神に干渉するものがいくつかあってのう。その中の一つに、レゾナンス・アクアマリンというものがある。これは、自らの精神を相手の精神に送り込むことが出来る宝石魔法なのじゃ。これを使って一度瑪瑙の心の状態を見ておる」


「では、今すぐに見せてもらっても良いですか?」


「すぐには見せれんぞ。レゾナンス・アクアマリンにかかっている者は意識を失うのじゃ」


「そうするとー、野宿をしている今は使わない方がいいわねー」


 話しはあれよあれよと進んでいき、宿場町の宿屋でコルトさん達に私の心の状態を見てもらう事になった。




「……ん~……」


 重く感じる瞼を開ける。

 開いた視線の先には、久しぶりに見る天井と蛍光灯。

 霞がかったような意識でぼんやりと考える。


 ここは私の心の中だ。


 あれから何事も無く宿場町へ到着した私達は、宿をすぐにとり、早々に私の心の状態を見るという事になった。


 全員で見るという話しになりかけたのだけれど、魔法の特性上私の体のどこかに触れていないといけない事と、その間完全に無防備になってしまうので、今回はコルトさん達三人だけが見ることになった。

 リステル達は念の為に見張りをしてくれている。


「瑪瑙、起きられるかのう?」


 サフィーアが私の顔を覗き込む。


「ん、大丈夫」


 私は一言そう言って、起き上がろうとする。

 タルフリーンの時もそうだったけれど、体が酷くだるい。

 まるで体が動くことを拒絶しているんじゃないかと思う程だ。


「辛そうじゃの。ほれ、手を」


「ごめんね。ありがとう」


 サフィーアの手を取り、引っ張り起こしてもらう。


「気にするでない。心の中ここじゃと精神の状態をまともに感じることになる。瑪瑙の今の状態はまともな状態ではない。動けなくても仕方がないのじゃ」


 体を起こすと、コルトさん達と視線が合った。


「ここがメノウの心の中なんですね」


 そう言って、何処か居心地が悪そうにしているコルトさんとシルヴァさん。


「……何で裸なんだ……」


 シルヴァさんが小さな声で言う。


 あー……。

 そう言えばそうだった。

 視線を下に向けると、見事に私も生まれたままの姿。

 私の場合は、左胸を中心にひびみたいなのが体に広がっているんだけど。


 ……ってあれ?


「私の体、青く光ってる??」


 以前はこんなことにはなってなかったはず。

 私の体から、はっきりとわかるくらいの深い青色の光が出ていた。


「安心せい。それはカーム・アイオライトの影響じゃ」


 私の肩に手を乗せてそう言うサフィーアさんは、相変わらず全裸なのを全く気にしていないご様子。


 カーム・アイオライトは、私の心にかかる負担から私を守ってくれる宝石魔法。

 ただ、強すぎるショックからは守り切れないようで、何度か魔法の効果が消失してしまう事があった。


「さて、話を始めるが良いかのう?」


 サフィーアの言葉に、少し落ち着きがなかったコルトさんとシルヴァさんも、真剣な表情でサフィーアを見る。


 カルハさんはさっきからずっと私の体を見ているんだけど、その表情は苦虫を噛み潰したようだった。


「瑪瑙よ、手をどけて体を見せてやってくれるかのう?」


「……うん」


 私はベッドから立ち上がり、全身をコルトさん達に見せる。


「……これがメノウちゃんの心の状態なのねー?」


 私の隣に来たカルハさんは、辛そうな表情でひびの走った私の腕を優しく撫でる。


「そうじゃ。普通は癒えていくんじゃがな。瑪瑙のこれはまったく癒えておらん。今でこそ魔法とペンダントの効果で抑えておるが、それがなかったら徐々に広がっておるじゃろうな」


「どうしてここまで悪くなっているんですか?」


 コルトさんも心配そうに私を見る。


「考えても見るのじゃ。知らない世界に突然放り出されて一人きり。それだけでもどれだけ不安になるか。聞けば瑪瑙のいた世界には、魔物という存在すらいなかった平和な世界だという。妾達には想像することしかできんが、心の負担は相当大きいじゃろうて。挙句に、元の世界に戻る方法は見つかるかどうかもわからんと来た。察するに余りあるのじゃ……」


「……」


 サフィーアの言葉に、三人は黙り込んでしまった。


「コルトは瑪瑙に旅を諦めるようにと言っておったがのう。お前さん達はリステルの事を諦めて城に戻れと言われたら、すぐに諦めることができるかのう? 諦めたとして、その後後悔や思い煩う事は一切ないかのう?」


「それは……」


「できんじゃろう?」


「……はい」


「瑪瑙も同じじゃよ。諦めたが最後、瑪瑙の心の状態は一気に悪化するじゃろう。それで心が壊れてしまわんでも、思い煩う事でやがては……な」


「何とかできないのか?! 治癒の方法は?」


 シルヴァさんが縋り付くように、サフィーアに聞く。


「わからん。これほどまでに悪化した者は見たことがない。それに加え、瑪瑙がこの世界の人間ではないという事が、事の悪さに拍車をかけておる」


「……メノウちゃん、本当にごめんなさい。何も知らずに好き勝手言ってしまったわ。こんなことになっていたなんて……」


 そう言って、カルハさんは私をきつく抱きしめた。

 いつもののほほんとした口調ではなく、本当に辛そうに話していた。


「話してなかったので、カルハさん達が知らなくて当たり前なんです。だから気にしないでください」


 ぼーっとして重だるい頭を必死に動かして言葉を選ぶ。


「メノウちゃん、何だか調子が悪そうなんだけど大丈夫ー?」


「ちょっと体が重い感じがするんですけど、大丈夫です」


「普通であれば、その調子の悪さは現実の体でも感じているはずなのじゃよ。じゃが瑪瑙はそれを感じておらん。無意識にそうならんように相当無理をしておるのじゃろう」


「そうなんですね。サフィーア、私達がメノウにできる事って何かありますか?」


「そうじゃのう。コルト達には辛いことかもしれんが、元の世界に帰ることが出来るように、祈って応援してやってほしい。瑪瑙が前向きに頑張れるようにな」


「そうですか……わかりました」


 コルトさんは頷くと、何やらもじもじしだした。


「くっ! こんなことで恥ずかしがってる場合じゃないんです!」


 そう言うや勢いよく立ち上がって、私を正面から抱きしめた。


「無理をさせてしまった私が言えた義理ではないのですが、メノウ、どうか無理だけはしないでくださいね」


「ありがとうございます、コルトさん」


 私もコルトさんを抱きしめ返すのだった。


「ううっ。やっぱり裸で抱き合うのは恥ずかしすぎますね……」


「そう言えば、サフィーアは慣れているんだろうが、カルハも堂々としているよな? 恥ずかしくないのか?」


 シルヴァさんは、私の横に立っているサフィーアとカルハさんを交互に見る。


「私はー、食事の準備でメノウちゃんと良くシャワーを一緒に浴びてたから、メノウちゃんの裸は見慣れているわよー? それに女同士だものー、見られても問題ないわー」


 腰に手を当てて、惜しげもなく堂々と姿態を晒しているカルハさん。

 うーん目のやり場に困る。


 確かに食事の準備をするのは私とカルハさんだったから、一番最初に二人でシャワーをよく浴びてはいたんだけど、心の中の風景とは言え、ここは浴室じゃなくて私の部屋。

 場所が場所なだけに、流石に私は恥ずかしい。


「それにしても、この部屋を見回すだけで、住んでる世界が違うという事を思い知らされますね」


「あははは……。リステル達もおんなじ事を言っていました」


 そこからは、私の部屋にある物の説明を迫られた。

 わかる範囲で説明しつつ、私はちらりと窓の外を見る。


 私の心の中の空は相変わらず、不気味な七色の空だった。


「サフィーア。今回は幼馴染は来てるのかな?」


 ふと、以前の事を思い出して聞いてみる。


「いや、今回はおそらく来てないじゃろう」


「わかるの?」


「何となくじゃがな。魔法を解除したらはっきりするじゃろう」


「そっかー」


「会いたかったかのう?」


「もちろんだよ。でも、帰る方法が見つかってないから、不安にさせるだけかなーって」


「気にしすぎじゃ。また今度会えそうな時は前もって教えるから、思い切って会ってみるがいいじゃろう」


「うん。ありがとうサフィーア」


「かまわんよ。これくらいの事しかしてやれんからのう」


「十分だよ。サフィーアには感謝してる。もちろん、他のみんなにも」


「うむ。さて、そろそろ戻るとするのじゃ。ハルルがふくれっ面をしておるかもしれんからな!」


 サフィーアの一言に、私の部屋を興味深そうに物色していた三人も、笑顔を浮かべて頷いた。




「瑪瑙お姉ちゃん起きたー!」


 ハルルの嬉しそうな声と共に目を開ける。


「おはよう瑪瑙。コルト達とちゃんと話せた?」


「うん。ちゃんと話したよ」


 私の顔を覗き込むリステルと、


「体の方は大丈夫だった?」


 少し心配そうな表情で覗き込んでいるルーリ。


「大丈夫だったけど、体が青色に光ってたよ」


「……何それ? 大丈夫なの?」


「サフィーアの魔法だって」


「あーなるほど。ってもう! びっくりさせないでよ!」


 心配そうな顔から一転、ほっとしたような笑顔を浮かべて私の頬をつねる。


「ごめーん」


 体を起こそうにも、私に覆いかぶさるようにサフィーアがいて、広げた両腕にはコルトさん達が頭を乗せているせいで、身動きができない。

 どうしたものかと考えていると、


「うーん……。何とも不思議な体験でした」


「まったくだ。あんなにも住んでいる世界に違いがあるなんてな……。少し軽く考えすぎていた」


「それは私も同じねー。世界が違っても、そんなに大きな差なんてないんじゃないかって、そんな事を頭の片隅で考えていたものー。メノウちゃんごめんねー?」


 そう話しながら、三人は同時に体を起こした。


「いえ、仕方ない事だと思います。私だって、逆の立場だったらおんなじように考えてたと思います」


 少し痺れる手をぐーぱーと、開いて閉じてを繰り返し、まだ私の上から起き上がらないサフィーアを抱き抱えるようにして起き上がろうとしたら、


「すまんすまん。瑪瑙よ、もうちょっと横になっているのじゃ。ついでに魔法もかけ直しておく」


 と言って、サフィーアは私のお腹の上に座るようにして起き上がり、私をベットに押さえつけた。


「サフィーア大丈夫? 前みたいに魔力を消耗してるんじゃない?」


 そんなサフィーアにルーリが声をかける。


「いや、今回は大丈夫じゃった」


 上半身裸の私の左胸に、サフィーアは小さな右手をふにっと置く。

 そして、青い光がサフィーアの手を包み込み、それと同時に、じんわりと優しい暖かさが、私の左胸から全身に広がっていく。


「よし、完了じゃ」


「いつもありがとうサフィーア」


「うむ」


 そう言って、私とサフィーアは身なりを整える。


「もう何かすることが無いんだったら、どこか食べに行こう? 流石にお腹すいちゃった」


「いこー」


 リステルとハルルが、お腹をさすりながら言う。


「もうそんな時間ですか。結構な時間メノウの心の中にいたんですね」


 そう言うわけで、私達は宿を出て宿場町へと繰り出すことになった。



 宿場町と言うものは各地に沢山あるものの、似た部分があったとしても、全く同じ町はない。

 街から街へと移動する人たちが休息を取るところ、それが宿場町。

 なので、近くにある街の影響を大きく受ける。

 似た部分の一つを上げるとすれば、通りに面した場所にある施設から、奥に行くほど利用料が高くなり、最奥には貴族とかのお金持ちが、休息をとるためのお屋敷みたいな建物があること。

 私達が、首都ハルモニカへ行くときに泊まったのも一番奥にある建物だ。


 私達がいる宿場町は、恵みの街フルールの近くにあるだけあって、今のような夕飯時になると、食事をするために町を歩く人達でかなり賑やかになる。

 フルールへ向かう者とフルールから来た者とで、そこかしこから活気の良さが伝わってくる。

 恵みの街が近いだけあって食べ物も豊富で、小さな屋台だけじゃなく、食事処も多い。

 聞いたところによると、早朝には市も開かれるそうだ。

 残りの旅程を考えて、みんなで話し合って、明日の早朝は市に行くことに決まった。


 安宿には食堂はないらしいんだけど、そこそこの宿屋になってくると、自前で食堂を持っている宿も増えてくる。

 私達の取った宿は、一番奥から一つ手前あたりにあるかなりお高いらしいお宿。

 なので、食堂もあるんだけど、初めて宿場町を自由に歩くんだからという事で、どこかお店に入ることにした。

 お金があまりない人たちや、節約したい人たちのために、少し離れた所に自炊ができる広場なんかもあったりするらしいんだけど、今回は外食です。


 私達は、人がそれなりに入っていても、割と静かめなお店に入ることにした。


 人が多くて賑やかなほうが良いんじゃないかって思ったんだけど、そう言うお店は酒場になっている所がほとんどらしく、女性だけで入るのはあまりおすすめしないと、コルトさん達が言っていた。


 私は、肉のパイ包み焼きとキャベツのスープを頼んだ。


 なお、ハルルちゃんはと言うと……。


「全部」


「お嬢ちゃん? 全部ってこのメニュー全部って事かい?!」


「ん! ハルル全部食べる」


「あのー……」


 フンスフンスと鼻息を荒くしているハルルちゃんと、困った顔で私達を見る店員さん。


「あー、この子は魔力まりょく纏繞症てんじょうしょうなんです。だから言葉通り全部食べられるので、すみませんが用意していただけると嬉しいです。料金もちゃんと支払えますので、安心してください」


「ほー。魔力まりょく纏繞症てんじょうしょうっていうのは聞いたことはあるけど、それに患っている子は初めて見たわねー。わかったわ! いっぱい作ってくるから、お腹いっぱい食べてね!」


 コルトさんの説明に納得が言ったのか、店員のお姉さんはまかせて! と言わんばかりに、胸を叩いて、奥へと戻っていった。


 出された料理はどれも薄味っぽく感じはしたけれど、とても美味しく満足のいく食事になった。

 香辛料の類が非常に高価なこの世界で、香辛料の使用を抑えつつ、素材の味を活かすように調理されていた。


「ホントに全部食べちゃったわねー。良い食べっぷりに、厨房の皆が凄く嬉しそうにしていたわ」


「美味しかった! ありがとー」


「こちらこそ、美味しそうに食べてくれてありがとうねー」


 支払いを済ませて私達は外に出る。


「中々美味しいお店だったねー」


 私がそう言うと、


「確かに美味しいお店だったわね。だけど、瑪瑙の料理を食べ慣れているせいか、ちょっと味付けが物足りなく感じたわ」


「あー、私もそう思った」


「瑪瑙が前に、この世界の料理は味が薄味だと言っておった意味が良くわかったのじゃ」


「でもメノウちゃんの料理は別に味が濃いってわけじゃないのよねー。味にしっかりメリハリがあって、食材の味って言うのがしっかりわかるのよねー。後はしっかり味が浸みていたり、お肉もびっくりするぐらい柔らかくなってたりー。今回の食事ではっきり違いがわかったわー」


「瑪瑙お姉ちゃんの料理が一番!」


 嬉しそうに私に飛びついてくるハルルを受け止め、頭をなでなでする。


「そう言って貰えると、嬉しいよ。ありがとう」


 こうして、宿場町での一夜も無事に過ぎて行ったのであった。


「明日の早朝は市に顔を出して、食材の調達しようねー」


「おー!」


「瑪瑙お姉ちゃんの料理早く食べたーい」

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