はじめての護衛依頼
今回はセレンさんを連れて、東の草原に行くことになった。
私やルーリ、サフィーアにとっては初の護衛依頼となるので、今からかなり緊張している。
「それじゃー、草原に入る前に基本的なことから教えていくからー、しっかり覚えておいてちょうだいねー?」
東門を出て少し歩いた辺りで、カルハさんがのほほーんと話しだす。
「はい!」
つい声が大きくなっちゃった……。
「程々の緊張感は大切だけど―、硬くなりすぎるのも問題よー? メノウちゃーん」
クスクスと笑うカルハさん。
言っている事はわかるのだけれど、人の命を預かるという事の重大さを考えると、気楽になんてしていられないですよ……。
「まずは五人のポジションねー。リステルちゃんとハルルちゃんは、必ず先頭と後方のどちらかになるわねー、私としては―、リステルちゃんが先頭、ハルルちゃんが後方がいいと思うわー」
「りょうかーい」
「ん」
二人が返事をして、セレンさんの前方と後方に並ぶ。
「二人は気配に敏感だからねー、警戒をしながら進むことが役目よー。何かが襲ってきた時はー、すぐに声掛け、場合によっては先制攻撃ねー」
まぁ私が先頭を歩いていたとして、大きな足音を立てる魔物ぐらいしか接近に気づけないから、これは当然の采配だろう。
「次にメノウとルーリだが、護衛対象の左右を固める事。攻守の両方を担う事になるから、気を引き締めるように!」
シルヴァさんに名前を呼ばれてビクっとする私とルーリ。
「「はっはい!」」
言葉の詰まり方も全く一緒に、ルーリと返事をする。
ルーリの顔を見ると、唇をキュッと引き締め、私でもわかるくらいには、肩に力が入っていそうだった。
私と一緒で、ルーリも護衛依頼は初めてだって言ってたもんね。
やっぱり緊張するよね!
「瑪瑙、頑張りましょうね」
「うん! がんばろ!」
そう言って、手を取り頷きあって、私とルーリはセレンさんの左右に就く。
「さて、最後にサフィーアですが、護衛対象、今回はセレンですが、その傍にしっかりといてください。あなたが担う主な役目は防御。落ち着いて状況を見極めることが大切です。場合によっては、援護もできるようになっておきましょう」
コルトさんがそう言うと、
「ふむ、中々難しそうじゃのう。よろしく頼むぞセレン」
「はい、よろしくお願いします。サフィーアさん」
そう言ってサフィーアは、セレンさんのすぐ右隣を歩く。
「さてー。みんなに問題でーす」
先頭を歩いていたカルハさんが振り返り、急にそんなことを言い出した。
何だかノリノリで楽しそう。
「護衛依頼に限った話ではありませんがー、旅の道中でー、一番気をつけなければいけないものは何だと思いますかー? リステルちゃんとハルルちゃんはわかると思うからー、他の子が答えて欲しいわー。メノウちゃん、何かわかるかしら―?」
ビシッと私に指を差すカルハさん。
「んーっと。魔物の接近に気づけなくて、魔物に突然襲われることですか?」
今までリステルやハルル、カルハさん達がすぐに気付いてくれているおかげで、突然襲われるという事態には陥ったことがない。
でももし、横から急に魔物が現れると、咄嗟に反応できるか自信がない。
「……あーそうねー、メノウちゃんはそうなっちゃうわよねー」
困ったと言うような顔で私を見るカルハさん。
ん? 何か間違ったことを言ったかな?
「ルーリちゃんとサフィーアちゃんはわかるかしらー?」
「ふむ、人間の攻撃じゃな?」
サフィーアがさらりと言ってのける。
「もっと言えば、弓矢と魔法とかの遠距離攻撃ですよね? カルハさん」
サフィーアの言葉に補足を入れるように続けるルーリ。
「正解よー」
そう言って、グッと親指を立てるカルハさん。
「一番気をつけなければいけないのは弓での攻撃よー。そうねー、このメンバーと一緒にいるとー、魔法も脅威だと思っちゃうだろうけどー、正直ここまで質の良い魔法使いが複数いるのはほとんど無いと思っていいわー。そもそも魔法使い自体の数が少ない事とー、そこからさらに無詠唱で魔法が使える人間となるともっと少なくなるわー」
人からの攻撃が一番の脅威と言う言葉に、私は少し動揺する。
「あのっ! 人の方が危険なんですか?」
思わず言葉に出してしまう。
「そうねー。今回の依頼みたいにー、魔物のテリトリーがあるってわかっている場所に行く場合はー、確かに魔物も危険ねー」
そこで言葉を一度切るカルハさん。
少し間をおいて、
「でもねー? コルトちゃんにも言われていなかったかしら―? 人間の方が魔物よりずっと厄介だってー。それにメノウちゃん? あなたー、何度か危険な目にも合ってるはずよねー?」
……確かにコルトさんにも人間の方が厄介だと言われたことがある。
コルトさん達に会う前にも、色々あった。
「メノウちゃーん」
「ふぎゅっ!」
さっきまで先頭を歩いていたカルハさんが、いつの間にやら私のすぐそばまで近づいていて、ぎゅっと抱きしめられてしまった。
ついでに頭もなでなでされている。
「メノウちゃんの人を疑う事がない性格はー、美徳だと思うんだけどねー。でーもー、ちょっとその性格は危ういわー。善人ばかりじゃないのはー、メノウちゃんももうわかっているでしょー?」
「……はい、それは……嫌と言う程……」
カルハさんの腕の中でもごもごと喋る。
「割り切ることも、大切よ?」
そう言うカルハさんの声は、いつもののほほーんとした口調ではなく、少し低く、真剣な声だった。
普段見せないような真剣な雰囲気に、私は思わず息をのんだ。
「……はい」
何とか返事を絞り出すと、私の頭をポンポンと叩いて、カルハさんは先頭に戻っていく。
戻った瞬間に、リステルがカルハさんのお尻をスパーンッ! と叩いた。
結構いい音がしたけど大丈夫かな?
「っいったー! ちょっとリステルちゃん何するの―!」
お尻をさすりながら抗議するカルハさん。
「もうカルハ! 今から瑪瑙を緊張させてどうするのよ! ようやく調子を取り戻してきたところなのに!」
プリプリと起こっているリステル。
「あーのーねー? そもそも教えなきゃいけないことをー、ちゃんと教えてないリステルちゃんが悪いんでしょー!」
そう言って、リステルの頬をむにーっと両サイドから引っ張り上げるカルハさん。
「いひゃいいひゃい!」
「まったくもー」
ため息を一つつくと、手を離すカルハさん。
開放されたリステルは、頬をさすりながら、
「……瑪瑙には必要がないから教えてないの!」
少し赤くなった頬を膨らませて言う。
「……リステルちゃん、避けては通れない事よー? 突然その状況に陥るよりー、前もって覚悟をさせておいた方がー、危険は少ないのよー?」
少し責めるような口調でカルハさんがリステルに言っている。
私には必要が無いって、何の事だろう?
それに、避けては通れない状況って、どんな状況なのかな?
「人を――」
「お願いカルハ。それ以上は言わないで」
カルハさんが何か言いかけたけど、リステルの低い声が遮った。
「わかってるけど、お願いだから今は黙ってて」
私に背を向けた状態で、カルハさんと話しているせいで、リステルの表情は私からはわからない。
でも、少し焦っている感じがするのは、喋り方から伝わってくる。
「……はぁ。わかったわー。でもー、手遅れにならないうちにちゃんと話しておくのよー? まぁ話すだけじゃー意味は無いと思うけどー」
ため息をつき、少し呆れたようにカルハさんは言う。
「ごめんね、カルハ」
「いいのよー。でもちゃんと覚えておいてねー? 今までは避けることが出来たかもしれないけどー、もし目の当たりにしたら、一番苦しむのはメノウちゃんよ?」
「……わかってる」
そう言って、くるりと後ろを向くと、カルハさんはそのまま先頭を歩き出した。
「あはははー。何だか思っていた雰囲気と全然違いますね……」
突然そう言いだしたのは、困ったという表情がバッチリ張り付いたセレンさん。
「皆さんもっと仲良く冒険していると思っていたんですが、空気がちょっとピリピリしていますね……」
「セレン悪いな。初めの内だけだから、少し我慢してくれ。初めて護衛を経験する者がいるから、少しカルハが張り切っているだけだ。ある程度気を引き締めてかからないとダメなのは、間違いではないからな」
シルヴァさんが、セレンさんにフォローを入れている。
「私達は立場上、護衛任務に従事することが多かったんです。その中でもカルハは、魔法剣士と言うのも相まって、任務のリーダーを任せることがほとんどでした。中々に難しい事だからこそ、ああやって厳しい態度を取っているんですよ」
コルトさんも苦笑しつつそう話す。
「……護衛依頼を出さない方が良かったですかね?」
セレンさんが心配そうに聞く。
「いえ、逆に助かりました。お嬢様はともかく、三人は未経験です。ハルルが苦手だと言っていたのが少し意外でしたが」
「ハルル、守るのが苦手。フルールに来た時も、守りは全部一緒に来た三人に任せてた」
ハルルが唇を尖らせて話す。
「確かに、ハルルは守るより攻める方が合っているかもしれませんね。ハルルには常人離れした俊敏さと怪力がありますから。ただ、カルハがあなたを後衛に置いたのは、お嬢様以上に気配に敏感で、咄嗟の判断能力にも優れるからでしょう。状況判断能力はルーリが一番秀でていますが、経験が圧倒的に少ない。土属性の魔法が得意なこともあって、ルーリは防御が向いています」
「じゃあ瑪瑙お姉ちゃんは?」
ハルルが首を傾げて聞くと、
「メノウちゃんはねー、どちらかと言えば、リステルちゃんと同じ立ち位置にいても問題ないのよねー。ただー、あくまで経験を積んでからねー。まだまだ三人は周囲への警戒が出来ていないから、まずはそこをクリアしないとねー」
話を聞いていたのか、くるんと振り返ってカルハさんが答える。
「妾はどうすればいいのじゃ?」
「サフィーアちゃんの強みはー、やっぱり宝石魔法での防御ねー。あれだけ強固な結界を張れる人はそうそういないわよー? その代わりにサフィーアちゃんは運動能力が高くないからー、護衛対象の側にいてしっかりと守る事が大切でー、攻撃は二の次に考えていいわねー」
「なるほどのう。確かに妾は剣を持って大立ち回りなんぞ出来んから、その役目が適任じゃな」
納得したといった感じで頷いているサフィーア。
「さてー!」
そう言って、カルハさんは手をパンパンと叩いて私達の視線を集める。
「そろそろ魔物のテリトリーに侵入しますよー。それぞれの役目をしっかりと果たしてくださいねー。私達三人はあまり口出しはしませんから、頑張ってくださいねー!」
『はい!』
「はっはい!」
私達の返事に釣られたのか、緊張した面持ちでセレンさんも返事をしていた。
「セレンちゃんはどーんと構えていればいいのよー? 私達三人がいるからー、あなたが危険な目に合うような事は起こさせないわー」
そう言って、セレンさんに向かってウィンクをして見せるカルハさん。
そして、私の初めての護衛依頼が始まった! ――のはいいんだけど、ここの所の傾向として、草原での魔物との遭遇は少なくなってる。
今日も例にもれず、草原はとても静かで、私達の足音と風が通り過ぎる音だけが聞こえてくる。
「やっぱり報告通りなんですねー」
セレンさんがポツリと漏らす。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。私はもっと魔物に襲われると覚悟していたので、ちょっと拍子抜けと言うか、ほっとしたと言うか……」
「あはは。実は私もホッとしてたりします。でもここは魔物と遭遇しやすい位置ではないですから、まだまだ油断は禁物ですけどね」
ここから大体目的の巣までは、私達だけだと一日半かかる。
だけど、草原を歩きなれていないセレンさんの事も考えて、歩みはかなりゆっくり。
お昼休憩を挟み、そろそろ空が茜色に染まる頃、
「そろそろ野営の準備をしましょうかー。セレンちゃんは疲れてなーい?」
カルハさんが振り返り、野営の合図を出す。
「あ、はい。このペースなら大丈夫です」
地面に座り、ふうっと一息つくセレンさん。
「さてと! それじゃーちゃちゃっと作っちゃいますかー!」
袖を捲り、気合を入れて宣言する。
「おー!」
私の横で嬉しそうに両手を上げているハルルちゃん。
「はーい、ハルルちゃんは警戒の方ねー?」
「おー……」
カルハさんにそう言われて、しょんぼりと返事を返すハルルちゃん。
「警戒頑張ってね? ハルル」
そう言って頭をなでなでしてあげると、
「ん!」
っと満面の笑みを浮かべて、大鎌を再び空間収納から取り出し、周囲の警戒を始めた。
「メノウさんメノウさん! 何を作るんですか?」
セレンさんが目をキラキラさせて私を見ている。
「今日はミルク煮――、えっとミルクスープですね。具だくさんなので満足してもらえると思いますよ」
「それは美味しそうですね! 今から楽しみです!」
嬉しそうなセレンさんと話しつつも私は準備に取り掛かる。
薪を空間収納から取り出し、放射状に少し重ねて火をつける。
そこに網を敷き、寸動鍋をドスンと置く。
「メノウちゃーん。私も手伝うわよー」
「お願いしまーす」
そうして準備は着々と進む。
「それにしても沢山作るんですねー。ハルルさんがいっぱい食べるって聞いてはいましたけど、こんなに大きな寸動鍋いっぱいに作るとは思っていませんでした」
味を調えるために、器に少しよそって味見をする。
そんな私を見ていたセレンさんが話しかけてくる。
「もちろんハルルがいっぱい食べるのもありますけど、朝食の分も含まれてるんですよ」
うーん、バターをもうちょっと足そう。
もうこの量を作る事には慣れたけど、油断していると味が薄くなっちゃう。
「ハルルさんお昼はそんなに食べてませんでしたけど、いつもの事なんですか?」
「ハルルはいつも昼食の時は抑えてるんですよ。お腹いっぱいになると満足に動けなくなるからって」
最後に塩コショウで、最後の調整。
器に少しよそい、今度はカルハさんに器を渡す。
「でもー、ハルルちゃんのお昼の食べる量ってー、徐々に増えてるわよねー? ん、美味しいわー」
カルハさんからもOKが出たので、これにて完成。
「何でも、ついつい食べ過ぎてしまうみたいですよ?」
私とカルハさんはクスクスと笑い合う。
「さあセレンさん。夕食にしましょう!」
料理が出来上がったころには、茜色だった空が、一面星空に変わっていた。
「なにこれ凄く美味しい! ミルクの甘みとまろやかさの中に、お肉と野菜の旨味がしっかり詰まっています! 見た目やスープのサラサラ加減から、さっぱりした味なのかと思いましたが、くどくならない絶妙なバランスで油分とコクがある! 何より肌寒くなってきた夜に、この暖かいスープは体が温まって、緊張と歩きで疲れたこの体に染み渡る感じがしますー!」
先に食事をとっている私とルーリにハルル、カルハさんと、そしてセレンさん。
セレンさんが器によそわれた料理を口にすると、幸せそうな顔で料理の感想を言い出した。
……おー。
これが食レポってやつなのかな?
私こんなに上手に食レポできる自信はないかなー。
「メノウちゃん褒められてるわよー?」
焚き火を挟んで向かい側に座っているカルハさんが笑いながら言う。
「ありがとうございます。ちょっと大げさな気もするんですが」
嬉しいのは嬉しいんだけど、こうも褒められるとやっぱり気恥しい。
「そんな事はありませんよー! アミールさんとスティレスさんが残念がっていたのが良ーくわかりました。こんなに美味しい食事が毎回食べられるなんて、羨ましいです」
「瑪瑙お姉ちゃん、これでも手を抜いてるんだよ! 街にいる時は美味しいのいっぱい作ってくれるの!」
「これで手を抜いてるって、普段どんなに豪勢なんですか?」
ハルルの言葉に驚いた様子のセレンさん。
「流石に外にいる時に、何品も作るのって大変なんですよ。後は、どうしてもパンを避けたい気分の時に、お肉を焼いたりする程度です。その場合は、スープはさっぱり目の物にしますけど」
「メノウさんって冒険者じゃなくて、料理人でもやっていけそうな気がしますね」
「……あはは。考えた事もありませんでした」
私がこの世界の人間だったなら、それでも良かったのかもしれない。
「メノウさん。前向きに考えてみませんか? ギルドの食堂でもやっていけますし、何ならギルドから斡旋もできます。上流区のお店がいいなら、推薦状も書きますよ?」
早口でまくし立てるセレンさんに若干の違和感を覚える。
「どうしたんですか急に?」
ルーリが私と同じように違和感を感じ取ったのか、セレンさんに聞く。
「メノウさん、料理している時の方が生き生きとしていて、とても楽しそうでした。前々から感じていたことですけど、無理して冒険者なんてする必要はないと思うんです。メノウさんって冒険者になりたくてなったわけではないのでしょう?」
「私、そんなに無理しているように見えますか?」
「正直に話させてもらうと、かなり……」
セレンさんがそう言うと、少し重い沈黙が私達にのしかかる。
「あの、以前にもメノウさんにはお聞きしたと思うんですが、メノウさん。
以前にも問われたことがある質問を、再度私に投げかけるセレンさん。
「……」
「メノウさん、海を見たことはありますか?」
「ありますよ?」
「絵ではなく、実物を?」
「はい、それが何か?」
「これで一つはっきりしました。メノウさんは少なくとも、ハルモニカ王国の人間ではないですね?」
急にそんなことを言われて私は戸惑う。
「はぁ、メノウちゃーん。前にちらっと言ったと思うんだけどー、ハルモニカ王国には海は無いのよ……」
あちゃーと言った顔をするカルハさん。
そう言えば、アヒージョを作った時にそんな話をしたような気がする。
「セレンさん。今から話すことを誰にも話さないでくださいって言ったら、守ってくれますか?」
「ガレーナにもですか?」
そう言うセレンさんの顔は真剣そのものだ。
「メノウちゃん、セレンちゃんを信用できない訳じゃないけど、メノウちゃんの事を話すのはリスクが大きすぎると思うわ」
確かに。
のほほんとした口調ではなく、少し咎めるように私に言うカルハさん。
「……私は、この世界の人間じゃありません」
意を決して、口を開く。
私の言葉に、目を見開くセレンさん。
「……瑪瑙」
「瑪瑙お姉ちゃん……」
「メノウちゃん……」
「ごめんね? 隠し事をするのも、やっぱりいい気分はしないの。それに、セレンさんにはお世話になってるから」
そうして私は、簡単に今までの顛末を一通り語った。
「皆さんの顔色を見るに、メノウさんが嘘を言っているわけでは無いことはわかりました……。色々と合点もいきます」
目を瞑って何かを考えているような表情のセレンさん。
「わかりました。この話はガレーナにも言いません。いえ、聞かなかったことにします。安心してください。それから、事情も知らず、色々と突っ込んだ話をしてしまって、ごめんなさい。心中お察しします」
「いえ、こちらこそすみません。黙っていられれば良かったんですけど。どうしても後ろめたい気持ちが湧いてきてしまって」
「話を聞こうとした私が言うのも何なんですが、メノウさんは少し人が良すぎますね。これからは、一切誰にも話さないことを強くお勧めします」
「わかりました。気をつけます……」
「メノウさん」
「はい?」
「私達のいるこの世界は、メノウさんにとって、生き辛い世界ですか?」
セレンさんのその言葉に、ルーリもハルルもカルハさんも私をじっと見つめている。
どうしてそんなことをセレンさんが聞いてくるのかは、私にはわからなかった。
どう答えるか悩んでいると、ハルルが膝の上に乗って来た。
「瑪瑙お姉ちゃんは、この世界にいたらダメだよ……。絶対いつか耐えられなくなる。ハルル、苦しむ瑪瑙お姉ちゃんは見たくない。それにあの人、幼馴染の人と、約束してたでしょう? 戻るって。約束は守らなくちゃ」
ハルルの声は少し震えていた。
「ありがとうハルル」
そう言って、膝の上のハルルを抱きしめて、頭を撫でた。
そんな私の横にルーリが腰を下ろし、もたれかかって来る。
ルーリの横顔は、寂しそうだった……。
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