黒い津波
冒険者ギルドで報告と、これからの方針を話し合った私達は、再度草原に出るべく準備を整える。
ただ、解毒薬の製薬が終わるのを待つために、一日はフルールでお休み。
そのお休みも使って買い物を済まし、しっかりと休養をとる。
流石にみんなぐったりしていた。
そして休日を終え、私達は再び東の草原へ。
話し合った結果、初回と同様に七日間を目安に、探索することになった。
「そう言えば、この解毒薬って毒を受けた時に飲ませるんですか?」
小瓶に入れられた透明な液体を、光に当てながら聞く。
「敵がいないならそれでもいいんだがな。
シルヴァさんが答えてくれる。
「あまり効果は長く続きませんが、先に飲んでおくことでマヒ毒を防ぐ効果があるんです。多めに用意しているのは、予防用と、その効果が切れてしまい、マヒ毒を受けてしまった時の解毒用だからですね」
コルトさんが補足してくれる。
これを事前に飲むのか……。
虫から作られたお薬。
そう考えるだけでも、身も毛もよだつ気分になる。
どんな風に作られたなんて、考えないようにしよう。
私達が嫌な顔をしていたのを見ていたのだろう。
大人組が苦笑をしていた。
「一応、解毒の効果のほかにも、滋養強壮と美肌効果もあるって言われているわね。魔物が魔物だけに、あまり一般には出回らない高級品だったりするのよこれ」
アミールさんが笑いながら教えてくれる。
「でも虫……」
ハルルが口をへの字にして言う。
「まぁそうなんだが。お前達は良いよなぁ? まだ若いから肌とかキレイだもんな。美肌とか言われても興味湧かないかー」
スティレスさんが半目で私達を見る。
「あら? スティレスもお肌の事を気にしているなんて知らなかったわ。そんなことを言うなら、もうちょっと肌のお手入れに気を使いなさいよ。何なら教えてあげるわよ?」
アミールさんが笑いながら、スティレスさんのほっぺたをつついている。
「あ、いや。それは遠慮しとくよ……。あたしは化粧に金を使う位なら、酒とそのアテに使いたい」
「まーたそうやっておっさん臭いことを言う!」
スティレスさんとアミールさんはホントに仲がいいね。
「シルヴァちゃーん? もしかしてメノウちゃんに多めに捕獲させたのってー、実はそういう事ー?」
カルハさんがのほほ~んと言う。
「なっ?! そ、そんなわけ無いだろう! いや、少しは考えたが、今回はちゃんと事前準備のためだぞ!」
そんなカルハさんの一言に、あわあわと慌てているシルヴァさん。
あ、少しは考えたのね……。
「シルヴァはですね。ああ見えて案外、お肌のお手入れは小まめにしているんですよ。みなさんも、若いからってお手入れをさぼっていて、後で後悔をしないようにするんですよ?」
コルトさんが私達にコソっと話してくれた。
『はーい!』
「コルト! 聞こえてるぞ! お前だって気を使っているだろう! 私の空間収納に、三人分バッチリ化粧道具が入っているんだから、私が知らないわけ無いだろう!」
と、こんな風に呑気に話しながら東の草原に入っていく。
草原に入ると、会話はピタっと止み、風と風で揺れる草の音だけが聞こえるようになる。
前回は、キロの森方面へと進んだけど、今回は、草原の中央を進んで移動することにする。
「おかしいですね。小さな群れすらも発見できません……」
半日ほどが経った時、コルトさんが難しそうな顔で呟いた。
コルトさんが言った通り、私達は今まで一匹の魔物とも遭遇していない。
草原は、嫌な静寂に包まれていた。
結局、何も起こらないまま夜を迎えることになった。
そして、何百と仲間を引き連れて、赤い狼が牙を剥く。
「ウオォォォォォォォォン」
全てを食い破れと言わんばかりに咆哮をあげた。
私達は、野営の準備を済ませ、食事をしている最中だった。
遠吠えを聞き、シルヴァさんが指示を出す。
「エンゲージ! 照明魔法をっ!」
「「「「イルミネイトフレア!」」」」
私、リステル、シルヴァさん、カルハさんが、下位下級の火属性魔法を空に打ち上げる。
空に輝く火球が浮かび、周囲を照らす。
『――っ!』
照らし出された光景に、私達は言葉が出なかった。
見えたのは、黒い津波。
数えきれないほどの、巨大な狼の大群だった。
「コルト、ハルル! 二人はアミールとスティレスのカバーに入れ! 残りは魔法で出来るだけ蹴散らすぞっ!」
即座に指示を飛ばすシルヴァさん。
「我、解き放つは大地の怒り! その身に刻み、怒りの深さを思い知れ! ライオットクロー!」
天高く突き出した石の爪が、次々と振り下ろされ、狼を潰していく。
中位上級まで操れるようになった、ルーリ最大の地属性魔法。
「
カルハさんが解き放つのは、上位中級の火属性魔法。
空が
そして群れを飲み込むように覆い、次々と焼き殺していく。
「荒ぶる風よ! 全てを切り裂く竜となれ! さあ! 竜と共に天に散れ! トルネード!」
上位下級まで風属性の魔法を操ることができるようになった、リステルのトルネード。
それは、カルハさんの
「輝け! 数多の蒼玉よ! 夜天を
深浅様々な青色に煌めく宝石を空へと浮かべ降り注ぐ、サフィーアの宝石魔法。
詠唱して発動したため、その規模は先日の比ではない。
「貫け疾風! 万象全てを置き去りにし、万物全てを薙ぎ払え! 立ち塞がる愚か者よ、その身を
シルヴァさんが放つ、上位上級の風属性魔法。
轟音と共に、目にも止まらない速さで、一匹の薄緑色に輝く鳥が解き放たれる。
その鳥は、狼の群れを一瞬で貫いたかと思うと、後から遅れてやって来る暴風によって、跡形もなく薙ぎ払われる。
その威力は、大地を抉るほどに強烈だ。
「美しく輝く白銀よ! 我は全てに終焉をもたらす者! 今、我が眼前の子羊に、絶対なる死を与えん! 魂までも凍てつき滅びろ! アブソリュートエンド!」
私は、普段剣に纏わせているアブソリュートエンドを、魔法として発動する。
青い光が狼の群れの中心から球を描き、広がる。
その光に飲み込まれた狼は、程無くして全身が凍り付き、死を迎える。
上位下級の魔法の中でも、威力、範囲ともにトップクラスに高い魔法だ。
出来る限りの魔法でもって、波の大半を消滅させることができたけど、それでもまだ狼達は襲ってくる。
私達は、群れの直撃を避けるべく、左右に散る。
魔法使い組は、そのまま中央でサフィーアの宝石魔法で受け止め、一気に反撃に出ようとする。
「?!」
群れの大半が、横へそれたはずの私目掛けて突っ込んでくる。
マズイ。
これは接近戦で捌ける数じゃない。
ましてや、まともに突進なんて受けてしまえば即死してしまうだろう。
「瑪瑙っ!」
私とは反対側に移動したリステルが、焦った声で叫ぶ。
私はすぐさま群れから距離を取るべく、全速力で後方へ走る。
そこへ待ち構えていたと言わんばかりに、群れの狼より巨大な狼が複数、どこからともなく現れ、襲い掛かってきた。
このままじゃ、横から追いつかれてしまう。
私は剣の柄を逆手で持ち、剣に魔力を込め、抜き放ち、薄青く輝く刀身を勢いよく地面に突き立てた。
「グレイシャーブルー!」
私を中心に、怒涛の勢いで現れ出でる氷塊。
それは、一瞬で河のように流れ、周囲の存在全てを飲み込み、圧し潰しながら広がっていく。
氷は透明で、月明かりを透し、青色に輝いている。
「ふぅ……。使うならもっと離れてから使いたかったぁ」
地面に突き立てた剣を抜き、一振りして土を払ってから、鞘に納める。
この魔法……と言うか、上位中級には、色の名前が入っている魔法が、各属性にそれぞれある。
さっきカルハさんが使っていた火属性の「ヴァーミリオンカレス」
先日シルヴァさんが使っていた風属性の「シャトルーズバイト」
私が今使った水属性の「グレイシャーブルー」
他にもあるんだけど、この色の名前が付いた魔法は、使う際に注意が必要な魔法だったりする。
制御が非常に繊細と言えばいいのかな?
魔法自体もかなり広範囲かつ、高威力の魔法で、味方を巻き込みかねないのだ。
私が詠唱無しで咄嗟に発動してしまうと、超広範囲化に加えて、超高威力化してしまうので、若干苦手意識がある魔法。
まぁ私の場合、何も考えず詠唱無しで魔法を使ったら、どれも桁外れに威力と規模が上がっちゃうから、気をつけないとダメなんだけど。
今の所ちゃんとイメージして、コントロールできているから問題ないかな?
さっきは流石に余裕はあんまりなかったけど……。
「せめて最短詠唱だけはしたけど、みんなを巻き込んでないよね?」
そう独り言を言い、みんなの所へ急いで戻ろうとした時だった。
(メノウ! 気をつけろ! この襲撃の狙いは恐らくお前じゃ!)
頭の中にサフィーアの慌てた声が響くと同時に、焦る感覚が伝わってくる。
これは、
私が狙われてるってどういうこと?
警戒して正解だった。
後方から一直線に、私へ向かってくる五匹の巨大な狼を発見することができた。
その内の一匹の毛色は赤色だ。
「アイスシールド!」
私は、向かってくる正面にぶ厚く横幅も広い氷の盾を出現させ、まずは突進してくるのを防ぐ。
そして、左右に分かれる様に仕向ける。
激しい衝突音が響くけど、氷にはヒビ一つ入っていない。
「残念だけど、そう簡単に割ることができる強度にはしてないよっ! フリージングレイン!」
体当たりで足を止めた
まず一匹!
「サブリメイション!」
私は氷の盾に手をつき、一気に昇華させ、周囲を水蒸気で覆い、視界を潰す。
一匹目の死体のある方に走って、水蒸気の中から抜け出す。
「デポジション!」
回り込んだ一匹の
二匹目!
残り三匹。
出来れば赤く巨大な狼の
逆に、
警戒するに越したことはない。
立ったまま凍り付いた
「アブソリュートエンド!」
青く輝く剣が、
三匹目!
残り二匹!
次!
そう思った瞬間、赤い狼が大きな口を開き、咆哮をあげた。
ただの遠吠えじゃなかった。
耳をつんざくほどの爆音と衝撃が体を襲い、私の意識は刈り取られた。
意識を失う寸前に、誰かが私の前に飛び出したように見えた……。
――サフィーア視点――
妾達が狼共の波の大半を魔法で蹴散らした後、近距離で叩けるものは、波の直撃を躱すために左右に分かれる。
残念ながら妾は、見た目通りの幼い体つきなので腕力はなく、武器を振るうことはできない。
もちろん走り回っても、
じゃがその分、どの属性の魔法にも負けない程の、守りの強度を誇る宝石魔法が使える。
「煌めけ! 蒼玉の盾よ! 我が紋章を示し、絶海の如く全てを阻め! エスカッシャン・サファイア!」
蒼く煌めく結界にて、
が、そこで群れの多くが右側にそれ、ある一人に向かって殺到する。
「瑪瑙っ!」
リステルの慌てた声が聞こえる。
そして、残りの
当然の事じゃが、結界にはヒビ一つ入らん。
動きを止められた
その間にも、メノウは妾達からどんどん遠ざかっていく。
「こいつらの目的はメノウかっ! まずいっ!」
シルヴァが焦った声で叫ぶ。
「どういう事じゃ?」
「恐らくメノウが一番の脅威だと思ったんだろう。だから一気にメノウを私達から離れさせたんだ!」
シルヴァがそう言った瞬間、離れた場所から轟音が響いてくる。
「あれは……グレイシャーブルーかっ! サフィーア! 結界の維持に注意しろ! あの氷河が襲ってくるかもしれんぞ!」
「メノウはその魔法をあれだけの規模で使えるのかっ?!」
妾は結界を維持するために、魔力を注ぐ量を増やす。
じゃが、青く透き通る氷河はギリギリの所で止まり、妾達を飲み込むことはなかった。
(メノウ! 気をつけろ! この襲撃の狙いは恐らくお前じゃ!)
メノウに
「くっ! こういう時、メノウからの返事が聞けんのは、不便じゃのう! 誰かメノウの援護に行けんのかっ?!」
流石の妾も焦りを覚える。
「サフィーア! ここは私達が抑える! 行って! 瑪瑙をお願いっ! アースシールド!」
ルーリがそう叫び、妾の結界の前に石の盾を作る。
「――っ!」
ルーリの声に気圧されて、思わず妾は走り出してしまった。
戦力的に考えるなら、攻防バランスよく魔法が存在する地属性を操るルーリの方が、適任じゃろう。
何より妾は足が遅い。
それに、妾は守ることは得意でも、攻撃はあまり得意ではないのじゃ。
じゃが、そんな考えを無視するように、体は全力でメノウのいる方へ走っていく。
場所を見失いかけた時、向こうに巨大な氷の盾が現れた。
「あそこかっ!」
全力で走る。
巨大な氷の盾は、一瞬で水蒸気と変化し、辺り一帯に漂ったかと思うと、すぐに一点へと向かって収束する。
「メノウはとんでもない魔法使いじゃなっ! これは妾達が焦ったのは無駄じゃったかのう?」
そう思った瞬間じゃった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
明らかに遠吠えとは違う爆音と衝撃が、妾を襲った。
一瞬酷い耳鳴りと、眩暈を覚えてよろけるが、何とか耐えることができた。
目に入ってきたのは、メノウが膝から崩れ落ちる瞬間。
「今のはスタンハウリングッ?! 相手は
巨大な狼二匹の中に赤い狼がいるのを確認し、倒れるメノウの前に割って入り、詠唱する。
「煌めけ! 蒼玉の盾よ! 我が紋章を示し、絶海の如く全てを阻め! エスカッシャン・サファイア!」
蒼く輝く結界を妾とメノウを包むようにして、発動する。
「ふん。狼の魔物ふぜいが、妾の宝石魔法に傷一つでもつけられると思っておるのか?」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
赤い狼が声を上げる。
「無駄じゃよ。この結界は全てを阻む。無論、キサマの声すらもなっ!」
スタンハウリングらしき咆哮が聞こえた瞬間から、ルーリがこのことを予想していたのかと言う考えに至った。
「じゃが困ったのう? このままでは逃げられるぞ。まぁルーリがそんなことを許さんか」
相手がこちらに手出しをできないのと同様に、妾にも攻撃手段がない。
エスカッシャン・サファイアを発動しながら、別の魔法を使うことは、妾にはできんのじゃ。
「のう? ハルルよ?」
妾が問いかけると同時に、紅蓮の炎が
「許さない」
ハルルの怒りが具現化したかのような猛火が、大鎌から噴き上がっている。
赤い狼が、口を開いた。
「いかんっ! にげ――」
逃げろっと言い切る前に、ハルルは赤い狼の顎を蹴り上げ、顎を砕いてしまった。
その速さは、一瞬たりとも赤い狼に、声を上げさせることはなかった。
「お前は絶対っ! 許さないっ!!!!!!」
怯んだ隙に、すかさず上段から大鎌を振り下ろすハルル。
あまりの鋭さに、炎の残光だけが見え、赤い狼の首が弧を描いて飛んでいく。
ゆっくりと巨体が倒れていくのを、振り返りもせずに無視をして、こちらに走ってくるハルル。
「瑪瑙お姉ちゃん! サフィーア! 瑪瑙お姉ちゃんは大丈夫なの?」
蒼く輝く結界をゴンゴンと叩く。
……ハルルじゃと、この結界を壊せるかもしれんのう。
妾は少し背筋に冷たくなるものを感じ、結界を解く。
「恐らく大丈夫じゃ。スタンハウリングを至近距離で受けてしまったから、気を失っただけじゃろう」
そう言う妾の言葉を信じたのか、ほっと胸をなでおろすハルル。
そっと近づき、うつ伏せで倒れているメノウを仰向けにして、頬を優しく叩いている。
「瑪瑙お姉ちゃん。瑪瑙お姉ちゃん」
ペチペチ。
「ん……」
メノウは少し声を上げ、ゆっくりと目を開ける。
「っ?! って、あれ? ハルルとサフィーア?」
跳ねるように飛び起き、妾とハルルの顔を見て、キョトンとした顔になる。
「瑪瑙お姉ちゃん!」
そう言って、メノウに抱きつくハルル。
「そっか。また助けられちゃったんだね……。二人ともありがとう」
首のない赤い狼の亡骸に目をやり、悲しそうに笑い、礼を言うメノウ。
「私はみんなに迷惑をかけてばっかり……」
ハルルの頭を撫でながら、小さく呟くメノウ。
「「瑪瑙っ!」」
項垂れてしまったメノウに、リステルとルーリが飛びついてくる。
二人同時に飛びつかれて、押し倒されるメノウに、間に挟まれ潰されるハルル。
「「ふぎゅっ!」」
押し倒され、潰される二人が間抜けな声をあげた。
「無事でよかったっ!」
「瑪瑙怪我はない? 大丈夫?」
リステルとルーリがペタペタと体中を触り、服をはだけさせ、怪我を確認している。
「そっちはもう終わったのかの?」
この様子を見ていると、聞く必要も無い気がしないでもないが、念の為に聞いておく。
妾の言葉に、リステルとルーリは、メノウとハルルを引っ張り起こして、
「うん。こっちは終わったよ。怪我人も無し。っと言うか、大半を瑪瑙が持って行っちゃったから、割と後は楽だったよ」
リステルが笑いながら言う。
「ルーリは、
「ううん。でも、警戒はしていたわ。何をしてくるか情報が無い魔物相手に、私の地属性魔法を使うより、サフィーアの宝石魔法の結界の方が優れているのは、わかっていたから。無茶なお願いを聞いてくれてありがとうサフィーア。それにハルルもね?」
「んっ!」
嬉しそうにピョコピョコと飛び跳ねるハルル。
「ごめんね。みんなにまため――むぐーっ!」
謝ろうとしたメノウの頬をリステルが、むぎゅっと両手で挟んで遮った。
「今回は瑪瑙は悪くないんだよ! 相手が想像以上に賢かったのが原因。瑪瑙が悪いんだったら、この事態を防げなかった私達も悪いの!」
「シルヴァさんが言ってたんだけど、瑪瑙を一番脅威だと思ったんじゃないかって。それで、優先的に狙ったんじゃないかしら?」
「確かに、メノウはあ奴らにしたら脅威でしかなかったじゃろうな。お前さん、タルフリーンの時は、完全に手加減していたんじゃな。今回の事で、つくづくそれを思い知らされたぞ」
……メノウは今回の事でも、本気を出していないのではないじゃろうか?
ふと、そんなことを思ってしまった。
「私、もっと頑張らなくちゃ……。せめて今回みたいなことが無いようにはしなくちゃ……」
メノウは思いつめた顔で言う。
「瑪瑙? 魔法が使えるようになったのっていつ? 剣を持ったのっていつ? それに、魔物を知ったのっていつ?」
ルーリがメノウを優しく抱きしめて聞く。
「まだ全然時間が経ってないのよ? わからないことだらけで当然じゃない。今回の事は、私達も反省してるわ。だからお願い。思いつめないで?」
「うん。ありがとうルーリ」
メノウの顔に笑顔が戻った。
「それにしても、これで終わりなんじゃろうかの? これでまだ次があるとは考えたくないんじゃが……」
空気が緩んだのを感じて、妾は話を切り出す。
「
ルーリが言う。
「ふむ。可能性は無いわけではないのじゃな? 一応警戒をしておいた方が良いじゃろうな」
「それじゃあ、コルト達と合流しよ? 向こうも警戒しているだろうから、早く戻ってあげよう」
リステルの言葉に妾達は頷き、コルト達の元へ行く。
「「「メノウっ!」」」
「「メノウちゃん!」」
コルト達が安心したように声を上げ、走り寄って来る。
「サフィーアも無事でよかった……」
シルヴァは妾の顔も見て、ほっと一息つく。
「ルーリがサフィーアを行かせたときは、ハラハラしたんだが。あれ、スタンハウリングだったんだろ? 私かルーリが行っても返り討ちに合ってたよな」
「お前さんは風の上位上級の使い手じゃろう? スタンハウリングも風の魔法にあたるんじゃから、防げたのではないのか?」
「確かに防げなくはないが、それをしてしまうと、直接的な攻撃を防御できなくなってしまうからな。ルーリの判断は正しかったってことだ」
「ハルルが後から来たのは?」
「それもルーリの判断ですね」
コルトが答える。
「大半がメノウを追いかけて行って、グレイシャーブルーに飲み込まれましたからね。こちらがだいぶん楽になったんですよ。そこをすかさず、ルーリが判断をしてって感じです」
「メノウが目の前で倒れた時は、流石に肝が冷えたのじゃ……。あと少し遅かったらメノウは死んでおったかもしれん」
リステル達は、油断した時にメノウが酷い目に合ったと言っておったのう。
この胸の苦しさを、リステル達も味わったことがあるのじゃろう。
ここまで戻ってくる間、いつものように皆で手を繋いで戻ってきたが、誰一人として警戒を緩めてはおらなんだ。
「ご迷惑をおかけしました」
メノウが頭を下げる。
「メノウちゃん。謝ることはないのよ? メノウちゃんは凄く頑張ってたんだから」
アミールが、メノウの肩に手を乗せ、頭を上げさせる。
「そうだな。足を引っ張ってるって意味じゃー、あたしとアミールが一番だろう」
スティレスが頭をかきながら言う。
「そんなっ!」
そんな二人にメノウは反論しようとするが、
「はーいそこまでにしましょうねー? そんなこと言い合ったってー、誰も幸せにならないわよー? こんな死体の山がある場所で休憩は嫌だしー、どうせみんなしばらく目が冴えて眠れないだろうからー、さっさと移動しましょー?」
手を合わせて、のほほんとカルハが言う。
すると、
ぐぅ~。
っと、物凄い音が聞こえた。
「なんじゃ? 今の音は」
「ハルルお腹すいた……」
さっきまで元気そうにしておったハルルが、しぼんだ花の様にうなだれていた。
「夕飯の最中だったもんね」
メノウが優しくハルルの頭を撫でる。
「ハルル、魔法も使ったから余計にお腹ペコペコ」
「そうだったんだ。ありがとうハルル。それに、サフィーアもありがとう」
メノウの温かい手が、妾の頭に触れ、そっと撫でてくる。
「大したことはしておらん」
それにしても、頭を撫でられることが、こんなにも気持ちが良いものだとは思いもせなんだ。
たまにはこういった扱いも悪くはないのう……。
そんなことを考えている妾を、皆生暖かい目で見守っておるのを、妾は気づいておらなんだ。
まさか頭を撫でられている時の妾の顔が、物凄くふにゃふにゃになっているだなんて、
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