近づく危機
アミールさんに案内され、一足早く広い案内室へ。
ここは、キロの森の調査から帰ってきた次の日に案内された、一番広い応接室だ。
各々席に着く。
沈黙が痛い。
沈黙を破る様に、ぐ~ぅっと横から音が聞こえた。
私の隣に座っているハルルちゃんからだ。
私のマントを引っ張り、上目遣いで私を見る。
「瑪瑙お姉ちゃん。お腹すいちゃった……」
「そう言えば、魔法を結構使ってたね。ちょっと待ってね……」
何もない場所に手をずぶっと突っ込みつつ、何を出してあげようか考える。
ナッツ類とドライフルーツで良いか。
まだ旅へ出かける準備をしているわけじゃないので、これらはおやつ用で大量購入しているだけだ。
小皿を出して、そこにこんもりと乗っける。
「あっ! 私も欲しい」
そう言うのは、ハルルと反対側の私の隣に座っているリステル。
「私もー」
手を上げているルーリ。
さっきまでの沈黙は何だったのかな?
「お前さんらは賑やかじゃのう」
私と同じことを思ったのか、サフィーアが苦笑して言う。
「じゃぁサフィーアの分無しね」
ハルルが無慈悲なことをおっしゃる。
そして、小皿に乗せられたものを、もっきゅもっきゅ食べる。
「いや、いらんとは言っておらんぞ! あーこら! 妾の分も残すのじゃー!」
「まだあるからケンカしないの!」
お皿に次を乗せながら言う。
「喧嘩なんぞしておらん!」
口を尖らせて抗議するサフィーア。
反対側は反対側で、
「まぁまぁ美味しいけど、やっぱり瑪瑙のお菓子の方が良いよねー」
「そうね。瑪瑙のお菓子は甘くて美味しいからね。つまむ分にはこれでも構わないのだけどね」
「帰ったらいっぱい作ってもらおっと」
勝手なことをおっしゃっている。
リステルなんて、ちょっと前は泣いてたのに。
まぁ今みたいに笑ってくれている方が、安心するんだけどね?
そんなことをしていると、ドアがノックされて、控えていたアミールさんがドアを開けた。
セレンさんとガレーナさんが入ってきた。
入ってきた瞬間は、すごく真面目な顔をして入ってきたんだけど、私達がお喋りしながらおやつをつまんでいるのを見て、あからさまに呆れた顔をされた。
「皆さん……」
セレンさんが苦笑する。
それから、一緒に入ってきた職員のお姉さんに目配せをさせると、
「飲み物の準備をさせますね」
と、言ってくれた。
私の魔法で出した水は、飲めるんだけどね。
コップも空間収納にしまってあるし。
ただ、大っぴらにしない方が良いと言われているので、しないのだ。
「では、話をしてもいいか?」
今まで反対側の席で、腕を組んで座っていた鎧を着た女性、サルファーさんが話をしようとする。
「あ、コルト達が来るのを待ってもらってからでいいですか?」
一瞬部屋にピリっとした空気が流れたのだが、リステルのその発言で、ピリッとした空気がどこかに吹き飛んで行ってしまった。
流石にこれには、私も苦笑いを浮かべるのだった。
「あはははは……。そういえば皆さん。可愛らしい女の子が一人増えているようですが、その子は一体どうなさったんですか?」
セレンさんが乾いた笑いを浮かべつつ、サフィーアの事を聞いてくる。
「む、妾か。そういえば、自己紹介がまだじゃったのう。妾の名前はサフィーア。こんな見た目じゃが、二百十歳の
立ち上がり、優雅な所作でお辞儀をする。
「ジュエ……、えっ?!」
セレンさんの目がおもいっきり見開かれる。
「サフィーアとおっしゃいましたわね? 確かタルフリーンで、
ガレーナさんも驚いたような顔をして聞く。
「うむ。妾で間違いない。つい先日後進に譲っての。妾はお役御免になったのじゃ」
「ご本人様でしたか。大変失礼をいたしました。サフィーア様」
慌てて立ち上がり、頭を下げるガレーナさんとセレンさん。
「そうかしこまらんでくれ。様もつけなくていい。今はただの
「「ありがとうございます」」
ガレーナさんは落ち着いて着席しているけど、セレンさんの顔はカチコチに強張っていた。
そんなやり取りをした直後、コンコンっとドアがノックされる。
「ひゅい!」
セレンさんがノックの音に驚いて飛び上がり、変な声を上げた。
ふっ
クスクス
誰かが吹き出し、誰かがクスクス笑った。
あ、吹き出したのは私です。
その声に、セレンさんは顔を真っ赤にして、下を向いてしまった。
アミールさんがドアを開けると、スティレスさんが入ってきて、
「コルトさん達を連れてきたぞ」
と、告げる。
「失礼します」
そう言って、コルトさん達が入ってくる。
これで全員そろったことになる。
そして、サルファーさんが話を始める。
「改めて、風竜殺しの英雄達に、指名依頼を出したい。依頼内容は、東の草原の調査、魔物の討滅だ」
私達は前もって聞いていたから、困った顔をする程度で済んだけど、それを聞いたコルトさん達は、動揺を隠せないでいる。
特にガレーナさんは酷かった。
セレンさんから聞いていたのか、とても不愉快そうな顔をしている。
「たった四人に出す依頼内容ではありませんわ。サルファー。貴女、正気なのですか?」
ガレーナさんが機嫌の悪さを隠そうともせずに話す。
「もちろん、四人だけでやってくれと言うわけではない。人選は四人に任せる。何人連れて行ってくれても構わない。ただ、早急に依頼を受けて、東の草原に向かってもらいたいのだ」
「討滅依頼を出すのに急げとは、無茶にもほどがありますわ! 人を集めることだけでも、どれだけ時間がかかるのか、隊長である貴女ならわかっているはずですわ。何かあったのですね? それをきちんと説明なさいっ!」
ガレーナさんの厳しい声が響く。
その声に、唇を噛み、下を向くサルファーさん。
「……死人が出た。五人だ。五人死んだ。次はもっと増えるだろう」
「それは本当なのですか?! こちらにはそんな情報は入っておりませんわ!」
ガレーナさんが椅子から勢いよく立ち上がる。
「冒険者じゃないからな。警備隊が
赤い狼種の魔物。
ちょっと前に話題に上がった、
赤い狼種と言う言葉を聞いて、ガレーナさんとセレンさんの顔が一気に青くなる。
「問題はそれだけではない。魔物と遭遇する場所が、徐々に街に近づいている。それはギルドでもわかっていたことではないのか?」
「確かに。その報告は受けていましたわ。ただ、赤い狼種の発見報告はありませんでしたわ……」
ガレーナさんが動揺した声で言う。
「赤い狼種の魔物って、
私は手を上げて、質問をする。
「
ゆっくり椅子に座り直し、私の質問に答えてくれたガレーナさん。
「記録を見る限り、二百年前以前にも、
セレンさんが補足を入れてくれる。
「もうなりふり構っていられる状態ではないんだ。無茶も無礼も承知の上だ! 頼む! どうか依頼を受けて欲しい!」
サルファーさんが立ち上がり、ガバっと深く頭を下げる。
断ることは、簡単だ。
リステルが言っていた通りだと、この依頼はすぐには終わらないのだろう。
長期間かかるだろうこの依頼を受けてしまうことは、私の元の世界に帰る時間もその分伸びるという事。
最も、探す旅に出るという事が決まっているだけで、帰る方法が見つかったわけではないんだけど。
それでも、私は知っているんだ。
この街に住んでいる人達を。
フルールの街の全てを知っているわけじゃない。
思い入れも、きっとサルファーさんに比べたら、少ないほうだろう。
私達がこの依頼を断ってしまったことで、この街が襲われたら?
バザールで会ったおばさんが死んでしまうかもしれない。
セレンさんやガレーナさんが死んでしまうかもしれない。
そう考えると、とても怖かった。
「――受けようか。この依頼」
自然とそんな言葉が出てきた。
「「瑪瑙?!」」
「瑪瑙お姉ちゃん?」
私の言葉に、驚いたようにみんな私を見てくる。
「メノウよ。お前さん、この依頼を受けるという事が、どういうことかわかっておるのか? 妾も厄介事を頼んだ身故、偉そうなことを言えた義理ではないが、この依頼はそれ以上に厄介じゃぞ?」
サフィーアが私の目をじっと見つめて言う。
「わかって……、うーん。正直ちゃんとはわかってない気がする。でも、この街が襲われる可能性があるって聞いて、無視するのは、嫌かな?」
そして、私は続ける。
「あっ! もちろん、みんなが断るって言うんなら、私はそれで構わないと思う。私一人で勝手に決めるわけにもいかないからね? もしみんなが手伝ってくれるんなら――」
「短期間で終わらせられるように、私は全力で挑むよ!」
グっとお腹に力を込めて言う。
「はぁ。安全に旅がしたいって思っても、中々上手くいかないねー」
「そうね。瑪瑙と出会ってから、大変なことばっかりよね。でも、私もフルールに危機が迫っているって聞くと、じっとはしていられないかしら」
ため息をつき、上を見上げるリステルと、苦笑するルーリ。
「瑪瑙お姉ちゃんが頑張るなら、ハルルもっと頑張る!」
私の手をぎゅっと繋ぐハルル。
「お人好しじゃのう。そんなお前さん達だから、妾も共にありたいと思ってしまうのだろうな」
腕を組もうとして、片方の手をハルルに握られるサフィーア。
サフィーアの顔は笑顔だった。
「皆さん。本気で受けるつもりなんですか?」
心配そうに私達の顔を見るセレンさん。
『もちろん!』
五人全員が、声をそろえて肯定する。
「リステル様が受けるんだったら、私達も参加させてもらおうか」
シルヴァさんが手を上げる。
「当然です。もうちょっと人数が欲しいところですけどね。正直この四人だと、本当に短期間で終わらせてしまいそうです」
コルトさんが苦笑する。
「こんな面倒な依頼ー。さっさと終わらせてしまいましょー」
カルハさんは相変わらずのほほ~んと言う。
「なぁガレーナ、セレン。私も参加していいか? もちろんリステル達が参加を許可してくれるならだけどな」
突然スティレスさんが、声を出す。
スティレスさんの言葉に、驚いた様子のガレーナさんとセレンさん。
「あースティレス。私が言おうとしていたのに! リステルちゃん達みたいに強くはないけど、少しくらい戦力の足しになるのならって思ったのだけど。どうかしら?」
アミールさんもそれに続く。
流石にどれだけ強いとか、私にはわからないので、リステルを見る。
この二人の強さは、リステルが良く知っているだろう。
「歓迎しますよ! っと言いたいところですが、危険ですよ?」
リステルが声を低くして、脅すように言う。
「当然承知の上で言ってるぞ! な? アミール」
「ええもちろん! やっぱりお邪魔かしら?」
リステルの言葉に全く動揺せずに、二人は言う。
「そうですか。私としては、二人の強さは良く知っているので、参加してもらえるなら心強いです!」
リステルはニコっと笑って、参戦を受け入れる。
「……ありがとう。感謝する」
サルファーさんがお礼を言い、頭をまた、深々と下げる。
私達のやり取りを、ぽかんとした顔で見ていたガレーナさんとセレンさん。
ガレーナさんはため息をついて、
「皆様には毎度驚かされるばかりですわね」
そう言うと、真剣な顔つきになり、
「セレン。冒険者ギルドは、全力でバックアップをいたしますわ。まずは、この方達が憂いの無いように、フルールの街の治安維持を優先。そして、万が一にも魔物がこの街に侵入することがないように、東門近郊を防衛する。この二つを主軸に、冒険者に依頼をだしますわ」
「わかったガレーナ。治安維持の方は信用できる人に声をかけるわ。今度は失敗しないように、全員私が選ぶよ!」
ガレーナさんの言葉に、気合の入った声でセレンさんが言う。
「皆様。この街を、フルールをよろしくお願いします。それから、アミールさんとスティレスさんの事もよろしくお願いします。二人はもう、このギルドには必要な存在ですから」
「よろしくお願いします」
ガレーナさんとセレンさんが私達に頭を下げた。
依頼を受けることになったのなら、次は作戦会議だ。
冒険者ギルド側の情報と、警備隊側の情報を見ながらどう行動するかをみんなで考える。
一応私も考えるけど、素人で、しかも戦略とかさっぱりわからない私が考えても、あんまりお役には立てないけどね。
現状一番の危機は、魔物が街に侵入してしまうこと。
救いなのが、空を飛ぶ魔物ではないと言う所と、外壁を壊すほどの破壊を
それこそ、災害級の魔物でもない限りは、外壁なんてそうそう壊せないらしい。
という事で、私達は東門から草原に入り、北東方面、つまりキロの森方面へ向かい、魔物を順次倒して進むことになった。
ここまでは、首都ハルモニカへ行く前にやっていた常設依頼と変わらない。
ただし今回は、野宿をしながらだ。
魔物の数を減らすことも、討滅依頼には含まれるので、中々辛そうだ。
とりあえずは、一週間を目安に草原に出ることになった。
「とりあえず」と言うのは、どれだけの規模で魔物が襲ってくるのかが、あくまで報告でしかわからないことと、私達がどれだけ魔物に対応できるかがわからないからだ。
魔物の動向は流動的で、報告通りには行かない可能性が高いと言われた。
そして、私達の処理能力を上回る規模で襲ってくるのなら、即撤退も考える必要がでてくる。
「これは、買い物をやり直しだね」
私は腕を組んで言う。
今日買った分はおおよそ二日分。
大量には買ったけど、それくらいですぐに無くなってしまう。
「まさかこんなにすぐに、依頼で野宿するなんて思ってなかったからね。テントももう少し大きいサイズが欲しいわ」
ルーリが買うものリストに追加をする。
私達は、サフィーアが加わって、五人のパーティーになった。
二人見張りで起きておくとしても、今のテントは三人寝るには少し狭い。
「どうせならおっきいのがいい!」
ハルルがぴょんぴょん跳ねながら、手を上げて言う。
普通なら荷物になる物は、忌避されるべきなのだろうけど、そこは私達魔法使い。
空間収納という便利な魔法があるので、大きなテントでも一向に問題ない。
私なんて、食料を山ほど買い込む算段をしている所だ。
「リステルちゃん。申し訳ないんだけど、私とスティレスの分の荷物もお願いしていいかしら?」
遠慮気味にアミールさんが申し出る。
「もちろん! 最初からそのつもりでしたよ!」
リステルは快諾する。
アミールさんとスティレスさんは魔法使いではない。
一緒にキロの森へ行った時は、二人分の荷物を最小限に留めて、二人で分けて持ってきていた。
「それじゃー、今から買い出しだね!」
「ちょっと待つのじゃ。当初の目的を忘れてもらっては困るぞ?」
おっとっと。
そうだそうだ。
元々ここに来た理由は、サフィーアを冒険者ギルドへ登録するために来たんだった。
「当初の目的ですか? 何か御用でしょうか?」
私達の会話に、セレンさんが首をかしげて訪ねてくる。
「妾を冒険者ギルドに登録してもらいたいのじゃ」
「え? サフィーアさ……んも、もしかして討滅依頼に参加するんですか?」
セレンさん、今"様"って言いそうになったでしょ?
「もちろんじゃ。皆が行くのじゃ。妾も行かんでどうするか」
胸を張るサフィーア。
「戦闘スタイルをお聞きしても?」
渋々と言った感じで、セレンさんが聞く。
「魔法使いになるのう。これでも水属性の魔法を中位上級まで使えるぞ。そして妾は
「あはははは……。五名全員が、魔法が使えるパーティーなんですね。ある意味凄いですね」
セレンさんが乾いた笑いを浮かべている。
そう言えば、魔法使いって珍しいんだっけ?
ちょこちょこ見かけるし、私達全員が魔法を使えるから、すっかり忘れてた。
「それでは登録をするので、受付まで行きましょう」
そうして、私達はセレンさんの後について行き、サフィーアの登録を済ませた。
今回はこっそり登録料を無料にしてくれた。
「内緒ですよ?」
っと、人差し指を口に当て、ウインクをしながら言った。
やっぱりセレンさん可愛いね!
顔に傷が残らなくてほんと良かった。
「さてそれでは。これより、買い出しを始めたいと思います!」
私の宣言に、
『おーっ!』
と、みんなが意気込む。
出発は明後日になった。
流石に、準備に休息にと考えると、明日直ぐは無理だと言う話になった。
サルファーさんももちろん了承している。
始めは、サルファーさんも討滅依頼に着いてくると言い出したのだが、丁重にお断りした。
信用していないわけではないのだけど、私達は何だかんだで繋がりがある。
そこに、実力がまったくわからない人を加えるのは、こちらとしても不安があった。
ハルルの元パーティーメンバーも、フルールにまだいるそうなので、そのメンバーを加える? って話にもなったんだけど、こっちはセレンさんに止められてしまった。
今その三人は、街の治安維持活動を頑張っているらしい。
キロの森の調査から帰ってきてからの三人は、心を入れ替えたように、大人しく真面目に冒険者をしているそうだ。
あの時、仲良くした甲斐があったのかな?
そんなわけで、総勢十名のパーティーになった。
討滅依頼を受けるパーティー人数ではないと、ガレーナさんとセレンさんに呆れられてしまった。
今回の規模なら、普通は百人くらいは集めると言われた。
まぁ二十人集まって、連携が取れなくて足の引っ張り合いが起こったのだ。
百人集まってしまったら……。
うーん考えたくもない。
みんなで必要な物を買いに行く。
最重要事項は、食料の確保。
なので、私が仕切っている。
保存食は勿論の事、野菜やお肉も大量に購入する。
穀物類は一週間くらいだったら普通に持つんだけど、葉物やお肉はそうはいかない。
もちろん、
「やっぱり空間魔法も便利だけど、
アミールさんが、感心しながら私達を見る。
「だな。野宿する時に、調理は必要になるが、美味いもんが食えると考えると、やる気も出るもんだ」
アミールさんとスティレスさんの亡くなったパーティーメンバーで、ジンクさんと言う男性が、魔法使いだったそうで、空間魔法も
「リステルちゃんがラズーカで少しの間一緒だった時は、食事事情が一気に改善されて、嬉しかったわね」
「居なくなった後のメシのまずさったら、無かったな! みんな不味そうに保存食食ってたっけ」
懐かしむように、それから、少し悲しそうに笑う二人。
「今は瑪瑙がいるから、もっと美味しい食事ができますよ」
リステルも寂しそうだ。
「そうね。メノウちゃんの作るお料理は絶品だものね! また楽しみにしているわねメノウちゃん!」
「今回は材料を切ったりするの、手伝ってもらいますからね?」
「それぐらい、いくらでもやってやるさ!」
「言いましたね? しっかり頑張ってもらいますから、覚悟しててくださいね!」
「はーい」
「任せろ!」
私達は笑いながら買い物をする。
寂しそうな顔をする三人が少し心配だったけど、大丈夫そうだ。
「ハルモニカから帰ってきて、もうちょっとゆっくりしたかったんですけどねぇ」
コルトさんがため息をつく。
「確かにな。中々上手くはいかないもんだ」
シルヴァさんも肩をすくめる。
「じゃー、終わったらみんなでパーッと騒ぎましょー?」
カルハさんがのほほ~んと言う。
「はい!」
シュビっとハルルちゃんが手を上げる。
「はーい。ハルルちゃん」
カルハさんがハルルを指差しする。
「瑪瑙お姉ちゃんのご馳走でパーティーがいい!」
すると一斉に、
『いいねー!』
と、同意する。
「メノウちゃんメノウちゃん! お酒のアテをいっぱい作ってほしいわ!」
アミールさんが、私をキラキラした目で見る。
「それは良い考えじゃ。メノウの手料理を一度しか味わってないからのう。楽しみが増えると言うものじゃ」
サフィーアも笑いながら私を見る。
「それじゃー頑張って、この面倒臭そうな依頼を、さっさと終わらせちゃおう!」
リステルが元気よく声を上げる。
『おー!』
それにみんなが手を上げて答える。
「お手伝いはしてもらいますからね!」
私はみんなの前に立ち、腰に手を当てて言う。
しつこいかもしれないけど、何度だって言ってやる。
「「もちろん!」」
腰に当てた私の腕を、リステルとルーリが組む。
そうして、私達の準備は着々と進んでいくのだった。
笑い合いながら買い物をしつつも、私達は誰も気は抜いていない。
とても危険なことに、これから身を晒すことを。
恐らく私だけが、事の重大性を完全には理解できていないだろう。
街の危機だとか、魔物が襲ってくると言われても、あんまりわからない。
だからこそ、私は全力で挑むのだ。
私の中では依頼はもう始まっている。
だからこそ、この買い物も全力で挑んでいるのだ。
楽しむのも全力よ!
食材だけでなく、他の備品の買い物も済ませる。
新しいテントに、薪とかね。
私達五人の分は私の空間収納に。
アミールさん達の分は、リステルの空間収納に。
コルトさん達の分は、シルヴァさんの空間収納に。
買い物を済ませた私達は、全員ルーリの家へ集合する。
親睦会もかねて、お食事会になったのだ。
作るのは私とカルハさん。
アミールさんも手伝ってくれるそうだ。
みんなの幸せな顔を見るために頑張ろう!
あ、サフィーアとコルトさんとシルヴァさんは、もう既に遠い目をしてる。
そんな目をしても、切る材料は減りませんのでお気をつけあそばせ!
なんだかんだ言って、キャーキャー騒ぎながら楽しく準備をして、お夕飯を大量に作った。
「相変わらず凄い量だなー」
苦笑しながらスティレスさんが言う。
「んー美味しい!」
「ハルルちゃんが良く食べるからね」
ハルルがもっきゅもっきゅと美味しそうに食べる姿を見ながら、アミールさんは笑顔で言う。
「皆で騒ぎながら夕飯の準備をすると言うのも、中々に楽しい物じゃな」
サフィーアがお上品に食べながら言う。
「そして美味い! 皆が瑪瑙の手料理がいいと、何度も言うわけじゃな」
「カルハも腕を上げましたねー」
コルトさんが嬉しそうに言うと、
「先生が良いからねー。これでもメノウちゃんにはまだまだ敵わないのよー?」
カルハさんが恥ずかしくなることを言ってくる。
「メノウの料理は、不思議と温かさを感じるんだよな」
シルヴァさんも褒めてくれる。
「もちろん、愛情たっぷり込めてますから!」
そうして、楽しい親睦会はお開きになった。
次の日はゆっくり休んでも良かったんだけど、冒険者ギルドに行くことにした。
事前にサルファーさんにもちゃんと伝えている。
念には念を入れて、魔物の同行の報告を聞くためだ。
「警備隊には、大した動きは無かったようだ」
と、サルファーさん。
「こちらは昨日、東の草原に討伐に出た冒険者パーティーが、魔物と接触した大まかな場所ですね。やはり徐々にですが、街に近づいているようですね……」
セレンさんは私達に、そう報告をする。
「遭遇したのは、黒い狼だと言っていたことから、間違いなく
「逃げ切れたんですか?」
セレンさんの言葉に、疑問を投げかけるルーリ。
「ええ。私も疑問に思ったのですが、必要以上に追ってはこなかったようです」
その言葉に、みんなが眉をしかめる。
「間違いなく、群れを統率しているリーダーがいますね。それも恐らくかなり頭が良い」
ルーリが難しそうな顔で話す。
そもそも、
突撃狼と言われていることからも、その性格はわかりやすい。
ただ、これが
初めて私が遭遇した時に、私が一番のウィークポイントだと気づき、
あの巨大な赤黒い狼と、戦わなければいけないのかな?
あの時はリステルとルーリがいて、私の魔法も偶然発動したから勝てたようなものだ。
……。
大丈夫。
今は三人だけじゃない。
心強い仲間が沢山いる。
私はぐっと両手を握りしめ、気合を入れ直す。
次の日の早朝。
東門を出た私達を待っていたのは、助けを求める人の、叫び声だった。
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