そして、花火が消えた

足許も気にしないで走っていました

きっと星も月も霞んでいました

正直ぬくもり以外はどうでもよかったのです


ただただ打ちあがる大輪を眺めては

歓声をあげるほかには言葉もなく

きみの手だけをしっかり離しませんでした


線香花火の儚さに自分の人生を見た

ぼくの手から小さな夕日が落ちます

無常すら感じないこんな斜陽もいいなと思った


火薬の匂いがきみの残り香のようで

似合いはしないけれど蘇るのです

夏の夕べはきみのいろんな匂いがしてきます


草いきれのなかにひとりきりです

いつから気づいていたのでしょうか

すべては過去になり誰もが終わりを迎えることを


夢中だったことや楽しさや涙も

かけがえのないとはこういうことか

ぼくの足は木の根のように高台に立ち尽くします


そして花火が消えた

目蓋を閉じて脳裏に描くけれど

風がぼくから香りを奪い去ってゆきます


そして、花火が消えた





20210801

深夜の二時間作詩

第120回「そして、花火が消えた」で終わる作品

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