赤い雨

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 人間は、歩かなくても何でも手に入る。

 どこにだっていける。


 そんな事が当たり前になった時代、世の中にある変化が起きた。


 雨が降りやまない。

 ずっと降り続けている。


 赤い雨が空から降り続けて、それから何日も経った。

 雲一つない空なのに。


 晴れ渡った空から赤い雨が降り続いているのはおかしな光景だ。


 だから、始めはこのおかしい現象に、みんな驚いていた。

 世界中の人が、なぜ、どうしてと首をかしげていた。


 何とかして原因をつきとめようと頑張っていた。


 一部では、この世の終わりだと叫ぶ人達もいた。

 科学に頼り、自分の足で進む事を忘れた人類への罰だと。

 それで、一時期は治安も悪くなった。


 けれど、一か月しても、一年経っても世界は終わらなかったから、人々は慣れてしまっていた。


 だから、どこからどうしてどうやって振ってきているのか分からない赤い雨は、今日も平然とした顔で降り続いている。


 手のひらをさしだせば、いつも通りそこに落ちてくる。


 ポツリと落ちる赤い雨粒、けれど後には残らない。


 雨は、何かにあたった瞬間消えてしまうからだ。


 だから、雨が降り続いていても洪水になる事はない。


 町が沈む事もない。


 この雨で人は困らない。


 誰も、泣かない。苦しまない。


 ただ、赤い雨は我が物顔で自分の存在を主張し続けるだけだった。


 一年経った頃、世の中にいる占い師が、語り始めた。


 赤い雨の正体について。


 雨は神様の流した血だと。


 世界はもうすでに止まっていてもおかしくなかった。


 けれど、神様が無理をして動かし続けていた。


 だから、人には払えぬその対価を、神様が払う事になった。


 しかし、今まで傷つかなかったのに、血が流れだしてしまったのだと。


 それが本当なら、人間達は神様に感謝しなくてはいけないだろう。


 けれど、それを本当だと思う人間は多くはなかった。


 やがて雨の量が日に日に増えていった。


 実体のない雨だから、町は沈む事がない。

 人が生活に困る事が無い。


 ただ、目の前が赤に染まる。


 人々は血のような赤い景色の中で日常を過ごした。


 そしてやがて、滝のような雨が降る頃。


 唐突に世界は終わった。


 なぜ、という暇もなく。


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